これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!

これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!

圧倒的なギタープレイでロック少年を
虜にしたテン・イヤーズ・アフターの
壮絶なライヴ盤『アンデッド』

『Undead』(’68)/Ten Years After

『Undead』(’68)/Ten Years After

60年代に登場したロックギタリストの中で、当時誰よりもすごい速弾きを聴かせたのがアルヴィン・リーだ。そのテクニックは彼が率いたブルースロックグループ、テン・イヤーズ・アフターの67年のデビュー盤ですでに確立されていた。今回紹介するのは、そんなアルヴィン・リーの魅力がたっぷり詰まったライヴ盤『アンデッド』だ。最近は彼らの名前も聞かなくなったが、60年代後半のロック界においてハードロックが生まれるきっかけのひとつにもなった、とても重要なライヴアルバムの一つだ。

『ウッドストック』の時代

1969年8月15〜17日の3日間、ニューヨーク郊外のヤスガー農場で開催されたのが、『モンタレー・ポップ・フェスティバル』(‘67)に続く大きな野外ロックフェス『ウッドストック・フェスティバル(正式名称:Woodstock Music And Art Fair)』である。30万人以上の観客が集まったこのフェスの模様は映画になり、確か翌年の70年に日本公開もされた。僕は中学生で、ロックに目覚めたばかりの頃だった。

ロードショーの時点でこの映画を観たのか、後で観たのかはすっかり忘れているのだが、このドキュメンタリー映画で今でもはっきりと印象に残っているのが、爆音で演奏されたジミヘンのアメリカ国歌変奏とテン・イヤーズ・アフターの「アイム・ゴーイング・ホーム」であった。このふたつの演奏は、13歳の僕が見ても本当にすごかった(いや、13歳だからこそすごいと思ったのだ)。この映画のおかげで、僕はロックに、特にハードロックにのめり込んでいったのである。
『ウッドストック』に出演していたアーティストは、当時の泥沼化するベトナム戦争の嫌悪感もあって、反体制の社会派フォークシンガーたちを前面にプッシュした流れとなっていた。しかし、子供の、しかも日本に住む僕にとっては英語も分からないし、楽しめるのは“ロック”のサウンドであった。よって、出演者ではジョン・セバスチャン、リッチー・ヘイブンス(当時はリッチー・ヘブンスと表記されていた)、カントリー・ジョー、アーロ・ガスリー、ジョーン・バエズにはあまり興味が沸かなかった(何年か後には、こちらの方面のアーティストの方が好きになるのだから、人間は分からないものである)。
その頃、僕はザ・ビートルズ、エルトン・ジョン、グランド・ファンク・レイルロードなどがお気に入りだったので、『ウッドストック』に出演している中で、そのあたりの延長線上にあるグループに興味が集中していた。ザ・フー、サンタナ、ジェファーソン・エアプレインに関しては名前も知っていたし、ヒット曲もシングル盤で持っていたから楽しめた。

しかし、それまで存在すら知らなかったテン・イヤーズ・アフターの演奏には楽しめたどころではなく、“ぶっ飛んだ”という言葉がしっくりくるだろう。こんなにすごいグループがいるなんて、こんなにギターが速く弾けるなんて、今まで聴いていたロックは何だったのだ!?と困惑するほど驚いたのだ。彼らが『ウッドストック』で演奏した「アイム・ゴーイング・ホーム」は10分以上にも及び、途中ロッククラシックの「ブルー・スエード・シューズ」を交えながらのパフォーマンスは圧倒的で、完全な陶酔感を体験したのだった。

ハードロックが生まれる前夜の
テン・イヤーズ・アフター

『ウッドストック』でのテン・イヤーズ・アフターの演奏、特にアルヴィン・リーの超絶な速弾きギターは多くの支持を集め、世界中のロック少年たちを狂喜させた。このフェスの後、まだ2枚しかリリースされてなかったテン・イヤーズ・アフターのアルバムは世界的に売れた。そして、彼らのデビュー作の『テン・イヤーズ・アフター』(‘67)から、アルヴィンの速弾きが完成されていたことを知るのだ。
テン・イヤーズ・アフターのサウンドは、当時もっとも多かったブルースに影響されたブルースロックで、ブリティッシュロック界にはクリーム、ジョン・メイオール、フリートウッド・マック、サヴォイ・ブラウン、チキン・シャックなど、優れたブルースロックのグループがあったが、アルヴィンのピッキングはどのギタリストよりも早く、一目置かれる存在であったと言えるだろう。アルヴィンの激しいギタープレイを中心に据えていたため、テン・イヤーズ・アフターは長尺のアドリブを得意としていた。そして、ハードエッジなテイストを持っていたから、ハードロックの最初期のグループとして捉えることも間違いではないと思う。

