サザンロックはオールマン・
ブラザーズ・バンドの
『ブラザーズ・アンド・シスターズ』
で完成した

『Brothers And Sisters』(’73)/The Allman Brothers Band

『Brothers And Sisters』(’73)/The Allman Brothers Band

1971年にオートバイ事故で急逝したデュアン・オールマンと、彼を追うように翌年その近くで同じくオートバイ事故で亡くなったベリー・オークリーのふたりを失ったオールマン・ブラザーズ・バンド(以下、ABB)は、グループとしても瀕死の状態であった。アメリカを代表するギタリストのデュアンの死によって、彼らは方向性を大きく転換しなければならなかった。デュアンに代わるギタリストは存在しないという理由でギタリストの補充はせず、ピアノ奏者のチャック・リーヴェルと黒人ベーシストのラマー・ウィリアムスを加え、再起を図る。新生ABBは73年、本作『ブラザーズ・アンド・シスターズ』をリリース、収録曲の「ランブリンマン」が全米2位の大ヒットとなったばかりか、この曲はアメリカンロックの代表曲のひとつに数えられるまでになった。それまでのオールマンはブルースをベースにした黒っぽい音作りであったが、デュアン・オールマン亡き後に主導権を握ったディッキー・ベッツのカントリーテイストが功を奏し、新たな境地を切り開いた。このアルバムによって彼らのフォロワーは雨後の筍のように誕生し、サザンロックというジャンルが確立したのである。

サザンロックの定義付けは
難しいけれど楽しい

サザンロックはABBが生み出したアメリカンロックのジャンルのひとつである。サザンロックはブルースとカントリーをベースに、アメリカ南部ならではの大らかでゆったりした(レイドバックという)泥臭いロックのことを指す。アメリカンハードロックやスワンプロックと混同する文章をしばしば見かけるが、本来サザンロックはオールマン的な特徴を明確に持っていることが必須条件である。言うならば、茶道や華道の流派のようなものとして、当初のサザンロックは存在していたのだ。そういう意味では、アトランタ・リズム・セクション(ポップすぎる)やZZトップ(ロックンロールすぎる)など挙げていけばきりがないが、世間でサザンロックにカテゴライズされていても、ニュアンスがサザンロックとは違うグループは多い。初期のアウトロウズはオーケーだけど、ブラックフットはリズムがタイトすぎて違うとか、人によっても結構その境界線は変わるので、サザンロックと言われているいろいろなグループを聴いて、サザンロックの定義を考えるのは楽しいものだ。もちろん、良い音楽ならジャンルを決め付ける必要がないのも確かだけれど…。

ツインギター、ツインドラムのヒント

彼らが69年にリリースしたデビュー作『ザ・オールマン・ブラザーズ・バンド』ですでにサザンロックの萌芽は見られるが(本家なので当然だ)、ツインギター、ツインドラム、キーボード、ベースという編成は、そもそも西海岸で活躍していたグレイトフル・デッドを模したものであった。おそらくABB結成以前にデュアンとグレッグのオールマン兄弟がロサンジェルスで結成していたアワーグラス時代に、デッドのライヴを観て新グループの構想を練っていたに違いない。それが証拠にデッドの初期のアルバムでは、オールマン・ブラザーズの原型となるサウンドがすでに披露されているのだ。ただ、デッドの場合はフォークやブルーグラスの要素もあってサザンロックではない。

デッドのグループ編成にインスパイアされると同時にデュアンの頭にあったのは、クリームのようなハードな音作りであった。特にジンジャー・ベイカーのポリリズムを駆使したような複雑なドラミングをアメリカで叩けるロックミュージシャンは当時いなかったから、ツインドラムにせざるを得なかったという事情があったのかもしれない。

ツインリードに関しては当時誰も真似できなかったデュアンの超絶スライドを前面に押し出したかったため、普通のギターを弾くプレーヤーが必要であった。そんなことから自分と似たスタイルを持つディッキー・ベッツに声をかけ、オールマン・ブラザーズ・バンドは結成された。

『ブラザーズ・アンド・シスターズ』
以前のABB

69年にリリースされた彼らのデビューアルバム『オールマン・ブラザーズ・バンド』は、まだブルース中心であるものの、すでにサザンロックの原型となるスタイルが見られる。2作目の『アイドル・ワイルド・サウス』(‘70)では、もっと洗練されたサウンドが展開されており、特にディッキー作の「エリザベス・リードの追憶」はジャズの風味を感じさせるインストで、彼らの代表作のひとつとなった。この頃からフロリダやジョージアといった南部諸州で、ABBを目指すグループがいくつか結成されている。

以前、このコーナーでも取り上げた『フィルモア・イースト・ライヴ』(‘71)はロック史上に燦然と輝くライヴ盤で、彼らの最高の瞬間が収録されている。続く『イート・ア・ピーチ』(’72)のレコーディング中にデュアンが亡くなり、前作のライヴの残り(“残り”と言うと語弊がある。時間的に収録できなかっただけで演奏は名演揃い)と残されたメンバーによるスタジオ録音が収録されたが、このアルバムに収められた「ブルースカイ」はデュアンとディッキーのツインリードが聴けるカントリー風のナンバーで、ABBの新たな方向性を示唆するものであった。デュアン自身、ブルースだけでなくディッキーが主導するカントリー系サウンドを好んで取り上げており、グレッグもブルース一辺倒に思われがちだが、ここでは「メリッサ」のようなカントリーっぽい曲を書き、ディッキーに歌わせることなく自身のヴォーカルで渋く披露している。ブルースとカントリーをどちらも取り上げるあたりに、オールマン兄弟の南部人としてのスタンスがよく表れていると思う。

