バンドのイメージを偏ったかたちで伝
えるMC5の超問題作『Kick Out The J
ams』
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、プライマル・スクリーム、そして日本のギターウルフら、多くのバンドがカバーした衝撃のロックナンバー「キック・アウト・ザ・ジャムス」を含むMC5のデビューアルバム。パンクおよびヘヴィメタルの源流と謳われ、未だに絶賛されているこのアルバムの魅力と、その後の時代に与えた誤解について考える。
高校の同級生たちが60年代半ばに結成したデイトロイト(=モーターシティー)の5人組、MC5が69年にリリースしたデビュー・ライヴアルバムである。デビューアルバムがいきなりライヴ盤だなんて、それだけでも期待はぐーんと上がるというものだが、パンク/ヘヴィメタルの先駆者と謳われるこの名盤中の名盤を、長年、聴きたい聴きたいと思い続けて、その念願がようやく叶い、初めて聴いた時のことは、今でもしっかりと覚えている。
なぜなら、思いっきりずっこけたからだ。
それはたぶんパンクやメタルの先駆者と謳われながらMC 5のアルバムが、物の本では同様に語られているヴェルヴェット・アンダーグラウンドやニューヨーク・ドールズ、あるいはストゥージズとは違って、長い間、入手困難だったことにも理由があると思うのだが、彼らのディスコグラフィー中、もっとも知られているにもかかわらず、リイシューが一番遅かった(はず)この『キック・アウト・ザ・ジャムス』をついに手に入れた頃には、パンク/メタルの先駆者であることに加え、FBIに監視されていたとか、アルバムに収録した「Motherfucker!!!!」という雄叫びが大騒動になっとか、そういう喧伝に刺激され、きっととんでもなく過激なロックが聴けるにちがいない――と、ぱんぱんに膨れ上がっていた期待に応える冒頭のアジテーションに続いて聴こえてきたのが、なんだか妙にノリのいいギターとファルセットのヴォーカルだったんだから、その落胆たるや。しかもヴォーカリストの髪形は巨大アフロという…。
このアルバムが「キック・アウト・ザ・ジャムス」1曲のみで語られるのは、その衝撃があまりにもデカすぎたからに他ならないが、前述したザ・ストライプス他、多くのバンドがカバーしてきたロック史に残る必殺ナンバーを生んだことが、バンドのイメージを偏った形で決定付けてしまったことは、ある意味、皮肉とも不幸とも言えるが、その1曲がなければ、発表当時、セールス面において成功したわけではないこの『キック・アウト・ザ・ジャムス』がその後、名盤として語り継がれることもなかったかもしれない。
著者:山口智男
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