バッドフィンガーの
『ノー・ダイス』は、
その後のパワーポップや
ブリットポップに影響を与えた傑作

『No Dice』(’70)/Badfinger

『No Dice』(’70)/Badfinger

70年代初頭にいくつかの名曲をリリースし、世界的な人気を博したバッドフィンガーであったが、悪徳マネージャーに引っ掛かったばかりに給料すら支払われず、リーダーで名ソングライターのピート・ハムは極貧の中で自死を選び、失速していく。彼の死後は一旦解散するものの、残されたメンバーでグループは存続。しかし、ハムと並ぶ名ソングライターのトム・エバンスも自殺しグループは壊滅する。今回取り上げる『ノー・ダイス』はバッドフィンガーとしての実質的なデビューアルバムで、大ヒットした名曲「嵐の恋」と多くのカバーバージョンを生んだ「ウィズアウト・ユー」を収録した彼らの最高傑作だ。

アイヴィーズからバッドフィンガーへ

彼らは当初アイヴィーズと名乗り、ビートルズと同じくアップルレコードと契約。ソングライティングやリードヴォーカルが似ていることもあって、ビートルズの弟分として紹介されることが多かった。69年にアイヴィーズ名義のアルバム『メイビー・トゥモロウ』を完成させるが、先行シングルのセールスが芳しくなく英米での発売は見送られ、日本、ドイツ、イタリアのみでのリリースとなった(これらの国では先行シングルがヒットしたため)。

翌70年にバッドフィンガーと改名し『マジック・クリスチャン・ミュージック』で再デビューを果たす。このアルバムは途中までアイヴィーズとしてレコーディングされており、リリース前後にメンバーの入れ替えもあったので、僕自身はバッドフィンガーのアルバムとしてはとらえていない。しかし、そうは言っても主要なメンバーや曲作りの面では確かにバッドフィンガーのものであるから、一般的にはこの『マジック・クリスチャン・ミュージック』がデビューアルバムとして扱われている。このアルバム、僕が中学生の時に何人かの同級生がリアルタイムで購入し絶賛していたので聴いてみたが、ビートルズ(ポールとジョンにそっくり)のコピーバンドだと勘違いするほどビートルズに似ていたぐらいの印象しかなかったのだが、聴き直してみるとよくできたアルバムである。ただ、佳曲は揃っていても名曲がないのが残念なところ。日本でのみシングルカットされた「明日の風(原題:Carry On Till Tomorrow)」はヒットしており、日本でバッドフィンガーのファンは少なくなかったと言えそうである。このアルバムは全米チャートで55位まで上昇する。

アップルレコードよりデビュー

アイヴィーズ時代の彼らがアップルレコードと契約した頃、ビートルズは解散騒動の最中で、さまざまな面でレーベルの問題が山積していた。69年にアラン・クラインがアップルの経営アドバイザーに就任し、大掛かりなリストラを行なったことでアルバムのプロモーションも中途半端になってしまっていたのである。何の因果かは分からないが、当初から彼らは悲運であった。『マジック・クリスチャン・ミュージック』はポール・マッカートニーやジョージ・マーティンの参加による話題性もあって、デビュー作品としては成功したと言えるだろう。この作品でその才能を認められたピート・ハムとトム・エバンスは、ビートルズのメンバーにも鼓舞され、曲作りに磨きをかけていく。

OKMusic編集部

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