オルタナカントリーの
先駆けとなった
エルヴィス・コステロの
『オールモスト・ブルー』
アトラクションズの結成
実際にはピート・トーマスはカントリーロックグループのチリ・ウィリ・アンド・ザ・レッドホット・ペッパーズに在籍しており、ブルース・トーマスもクイバーというカントリーロックグループにいたので、ふたりともカントリー系のバックはお手のものである。
本作『オールモスト・ブルー』について
収録曲は全部で12曲。ハンク・ウィリアムス(1)、ドン・ギブソン(2)、ロレッタ・リン(3)、マール・ハガード(5)、ジョージ・ジョーンズ(6、7、9)、チャーリー・リッチ(8)、ドティ・ウエスト、エミルー・ハリス他(10)といった大物カントリーシンガーのカバーの他、ブルースシンガーのビッグ・ジョー・ターナー(11)の曲も収録している。「I’m Your Toy」「How Much I Lied」はグラム・パーソンズのナンバーで、フライング・ブリトー・ブラザーズ時代の「Hot Burrito #1」がなぜか「I’m Your Toy」と改題されているのだが、僕はその理由を知らない。また、マール・ハガードの「The Bottle Let Me Down」はグラムの愛唱曲でもあり、だからコステロはこの曲を取り上げたのかもしれない。
バックを務めるアトラクションズとマクフィーの演奏は素晴らしく、カントリーの焼き直しというよりはロックスピリットに満ちた新解釈のカントリーと言ってもいいだろう。中でも、スティーブ・ナイーヴはロックフィールを持ちながら、カントリーならではのホンキートンク・ピアノが実に上手い。言うまでもないが、マクフィーのギターとペダルスティールは秀逸で、ハードロックからカントリーまで守備範囲とする彼の存在なくしては、このアルバムは成立しなかっただろう。
しかし、やはり主役はコステロのカントリー的でないヴォーカルであり、これが本作をオルタナティブ化しているのである。実際、この作品を聴いてカントリーが好きになり、90年代にオルタナカントリーのアーティストとしてデビューした当時の若者は少なくない。そして、これはコステロの狙いでもあったのだろうが、本作のリリース以降、グラム・パーソンズの見直しが始まる。
コステロのパーソンズへの思いはオルタナカントリーのアーティストたちにも引き継がれ、現在はグラムへの極めて正当な評価が下されるようになったように思う。これまで“カントリーだから”と本作を無視してきた人は、邪険にしないでこの機会にしっかり聴いてみてほしい。
余談だが、本作がリリースされた時、輸入盤のシュリンクラップにステッカーが貼られていて、そこにはコステロ本人のイヤミとして“Warning! This album contains Country & Western Music & may produce radical reaction in narrow minded people.”(注意! このアルバムにはカントリー&ウエスタンが収録されており、心の狭い人々には面白くないでしょう)と書かれていた。
TEXT:河崎直人