『ウッドストック』のサウンドトラック

映画『ウッドストック』の公開と前後して、そのサウンドトラックが3枚組(当時のLP時代。CDは2枚組)でリリースされた。3枚組とはいえ、丸3日間のフェスの模様は完全に収録できるものではない。

しかし、並み居る大物ロッカーを差し置いて、10分にも及ぶテン・イヤーズ・アフターの「アイム・ゴーイング・ホーム」はしっかり収録されていただけに、当時、彼らがいかに注目されていたのかが分かる。はっきり言って、テン・イヤーズ・アフターがイギリス以外で注目されたのは『ウッドストック』のおかげであり、彼らの演奏にぶっ飛んだロックファンは「アイム・ゴーイング・ホーム」が収録された彼らのアルバムを探し求めるのである。

本作『アンデッド』について

『ウッドストック』で喝采を浴びた「アイム・ゴーイング・ホーム」のオリジナルを収録しているのが本作『アンデッド』である。本作はテン・イヤーズ・アフターの2作目で、『ウッドストック』に出演する約1年前、ロンドンの小さなジャズクラブで収録されたライヴ盤である。

1曲目から圧倒的なドライブ感でリスナーを引き込んでしまうその力量からして、68年の時点でブリティッシュ界最高のロックグループのひとつであったことは間違いない。アルヴィンの速弾きだけでなく、リック・リー(ベース)とレオ・ライオンズ(ドラム)のリズムセクションやチック・チャーチルのジャジィなキーボードも文句なしのプレイを聴かせる。ライヴならではの臨場感と緊張感に富んだパフォーマンスは楽しく、全編にわたってまさしくロック史に残る名演が収められていると言えるだろう。

『ウッドストック』では見せなかったテクニカルなプレイが多いのには驚かされる。ブルースロックというよりは、ジャズコンボのような組み立てで、彼らがいろいろな音楽に精通していることがよく分かる。本作では特にジャズに影響されたパフォーマンスが多い。何より『ウッドストック』で熱狂をもって迎えられた「アイム・ゴーイング・ホーム」のテンションがアルバム1枚分持続するのだから、ほんとすごいグループだ。全5曲、これぞロック!と言えるエッセンスが凝縮されたライヴアルバムの傑作である。

テン・イヤーズ・アフターのその後

本作の後も彼らは力作を続々とリリースするのだが、そんなに器用な人たちではないので、だんだんとマンネリ化し、アルヴィンは速弾きを封印、曲の構成を重視するようになる。そして、7枚目のアルバム『スぺース・イン・タイム』(‘71)では、心機一転アコースティックで落ち着きのあるサウンドに挑戦する。

このアルバムからシングルカットされた「アイド・ラブ・トゥ・チェンジ・ザ・ワールド」(名曲)がヒットし、アルバムも全米チャート17位まで上昇したが、テン・イヤーズ・アフター本来の持ち味はグイグイ押しまくるアドリブ感であって、それが失われてからは徐々に失速し75年に解散。何度かの再結成を経て現在もグループは継続しているようだが、2013年にアルヴィン・リーが手術中の事故で亡くなり、永遠に本家テン・イヤーズ・アフターの再生は望めなくなった。彼らのピークは、ウッドストックでの「アイム・ゴーイング・ホーム」や本作『アンデッド』にあると僕は思う。
もし、テン・イヤーズ・アフターを聴いたことがないなら、デビュー作『テン・イヤーズ・アフター』(‘67)か本作『アンデッド』(’68)、『ストーンヘンジ』(‘69)、『Ssssh』(’69)あたりがオススメなので、ぜひ聴いてみてください。新しい発見ができると思うよ♪

TEXT:河崎直人

アルバム『Undead』1968年発表作品
『Undead』(’68)/Ten Years After

OKMusic編集部

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