ワールドミュージック・
ムーブメントを牽引した
3ムスタファズ3の異色作
『ハート・オブ・アンクル』
ワールドミュージック専門のレーベル
しかし、同じグローブスタイルからのリリースなのに、3ムスタファズ3というグループのアルバム『Bam! Mustaphas Play Stereo』(’85)には不思議なことに地図が付いていなかった。ジャケットにはどう見てもアラブ系の人たちが数人写って載っていたのでワールドミュージックには違いないだろうと思っていたのだが、後にそれがフェイクだということを知らされるのである。
今回は、3ムスタファズ3の2ndフルアルバム『ハート・オブ・アンクル』(’89)を取り上げる。メンバーのヒジャス・ムスタファことベン・マンデルソンは70年代後半にパワーポップグループのアマゾーブレイズ(Amazorblades)を率いており、セッションマンとしてもマガジン、ポーグスなどに参加したこともある有能なスタジオ・ミュージシャンだ。アマゾーブレイズ解散後は前述のグローブ・スタイルで、数々のワールドミュージックを紹介するプロデューサー兼フィールドワーカーを務めていた。彼は本物のワールドミュージックのレコードの中に自らがリーダーを務めるフェイク・ワールドミュージックグループを紛れ込ませたのである。
3ムスタファズ3という
優れたフェイクグループ
ヒジャズとフーザムは別ユニットでアフリカンポップを演奏するオーケストラ・ジャジーラで活動し、サバはU.Kプログレの名グループ、キャメルのメンバーで優れたベーシストだ。ソロアルバムもバス名義とムスタファ名義の両方でリリースしているぐらいなので、ムスタファ姓に愛着を持っているようだ。ケモもアシッドジャズのワーキング・ウィークで活躍するラテンジャズが得意なピアニストである。ニアヴェティはジャズグループのザ・リパブリックやケイジャン/ザディコグループのCシャープなどでも活躍するマルチインストゥルメンタリストであったが、惜しくも2008年に54歳の若さで逝去している。紅一点のラヴラは数か国語を操るマルチ・リンガルで、見た目はジプシー的な雰囲気であるが、実はジャズやポップスの歌手である。
彼らに共通するのは、多くのメンバーがマルチインストゥルメンタリストで、かつアレンジもできるということだ。普通にプログレやジャズをやっても凄いサウンドが生まれそうだが、バルカン半島(東欧)の架空の町シェゲレリからやってきた民族音楽グループという設定で、世界中の音楽を織り交ぜ、そこにロックスピリットを加味したサウンドを引っさげて突如現れたのである。