ZZ Topが持ち前のブギーサウンドと
シンセを独自のセンスで融合させた
大出世作『ELIMINATOR』

何度リピートして聴いたか分からないアルバムがZZ Topの大ヒット作『Elminator』である。彼らの名盤に70年代の作品を挙げる人も多いと思うが、個人的には渋いブルース、サザンロックで攻めていた頃よりも、シンセサイザー、シーケンサーを取り入れてブルージーでドライヴ感たっぷりのゴキゲンな曲を次々に生み出していた当時のZZ Topに特に思い入れがある。1983年にリリースされた『Elminator』はビルボードチャートの9位を記録し、MTV時代も追い風となってロングセラーに。1996年にはアメリカ国内だけで売上げが1,000万枚に達したというからすごい。お馴染みの長〜い髭と無骨なルックスのせいか、残念ながら日本ではあまり人気がなく、1990年に大ヒット映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』のエンディングテーマに楽曲「Doubleback」を提供し、本人たちも出演したあたりから、やっと広くその存在が認知されたのではないだろうか。そして、今、聴いてもこのアルバムには最初から最後までアッという間に聴き終わってしまうエナジーがあふれまくっている。彼らのビートやビリー・ギボンズのギターリフやソロが粋でカッコ良いと思ったら、飛ばす曲は1曲もないと断言したい!と宣言するほどの名盤である。のちにジャケットや映像のことにも触れたいと思う。

ZZ Top来日時の思い出

 個人的な回想になって申し訳ないが、ZZ Topは『Elminator』の次にリリースしたこれもまた傑作アルバム『Afterburner』をリリースした後、1986年にプロモーションのために来日。駆け出しだったライターの自分にプレイ誌から「ZZ Topのインタビューをしませんか?」という依頼が来た。こんなチャンスは2度とないと思い、ドキドキしながら取材場所に向かい、会議室で話をしたことは今でも鮮明に覚えている。アメリカのトラック野郎のアイドルバンドである一見、コワモテのビリー・ギボンズ(Vo&Gu)、ダスティ・ヒル(Ba)、フランク・ベアード(Dr)はビックリするほどフレンドリーなジェントルマンで、ひとつひとつの質問に非常に丁寧に答えてくれた。中でも印象的だったのは、「なぜ、シンセサイザーを取り入れたのか?」という問いに対して「俺たちはシンセサイザーを使ってドブ掃除のような音を出しているんだ」という返答が返ってきたことで、「なるほど〜」と一発で説得されてしまった。もふもふなデザインのギターやベースだったり、特注の楽器でお馴染みのバンドということもあり、「ギターをいったい何本持っているのか?」と聞いたら、ビリー・ギボンズいわく「分からない。俺はいろんな友達の家にギターを置いていて、どこに行ってもギターを弾けるようにしているんだ」とのこと。『Afterburner』に収録されている曲「Planet Of Women」にちなんで「あなた達が女性だらけの惑星に行ってしまったら、どうしますか?」という間抜けな質問をした時も茶化すでもなく、3人とも極めて真剣に考えた末に「奥さんにどういうふうに説明しようかな」みたいなことを答えていたのも忘れられない。スーパーバンドにもかかわらず、驕りたかぶるようなところは微塵もなく、実直そのものだったZZ Topは翌年に来日公演を果たす。東京は日本武道館、神奈川は横浜文化体育館、大阪は大阪城ホールでコンサートが行なわれたが、横浜文化体育館にはZZ Topと同じ付け髭をつけたキッズ(今ならコスプレ)がたくさん集まり、体育館がロックンロールパーティー会場と化した。

アルバム『Elminator』

 まず、アルバムのジャケットのイラストの車はカーマニアでもあるビリー・ギボンズが所有する1933年製のフォード・クーペで、シングルとしてリリースされた「Gimme All Your Lovin’」「Sharp Dressed Man」「Legs」のミュージックビデオには実際にこの車が登場。駐車場やガソリンスタンド、クラブなどさまざまなところでZZ Topが演奏し、美女たちが登場するストーリー仕立ての連作となっているので、You Tubeでチェックしてからアルバムを聴くのもアリだと思う。彼らと同じテキサス出身の(テキサスだけではないだろうが)トラック兄ちゃんたちがZZ Topをヘビロテ状態にしてハイウェイを走るため、レコードよりもカセットテープが売れたというエピソードは有名だが、実際、彼らの痛快な曲を聴いていると砂埃をあげて何もない1本道をひたすら走っていく錯覚に陥る。スタイルや風景は異なるが、アメリカのZZ Top、日本の矢沢永吉といったポジションだろうか。全曲、素晴らしいが中でも3曲目に収録されている「Sharp Dressed Man」のドライヴするサウンド、ビリー・ギボンズのギターソロはめちゃめちゃ男前。カナダを代表するロックバンド、Nickelbackも、ライヴでこの曲をカバーしていて(Nickelbackの5枚目のアルバムにはビリー・ギボンズがコーラスで参加)、映像が上がっているが、そのギターソロもかなりカッコ良いのでZZ Top好きはチェック。そして、何よりもこのアルバム、時代を良くも悪くも映し出してしまうシンセを取り入れているにもかかわらず、30年以上の月日がたった今も色褪せていない。それだけZZ Topのロックンロール、ブルース魂がホンモノだってことだろう。

著者:山本弘子

OKMusic編集部

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