エアロスミスの4thアルバム『ロック
ス』は取り扱い要注意の刺激物!?

エアロスミスの曲「バック・イン・ザ・サドル」がラジオから流れてきた時の衝撃は今でも忘れることができない。スピーカーから3Dでスティーヴン・タイラーの唇が飛び出してきそうな爆発的なシャウト、ヘヴィかつブルージーなサウンドに
一発で持っていかれた。歌詞については何をこんなに激しく歌ってるんだろうと素朴な疑問を持ちつつ、後にエロい歌詞だと知ったのだが、生々しさとバンドがすぐそこでプレイしているようなスリルたっぷりの臨場感は海を超えてダイレクトに伝わってきた。“エアロスミスのライヴが観てみたい”。そう熱烈に思わせてくれたのが「バック・イン・ザ・サドル」である。この曲から始まり、最初から最後まで抜きさしならない緊張感と荒々しさ、ライヴバンドの“熱”を放ち、突っ走っていくアルバムが1976年にリリースされた4thアルバム『ロックス』である。

生命力のカタマリのようなバンド

1970年に結成されたエアロスミスは活動当初からブレイクしていたわけではなく、ライヴで力を蓄えていったバンドだ。メンバーはスティーヴン・タイラー(Vo)、ジョー・ペリー(Gu)、ブラッド・ウィットフォード(Gu)、トム・ハミルトン(Ba)、
ジョーイ・クレーマー(Dr)。人気に火が付いたのは、3rdアルバム『闇夜のヘヴィロック』と『ロックス』を発表した時期で、日本でも彼らの知名度はグングン上昇していき、キッス、クイーンとともに3大バンド的扱いで取り上げられることが多かった。当時、最もポピュラーだった音楽雑誌『ミュージックライフ』の表紙を飾る存在でもあり、ど派手なメイクとエンターティメント性たっぷりのステージが人気のキッスやロックの貴公子的ムードをふりまいていたクイーンと比べると、女子からの人気は今ひとつだった(デビューアルバムのタイトルからして“野獣生誕”だし)ように思うが、個人的にはエアロスミスが一番好きだった。思い出としては風疹にかかって高熱でウンウン苦しんでいた時にスティーヴン・タイラーのアップのアクの強い写真をガン見して頑張ったことがある。なぜ、そんな行動をとったのかは当時、よく分からなかったのだが、振り返ってみたら、あの顔から並々ならぬ生命力みたいなものを感じていたからかもしれないと思う。
 
当初、エアロスミスはローリング・ストーンズのマネっこみたいにメディアで叩かれていたらしいが、ブルースがルーツにあるロックンロールバンドだったからだろうか。それともヴォーカリストの口がビッグサイズだったからだろうか。とにかく、自分は両方とも好きだったし、エアロスミスの曲にはアメリカ産の大陸のダイナミズムみたいなものを感じていた。バンドの社交性を背負って立っているようなスティーヴン・タイラーとステージで終始、うつむきがちでマーシャルのアンプのほうを向いて(客に背を向け)ギターを弾いてしまうジョー・ペリーの対比も魅力的だった。
 
さて、生命力の話に戻るが、エアロスミスは奇跡の復活を遂げたロックバンドでもある。スターダムにのし上がったにもかかわらず(ドラッグにも溺れていたらしいが)、1979年に発表したアルバム『ナイト・イン・ザ・ラッツ』のレコーディング途中でジョー・ペリーが脱退。スティーヴン・タイラーはかけがえのない相棒を失い、ブラッド・ウィットフォードも脱退。エアロスミスの人気は急落してしまう。紆余曲折を経て1984年にはオリジナルメンバーで復活を果たすが、この復活劇にひと役買ったのが、RUN-D.M.Cだった。翌年、彼らはエアロスミスの元祖ラップとも言えるナンバー「ウォーク・ディス・ウェイ」(『闇夜のヘヴィロック』収録曲)をカバー。ミュージックビデオには本家のエアロスミスも登場し、全米4位という大ヒットを記録する。この勢いに乗って、彼らは次々にヒットアルバムを送り込み、1987年発表のアルバム『パーマネント・ヴァケーション』収録曲「エンジェル」は全米4位を獲得、1993年のアルバム『ゲット・ア・グリップ』は全米1位のメガヒットとなる。その後、映画『アルマゲドン』の主題歌「ミス・ア・シング」が過去最大のヒットとなるのだが、1度、シーンから姿を消した後の華々しいサクセスストーリーには本当に驚かされた。楽曲はよりメロディアスになり、メジャー感、スケール感を増していったように思うが、バンドの持つ根源的な生命力、思春期の少年、少女をドキドキさせるロックとは何ぞや、というツボを知り尽くしている在り方は何も変わっていないように思える。影響を与えたバンドはガンズ・アンド・ローゼズ、モトリー・クルー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど数知れず。余談になるが、エアロスミスのライヴを観に行った時、興奮のあまりパンフレットを買って喫茶店で開いてみたら、スティーブン・タイラーとジョー・ペリーの鍛え抜かれた肉体がフィーチャーされた写真ばかりで、目を丸くした思い出がある。不健康だった時代はどこにやら。でも、やっぱり、この人たちはみなぎってるんだよな、と思ったものである。

アルバム『ロックス』

撃ち抜かれるような刺激たっぷりのナンバー「バック・イン・ザ・サドル」で始まり、憂いのあるアルペジオにバラードかと思いきや、ファンキーなリフに身体が揺らされる「ラスト・チャイルド」に移行する流れが最高にクール。スタンドマイクを操り、シャウトしているスティーヴン・タイラーの姿が浮かぶようなヴォーカルも魅力的だ。前期エアロスミスの中でもハードロック色が強く、硬質な1枚と評価されている作品だが、ギターのフレーズやグルーブにはブラックミュージックの影響が強く感じられる。「ラッツ・イン・ザ・セラー」(邦題:地下室のドブネズミ)は文句なく痛快で疾走感あふれるロックンロールで、この最初の3曲のポテンシャルの高さで、最後まで一気に聴けてしまうアルバムだと言ってもいい。ライヴ・バージョンのような刺激的な演奏がパッケージされている。荒削りで勢いのあるナンバーが多いから、復活後のエアロスミスのイメージで聴くとポップさに欠けるように思うかもしれないが、「ノーバディーズ・フォールト」のようなヘヴィチューンにも、現在の彼らに通じる広がりのあるメロディーが盛り込まれていて、いろんな意味で今、聴くとまた新たな発見がある。ジョー・ペリーのギターが冴える「ゲット・ザ・リード・アウト」は独特のリズムも含めて、ザッツ・エアロスミス。まとわりつくようなギターソロもカッコ良い。アルバムのラストナンバーは唯一のバラード「ホーム・トゥナイト」。エアロスミスは初期から「ドリーム・オン」などの名バラードを残してきているが、バラードにキラーチューンがあるロックバンドは古今東西、強いような気がする。全9曲で約35分。あっと言う間に聴き終わるのに濃厚。聴いた人をどういう方向に覚醒させるのかは分からないが、刺激物であることだけは間違いない。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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