バーバンクサウンドの影の立役者、
ロン・エリオットが残した、
唯一のソロ作
『キャンドルスティックメイカー』は
隠れた名盤

豪華セッションメンが名を連ねる、
たった1枚だけのソロアルバム

後期のブラメルズの『トライアングル(原題:Triangle)』『ブラッドリーズ・バーン(原題:Bradley’s Barn)』をプロデュースし、エリオットの才能を買っていたレニー・ワロンカーの後押しもあったのだろう(アルバムのスペシャルサンクスにワロンカーの名前がクレジットされている)、意を決して制作されたのが本作『キャンドルスティックメイカー』だった。アコースティックギターの響きを生かしたスピード感のある「モーリー・イン・ザ・ミドル(原題:Molly in the Middle)」で幕を開け、バド・シャンクのフルートを入れた2曲目「レイジー・デイ(原題:Lazy Day)」ではエリオットのギターの上手さが光る。続く「オール・タイム・グリーン(原題:All Time Green)」ではボー・ブラメンズ時代の仲間、サル・ヴァレンチノも加わり、グルービーなサウンドを聴かせる。よくうねるベースはクリス・エスリッジで、この人はフライング・ブリトー・ブラザーズやLAゲッタウェイをはじめ、ロサンゼル周辺の多くのアーティストのレコーディングに名を連ねるプレイヤーだ。「トゥ・ザ・シティ、トゥ・ザ・シー(原題:To the City, To the Sea)」ではストリングスを配した厚みのあるサウンドで、これはいかにもバーバンク的な凝ったもの。ブラスのアレンジをあのレオン・ラッセルが担当している。そして「ディープ・リヴァー・ランズ・ブルー(原題:Deep River Runs Blue)」ではライ・クーダーが入り、得意のスライド・ギターを弾いている。まだまだ彼らしい独特のタメを効かせたものではなく、繊細というか初々しいプレイだ。ドラムのポール・ハンフリーはフランク・ザッパとも仕事をしているプレイヤー。そして、LPではB面すべてを費やして「キャンドルスティックメイカー組曲(原題:Candlestick Maker Suite)」が収められている。組曲というだけあって「パート1 ダーク・イン・トゥ・ダウン(原題:Part I-Dark Into Dawn)」「パート2 クエスチョンズ(原題:Part II-Questions)」と曲調を変えた2部構成の凝ったつくりで、よくこんな曲が書けたものだ。全体を通してヒネリの効いた演奏に乗ってロン・エリオットの朴訥としたヴォーカルが聴けるのだが、悪くいえば没個性、だが嫌味のない味わいのある歌声で、これはこれで悪くない。

惜しむらくは、おそらく発表当時でも、もう少し曲数を増やしてもいいのではという意見があったのではないか。トータルで30分程度という収録時間はさすがに物足りない。もう少し聴きたいという不完全燃焼なものを感じる。1969年という時代性も考慮しつつ客観的に見て/聴いても、これはやっぱり売れなかっただろうと思う。実際、セールス的には惨敗だったらしい。過去のボー・ブランメルズ時代のアルバムなど聴くと、その経験と才能を持ってすればシングル向きの曲も作れたと思うのだが、正直言って本作からシングル曲は選べなかったのではないか。ラジオでオンエアされそうな曲があるかどうかも微妙だ。所属レーベルのA&Rマンも、アルバムをどうプロモーションすればいいのか分からず、困惑しただろう。だからと言って駄目だとは思わない。随所にロン・エリオットの才気は感じられるし、バーバンクサウンドを感じさせるカラーもある。エリオットもレコーディングに参加している、これまたバーバンクサウンドの名盤とされるヴァン・ダイク・パークスの『ソング・サイクル(原題:Song Cycle)』の凝りに凝った、ある意味難解とも思える実験的な楽曲、サウンドに比べれば、より明快で分かりやすいつくりなのだが。

まったく正当な評価もされることなく、本作はあっと言う間に市場から消えてしまったらしい。それはそうだろう…と納得してしまう一方、どこか気持ちのすみに引っかかってしまう。マニア向け、と言ってしまったらそれまでだが、捨てがたい魅力のあるアルバムなのだ。

この結果にはさぞかし彼も落胆したのだと思うが、根気良くもう少しソロアーティストとして何枚かアルバムを作ってみても良かったんじゃないか? ところが、ロン・エリオットはあっさりソロでの活動に見切りをつけてしまう。以降は1973年にパン(Pan)、その翌年にはジャイアンツ(Giants)というバンドを組み、それぞれアルバムを1枚ずつ残しているのだが(マニアが血眼で探す超レアアイテムとなっているらしい)、内容の良さとは別に、いずれもヒットには縁遠く、やがてロン・エリオットの名はほとんど聞かれなくなってしまう。

1984年にリリースされたドリー・パートンのアルバム『ザ・グレート・プリテンダー(原題:The Great Pretender)』にロン・エリオットがほとんどの曲でエレキ、アコースティックギターで参加していることが分かっている。これが目下のところ確かな消息としては最新のものになる…。亡くなったという報せは目にしていない。現80歳、今はどうしているんだろう?
※動画サイトを漁ってみると、ペダルスティール奏者として同名の人物がいる。ライ・クーダーとも共演しているバディ・エモンズと交流があるプレイヤーで、卓越した技量の持ち主らしく『Pure American Steel』というアルバムも残しているのだが、当人がここで紹介しているロン・エリオットと同一人物なのか確証が得られていない。メールで問い合わせできればと調べてみたが、それも叶わず。情報をお持ちの方がいたら、お知らせください。

ソロキャリアとして、たった1枚しかアルバムを残さなかったロン・エリオット。その珠玉のバーバンクサウンドが詰まった傑作『キャンドルスティックメイカー』。地味ながら、ぜひ聴いていただきたい1枚です。アルバムが楽しめて、目立たない中に巧みなギターワークを感じ取れたら、あなたもなかなかの数寄者かも。

TEXT:片山 明

アルバム『The Candlestickmaker』1969年発表作品
    • <収録曲>
    • 01. モーリー・イン・ザ・ミドル/Molly in the Middle
    • 02. レイジー・デイ/Lazy Day
    • 03. オール・タイム・グリーン/All Time Green
    • 04. トゥ・ザ・シティ、トゥ・ザ・シー/To the City, To the Sea
    • 05. ディープ・リヴァー・ランズ・ブルー/Deep River Runs Blue
    • 06. キャンドルスティックメイカー組曲/Candlestick Maker Suite
    • パート1 ダーク・イン・トゥ・ダウン/Part I-Dark Into Dawn
    • パート2 クエスチョンズ/Part II-Questions
『The Candlestickmaker』(’69) / Ron Elliott

OKMusic編集部

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