バッドフィンガーの
『ノー・ダイス』は、
その後のパワーポップや
ブリットポップに影響を与えた傑作

本作『ノー・ダイス』について

前作での至らない部分を見つめ直し、パフォーマンス強化のため新たにジョーイ・モランドを迎え入れ、ピート・ハム、トム・エバンス、ジョーイ・モランド、マイク・ギビンズというバッドフィンガー最高の布陣となる。前作と比べるとロックフィールを強めており、のちのパワーポップやブリットポップのもとになるような音作りと、キャッチーで切ないメロディーが同居した個性的なグループに成長している。本作には「嵐の恋(原題:No Matter What)」をはじめ、ニルソンのカバーが全米1位を獲得した「ウィズアウト・ユー」、ティム・ハーディンのバージョンで知られる「ミッドナイト・コーラー」など、ビートルズの楽曲群にも負けないぐらいの名曲が揃っている。

収録曲は全部で12曲。上記の3曲は別格としても他の曲ももちろん平均点以上の出来であり、全般的に美しく切ないメロディーが目白押しで、ピート・ハムとトム・エバンスはひとりでも共作でもソングライティングが素晴らしく、第3世代ブリティッシュポップの底力を見せる。ちなみに「嵐の恋」は全米チャート8位、全英チャートでは5位という結果で、アルバムチャートでも全米28位に到達しており、アップルレコードのゴタゴタの中でここまでの結果を残せたのは、やはり本作の普遍的な魅力がリスナーに伝わったからだと思う。

本作のリリース後、ジョージ・ハリソンが主催した『バングラデシュのコンサート』(‘71)にも招かれてステージに上がっている。その時のライヴ映像ではハリソンやクラプトン、レオン・ラッセルらに囲まれながら、緊張しまくりの初々しい姿がとらえられている。

悲劇としてのバッドフィンガー

『ノー・ダイス』の成功後も彼らの創作欲は衰えず、続くアルバム『ストレート・アップ』(‘72)でも「嵐の恋」に負けず劣らずの名曲「デイ・アフター・デイ」(全米4位、全英10位)や「ベイビー・ブルー」(全米14位)が収録されるなど、ここで彼らはスターグループの仲間入りを果たしたと言えるだろう。

悪徳マネージャー、スタン・ポリーは1970年から彼らのマネジメントを担当し、就任後すぐにメンバーと揉めることになるのだが、そのままズルズルと騙され続けてしまう。アップルが倒産し、『ストレート・アップ』リリース後はワーナーと契約する。しかし、この契約はメンバーには過酷な内容でポリーだけが得をするえげつない内容だった。ポリーとの衝突で創作どころではなくなってしまった彼らは良い作品を作れず、ピートは給与の支払いがストップし、日常生活も困難になるまで追い込まれてしまう。そして、彼は1975年4月24日、自宅ガレージで首吊り自殺をするのである。まだ27歳の若さであった。そして、バッドフィンガーは解散することに。数年後、エバンスとモランドが中心となってグループを再始動させるが、結局、1983年11月にエバンスも自宅の庭で首を吊り、バッドフィンガーというグループは消滅する。本作『ノー・ダイス』に収録された彼らの代表曲「ウィズアウト・ユー」ではピートの悲痛なまでに訴えかけるようなヴォーカルが聴けるが、すでにこの時点でバッドフィンガーの悲劇を予感させるような真に迫った演奏になっているのが怖いぐらいである。

もし彼らのアルバムを聴いたことがなければ、これを機会にぜひ聴いてみてください。『ノー・ダイス』と『ストレート・アップ』には、いつまでも決して古びない音楽が詰まっていると思う。

TEXT:河崎直人

アルバム『No Dice』1970年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. アイ・キャント・テイク・イット/I Can't Take It
    • 2. アイ・ドント・マインド/I Don't Mind
    • 3. ラヴ・ミー・ドゥ/Love Me Do
    • 4. ミッドナイト・コーラー/Midnight Caller
    • 5. 嵐の恋/No Matter What
    • 6. ウィズアウト・ユー/Without You
    • 7. ブラッドウィン/Blodwyn
    • 8. ベター・デイズ/Better Days
    • 9. イット・ハッド・トゥ・ビー/It Had to Be
    • 10. ワットフォード・ジョン/Watford John
    • 11. ビリーヴ・ミー/Believe Me
    • 12. ウィアー・フォー・ザ・ダーク/We're for the Dark
『No Dice』(’70)/Badfinger

OKMusic編集部

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