後世のHR/HMに
多大な影響を与えた
ディープ・パープルの傑作
『ディープ・パープル・
イン・ロック』

『Deep Purple In Rock』(‘70)/Deep Purple

『Deep Purple In Rock』(‘70)/Deep Purple

ハードロックをはじめ、後のヘヴィメタルのプロトタイプとなったアルバムがディープ・パープルの『ディープ・パープル・イン・ロック』だ。レッド・ツェッペリンやブラック・サバスに比べられることも多いパープルだが、彼らとパープルには決定的な違いがある。ツェッペリンやサバスには、当時人気のあったクリームやジェフ・ベック・グループと同じように、ブルースやR&Bといった黒人音楽の影響が少なからずあった。しかし、パープルはプログレッシブロックのグループのようにクラシックからの影響を受けており、ブルースベースではないリッチー・ブラックモアのシンプルで覚えやすいリフが特徴で、ロックそのものをルーツにしたまったく独自のスタイルを持っていたのだ。異論はあるだろうが、シンプルなリフを中心にしたHR/HMの様式美を初めて形にした作品は、ツェッペリンでもブラック・サバスでもなく本作だと僕は考えている。というわけで、今回はディープ・パープルが1970年にリリースしたロック史に残る名作『ディープ・パープル・イン・ロック』を取り上げる。

ジョン・ロードと
リッチー・ブラックモアの確執と信頼

1968年、ジョー・サウス(アメリカ南部のカントリー系SSW)作でビリー・ジョー・ロイヤルが歌った「ハッシュ」のカバーヒット(全米4位)で、デビューしたばかりにもかかわらずディープ・パープルの存在は広く知られることになった。しかし、彼らが所属していたアメリカのテトラグラマトンという小レーベルは、プロモーションにもプロデュースにも長けておらず、彼らを上手く活かすことはできなかった。「ハッシュ」が収録された彼らのデビューアルバム『紫の世界(原題:Shades Of Deep Purple)』は、プログレとポップスとサイケデリックロックの要素を持つ仕上がりで、決して悪くはないが、まだ彼らのサウンドは試行錯誤の真っ最中であった。グループのまとめ役はキーボード奏者で最年長のジョン・ロード。彼の得意とするクラシックテイストをポップスやロックの曲に挟み込むのが初期パープルの特徴であった。そのスタイルは2ndの『詩人タリエシンの世界(原題:The Book Of Taliesyn)』(‘68)や3rdの『ディープ・パープルIII(原題:Deep Purple)』(’69)まで変わらない。

69年になるとレッド・ツェッペリンとキング・クリムゾンがそれぞれデビューアルバムをリリースし、ロードはクリムゾンに、ブラックモアはツェッペリンにとそれぞれ大きな影響を受ける。これら2枚のアルバムでふたりの進む道が示唆されることになるのだが、ロードがリーダー的存在なだけに、グループはよりクラシック的なサウンドへとシフトしていく。この時期にリリースされたのがライヴ盤『ディープ・パープル・アンド・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ』(‘69)である。このアルバムはパープルとクラシックのオーケストラとの共演を収録したもので、クラシックとロックの融合を試みたアーティストとしては、すでにムーディー・ブルースの『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』(’67)が先行していたが、ロードの“ロックはクラシックより劣っているわけではない”というある種のコンプレックスを払拭するために、彼にとっては精神衛生上リリースしなければならない作品でもあった。

ブラックモアはツェッペリンの影響から、重厚かつスピード感がある大音量のロックがやりたいとロードに直訴しており、ロードもオーケストラとの共演を果たしただけに、ブラックモアの意見を尊重する姿勢をみせた。ロードとブラックモアの方向性の違いはグループの運営上大問題であり、普通のグループであれば確実に解散かどちらかが脱退していただろう。パープルがそうならなかったのは、ロードとブラックモアがお互いを認めていたからであり、そういう意味では信頼し合える同志であったのだ。また、このオーケストラとの共演の少し前、グループはヴォーカルのロッド・エバンスとベースのニック・シンパーを解雇、新メンバーのイアン・ギランとロジャー・グローバーを迎え入れており、このふたりの大いなる才能にパープルの将来の可能性を確信していたことも大きかったはずだ。

ジョン・ロードのこだわり

第2期のメンバーとともにブラックモアが中心になってアイデアを出し、ニューアルバムの準備が始まった。重厚・スピード感・シンプルなリフというコンセプトをもとに、彼ら(ブラックモア)はツェッペリンの1枚目のようなサウンドを目指していたのだが、ロードはブラックモアのスピード感のあるギターに負けないよう、ハモンドオルガンの弾き方や音色をこれまでとは変化させ、グループのトレードマークとも言えるオルガンサウンドを編み出すのに成功している。同時期に活躍していたキース・エマーソンやリック・ウェイクマンらが当時最先端のシンセサイザーであったモーグやメロトロンを使っていたのに対し、ロードはあくまでもハモンドオルガンにこだわり、そのおかげでパープルらしい音作りになったことを思えば、ロードのプロ意識というか頑固さには敬服する。ロードの硬く歪んだオルガンサウンドはパープルのスピード感を演出するのにマッチしており、以降もパープルの要的存在になっている。ロードのプロデューサー的な視点は実に鋭いと言えるだろう。

OKMusic編集部

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