ハードコアに先鞭を付けながら多彩な
サウンドに挑んだザ・ダムドの代表作
『マシンガン・エチケット』

 セックス・ピストルズ、ザ・クラッシュとともにUK三大パンク・バンドのひとつに数えられながら、前述2バンドに比べ、知名度、人気ともに、今ひとつ低いせいか、長年、B級バンドと思われてきたザ・ダムド。しかし、代表作ひとつである『マシンガン・エチケット』にしっかりと耳を傾けてみれば、彼らがB級でも二流でもなかったことが分かるはずだ。

 B級であるところがザ・ダムドの魅力なんだと考えるファンもいるだろう。一流じゃないからこそ、彼らは愛すべき存在なんだ、と。それもひとつの見識だ。確かに結成から約40年。道化を演じることを楽しんできたザ・ダムドに一流という言葉は似合わないし、そもそもそんな評価、彼ら自身、はなっからこれっぽっちも気にしていなかっただろう。気にしていたら、デイヴ・ヴァニアン(Vo)は吸血鬼のコスプレなんてしていなかっただろうし、キャプテン・センシブル(Ba)だって鳥の(?)着ぐるみなんて着ていなかったと思う(『マシンガン・エチケット』のジャケット参照)。ただし、そのセンスに快哉を叫ぶファンがいる一方で、外見からザ・ダムドのことをイロモノと思ったリスナーも少なくなかったはずだ。パンクシーンにおいて異彩を放っていたその外見も彼らの魅力のひとつだったには違いないが、肝心の音楽のすごさが伝わらなければ本末転倒。意味がないから、今回は『マシンガン・エチケット』の音楽的な魅力について改めて考えてみたい。
 『地獄に堕ちた野郎ども(原題:Damned Damned Damned)』(77年)と『ミュージック・フォー・プレジャー』(77年)という2枚のアルバムをリリース後、一度解散したザ・ダムドが再結成後、79年にリリースした3作目のアルバムがこの『マシンガン・エチケット』だった。その後のハードコアに先鞭を付けたと言われているこのアルバムは『地獄に堕ちた野郎ども』と並ぶダムドの代表作中の代表作。デビューアルバムでアピールした、たたみかけるようなハイスピードの演奏に、このアルバムからベースをギターに持ち替えたキャプテンが取り入れたハードロッキンかつメタリックなギタープレイを聴き、“あ、パンクバンドでもコレやっていいんだ!”と思ったバンドが多かったことは想像に難くない。前2作に比べ、重心が下がって、ぐっとヘヴィになった演奏もポイントだ。
 オープニングを飾る「ラヴ・ソング」、そこから間髪入れずにつなげる2曲目の「マシンガン・エチケット」と、UKハードコアを代表するバンド、GBHのデビューアルバム『シティ・ベイビーの悪夢』(82年)を聴き比べてみれば、ヴァニアンのヴォーカルこそ朗々と歌い上げているものの、ザ・ダムドがいち早くパンクとメタルのクロスオーバーを実践しながらハードコアのひとつの雛型を作ったことがよく分かる。その影響は90年代半ばのメロコアブームをリードしたバッド・レリジョンやオフスプリングからもうかがえるが、オフスプリングは『マシンガン・エチケット』収録の「スマッシュ・イット・アップ」をカバーするだけではなく、フロントマンのデクスター・ホーランドのレーベル、ナイトロからザ・ダムドのアルバム(01年発表の『Grave Disorder』)をリリースして、リスペクトを表明している。
 もちろん、それだけが『マシンガン・エチケット』の聴きどころではない。もともとベーシストだったキャプテンが本作からギタリストに転向したことは前に書いた通りだが、前2作でほとんどの曲を書いていたギタリスト、ブライアン・ジェームズがバンドを離れたため、全員で曲作りするようになったせいなのか、バンドの成長なのか、曲調、アレンジともに多彩になると同時に前2作になかったポップな魅力が加わったことも『マシンガン・エチケット』における大きな変化だった。60年代風のオルガンを使った「荒廃の街角(I Just Can’t Be Happy Today)」のサイケポップサウンドやサーカスを連想させる「ジーズ・ハンズ」のゴシックサウンド、さらには「プラン9チャンネル7」で重ねたハーモニーは本作以降、メタリックなロックナンバー同様、ザ・ダムドの持ち味として作品を重ねるごとにさらに磨きをかけられることになる。
 全英20位に食い込んだ「ラブ・ソング」他、「スマッシュイットアップ」「荒廃の街角」といった3曲のヒットシングルも生んだ『マシンガン・エチケット』でパンクの範疇に収まらない成功を収めたザ・ダムドはその後、激しいメンバーチェンジとともに音楽性も過激に変化させていくことになるわけだが、それができたのはやはりこの『マシンガン・エチケット』でパンクに止まらない多彩なサウンドに挑んだからこそだろう。それだけ聴きどころがありながら、『マシンガン・エチケット』がB級パンクバンドの代表作とだけしか語れないのは、どう考えたっておかしい。何よりももったいない。もしジャケットやそこに映っているメンバーの外見からイロモノだと勘違いしているリスナーがいたら、騙されたたと思って、一度、このアルバムを聴いてみてほしい。このアルバムの聴きどころは「ラヴ・ソング」だけじゃない。いや、ヴォーカリストとギタリストがコスプレを楽しんでいるイロモノっぽい佇まいも、例えばコミカルなキャラクターを楽しませるゼブラヘッドや頭はオオカミ、体は人間という究極の生命体からなるMAN WITH A MISSIONのようなバンドがあくまでもカッコ良いロック・バンドとして受け入れられている今の時代、大いにありなのかもしれない。

著者:山口智男

OKMusic編集部

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