『Volume Two』(’69)/Soft Machine

『Volume Two』(’69)/Soft Machine

ソフト・マシーンの『Volume Two』は
カンタベリー派の礎を築いたスリリン
グな名作

当然だが、ロックはあくまでポピュラー(商業)音楽の枠内にあり、レコードが売れることで成り立つ世界である。そんな中、68年にデビューしたソフト・マシーンはジャズや現代音楽など、芸術(非商業)音楽とロックを融合させ、それまでにない音楽を創造した革新的なグループである。彼らの生み出すサウンドは高度なテクニックを駆使した、ある意味難解なもので、70年以降にリリースされた作品は極めて非商業的な性質を持っている。今回はポップ性をかろうじて保っていた時期の69年にリリースされた2ndアルバム『Volume Two』を紹介する。

2枚組で収録曲が4曲という衝撃

僕が中学2年になった1971年、それまで聴いていた洋楽のポップス系ヒット曲から、ハードロックとプログレに興味は移っていった。きっかけはクリムゾンの『クリムゾン・キングの宮殿』とディープ・パープルの『イン・ロック』、この2枚。どちらもロック史に残る傑作であるが、そういうレベルの作品にもっと出会いたいという思いから、次々にレコードを買い漁っていく生活が始まる。ピンク・フロイドやイエスなどのプログレ系アーティストを集めていくうち、音楽雑誌の広告でソフト・マシーンというグループを見つけた。それは2枚組であるにもかかわらず4曲しか収録されていない『Third』(‘70)というアルバムであった。2枚組で4曲ということは、各面(あ、当時はLPなので…)に1曲ずつしか入っていないということだ。
早速、近所のレコード屋さんに行き、このアルバムのことを聞いたが置いてないとのことで、取り寄せてもらうことにした。少し時間はかかったが、入荷の連絡をもらったのですぐに購入し、ワクワクしながらレコードに針を落とすと「なんだこれ…」。全曲聴いたのだが、まったく理解できなかった。ジャズっぽいことは分かったが、何度か聴いてみたものの僕には歯が立たなかった。結局、ソフト・マシーンを聴くことをやめてしまった。

ブリティッシュロック史に残るカンタベ
リー派の作品群

その後、大学生になる頃には、ロック、ブルース、カントリー、ソウル、ジャズなど、ポピュラー音楽ならどのジャンルも好きになっていた。その頃は特にフュージョン全盛の頃で、ジャズっぽいものをよく聴いていた記憶がある。ふと思い出したのがソフト・マシーンの『Third』。なぜか聴いてみたくなったのだ。しかし、このアルバムは僕が人生で最初に売り払った(高校生の時に)レコードで、すでに手元にはない。自分でももったいない…と思いながらも買い直してみた。
ジャズを聴き始めていたからか、今度は理解できた。というか素晴らしかった。あっと言う間に4曲(80分弱)を聴き終わり、毎日のように聴くようになった。この時に分かったのが「アーティストの表現することを理解するためには、リスナーである自分も聴く力を付けなければいけない」という事実であった。それからは、ソフト・マシーンのことを調べるようになり、ワイルド・フラワーズというグループからソフト・マシーンが生まれたこと。ソフト・マシーンを中心にした膨大な人脈を、カンタベリー派(1)と呼んでいることなどを知るようになる。
カンタベリー派の多くのアーティストたちは、ジャンルとしてはロックとみなされているけれど、やはり非商業的で芸術家肌の特徴を持った人やグループが少なくない。少なくともソフト・マシーンがジャズロックというジャンルを生み出したことが、その後のカンタベリー派のアーティストを生み出しているわけで、それだけでも彼らはブリティッシュロック界への多大な貢献をしているのだ。
カンタベリー派のアーティストとしては、ソフト・マシーンと同じくワイルド・フラワーズを母体として生まれたキャラヴァン、マッチング・モール(ソフト・マシーンを辞めたロバート・ワイアットが結成したグループ)、ハットフィールド&ザ・ノース、ヘンリー・カウなどがいるが、どれも素晴らしい才能を持ったアーティストたちである。決してバカ売れはしないけれど、ずっと聴き続けられるアルバムをリリースしているので、興味がある人は探してみてほしい。

ソフト・マシーンのメンバー

ソフト・マシーンはデヴィッド・アレン、ロバート・ワイアット、ケヴィン・エアーズ、マイク・ラトリッジらによって、66年に結成された。グループ名は彼らメンバーが尊敬していた、前衛作家ウイリアム・バロウズの小説のタイトルから取られている。68年にデビューアルバム『The Soft Machine』をリリースするが、この時、すでにデヴィッド・アレンは脱退しており、フランスで伝説的なグループ、ゴングを結成している。リーダー的な存在のエアーズもデビューアルバムをリリース後に抜けてしまっていて、ソフト・マシーンはすでに解散状態となっていた。しかし、レコード会社からアルバム制作要請があり、ワイアット、ラトリッジに加えワイルド・フラワーズ時代の盟友ヒュー・ホッパーをベーシストに迎え、2ndアルバムの制作に取り掛かることになった。

本作『Volume Two』について

ソフト・マシーンの作品で僕が傑作だと思うのは、『Third』(‘70)、『Fourth』(‘71)だが、ジャズロックのテイストが強く、一般のロックファンやポップスファンには受けないと思う(自分がそうだったから)。しかし、この『Volume Two』はビートルズの香りもあるし、サイケデリックロックのテイストもある。フリージャズや現代音楽の手法を取り入れた実験的な要素も強く、そのインパクトは今でも十分に刺激的なのだが、何よりサウンドがまったく古びていないところに凄みを感じる。彼らが時代に媚びず、高い音楽性を追究したからこそ、そういう性質の作品が生み出されたのだと思う。
収録されているのは全17曲。曲間がなく、長短ある曲がノンストップで組曲のように進行する。後半部分(LPではB面にあたる)の演奏は、典型的なカンタベリーサウンドになっている。このあたりのアレンジでは同時期のアメリカのロックと比べてみると、いかにブリティッシュロックのレベルが高かったかが分かる。もちろん、演奏技術が高いだけで良いものになるとは限らないが、彼らの才能が飛び抜けていたことは間違いない。個人的には、特にドラマーとしてのワイアットの魅力は大きく、彼が不慮の事故で半身不随になっていなければ…と思わずにはいられない。なお、メンバーの他に、ヒュー・ホッパーの実兄のブライアンがサックスで参加し、フリージャズのテイストを演出している。

著者:河崎直人

『Volume Two』(’69)/Soft Machine

OKMusic編集部

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