本作『ブラザーズ・アンド・
シスターズ』について

そして、1972年11月11日、グループのリズムを支えていた名ベーシストのベリー・オークリーがデュアンと同じバイク事故で亡くなり、ピアノのチャック・リーヴェルと黒人ベーシストのラマー・ウィリアムスを迎え入れ、新たなABBがスタートする。デュアン亡き後、ディッキーはリーダーとなるべくスライドギターの練習を重ね、本作『ブラザーズ・アンド・シスターズ』のレコーディングに臨む。『ライヴ・アット・フィルモア・イースト』(全米チャート13位)『イート・ア・ピーチ』(全米チャート4位)というロック史上に残る2枚の傑作をリリースしたあとだけに、このグループの再起はないと誰もが思ったはずである。僕もそうだった。

ところが、73年に本作がリリースされると、彼ら初の全米チャート1位となった。シングルカットされた「ランブリンマン」はアメリカンロックを代表する名曲として現在まで多くの人に愛されるナンバーとなった(全米チャート2位まで上昇)。ABBをリアルタイムで聴いている者からすると、最初はデュアンとベリーのいないオールマンなんて…と、本作を聴く直前までマイナスイメージを持っていた。要するに新生ABBのダメさを確認するために聴き始めるわけである。

ところが、デュアンを彷彿させるディッキーのスライドと、新加入のチャック・リーヴェルによる超絶ピアノワークが聴ける1曲目の「むなしい言葉(原題:Wasted Words)」だけで、すっかりノックアウトされてしまうのだ。次の「ランブリンマン」で立ち上がれなくなった…。カッコ良い、カッコ良すぎる。待てよ、これツインリードじゃないかと思いつつジャケットを手に取ると、レス・デューデックという見知らぬギタリストの名前があった。そう、すでにデュアンのフォロワーが南部には登場していたのだ。彼はディッキーと息のあった指弾きを効かせたかと思ったら、後半はデュアンそっくりのスライドまで弾いている。

余談だが、デューデックのソロ作品は素晴らしい。特に1枚目の『レス・デューデック』(‘76)と2枚目の『セイ・ノー・モア』(’77)は、結成前のトトのメンバーを迎え、センスの良いサザンロックを聴かせるのだが、やはりデュアン直系のデューデックのギターが光っている。80年にリリースしたグループの『デューデック・フィニガン・クルーガー・バンド』(‘80)も最高だ。デュアンのフォロワーとしては、デレク・トラックスが登場するまではデューデックが最高だったのではないだろうか。

話を元に戻すと、3曲目の「カム・アンド・ゴー・ブルース」もオールマンらしいナンバーで、リーヴェルのピアノがよく歌っている。この曲の後半ではディッキーのゆったり目のギターがレイドバック感を醸し出しており、デュアンのいた頃には出せなかったこの味が新生ABBの大きな特徴でもある。本作で聴けるレイドバック感覚こそがサザンロックの魅力であり、本作以後に登場してくるサザンロックグループに与えた影響は大きい。というか、サザンロックは間違いなく本作のサウンドで確立されたのである。

ファンキーな「サウスバウンド」やインストの名曲「ジェシカ」は、「デュアンのやりたかったことは、きっとこういうことだったに違いない!」と思うほどサザンロックの真髄とも言える文句なしのナンバーが続く。この2曲はリーヴェルのピアノを聴かせたいために作ったのかと勘ぐりたくなるくらい素晴らしい出来である。数多あるロックのピアノ演奏でもベストに数えられるものだ。のちにリーヴェルは数多くのセッションに参加し、ザ・ローリング・ストーンズのキーボードプレーヤーとして名を馳せるが、彼の最高のプレイはと言えば本作に尽きるのではないだろうか。

LP時代、A面の最後にあたる4曲目「ジェリー・ジェリー」とB面の最後にあたる7曲目「ポニー・ボーイ」は、グレッグ得意のブルースナンバーを配置しているのも嬉しい。どちらも小品だけれどABBにはブルースが似合うのだ。

そんなわけで、彼らは見事にABBを蘇らせた…ただ蘇らせただけでなく、ブルース色の濃い『フィルモア・イースト・ライヴ』と、カントリーっぽいレイドバック感が見られる本作『ブラザーズ・アンド・シスターズ』でサザンロックを完成させたことは、ロック界にとって大きな成果となった。

本作の後、レーナード・スキナードをはじめ、マーシャル・タッカー・バンド、ウェット・ウィリー、チャーリー・ダニエルズ・バンド、ブラック・オーク・アーカンソー、アウトロウズ、38スペシャル、モリー・ハチェットなどが続々と登場し、サザンロック旋風が世界的に巻き起こる。日本でもめんたんぴんやスティッキー・スウェルなどの優れたサザンロックグループが、80年代前後にテクノポップが現れるまでライヴハウスで活躍するのである。もし、オールマンを聴いたことがないなら、この機会にぜひ聴いてみてほしい。きっと新しい発見ができると思います。

TEXT:河崎直人

アルバム『Brothers And Sisters』1973年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. むなしい言葉/Wasted Words
    • 2. ランブリン・マン/Ramblin' Man
    • 3. カム・アンド・ゴー・ブルース/Come and Go Blues
    • 4. ジェリー・ジェリー/Jelly Jelly" (Billy Eckstine, Earl Hines)
    • 5. サウスバウンド/Southbound
    • 6. ジェシカ/Jessica
    • 7. ポニー・ボーイ/Pony Boy
『Brothers And Sisters』(’73)/The Allman Brothers Band

OKMusic編集部

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