ライ・クーダーとの出会いにより
世界的にも知られるようになった
ハワイアン&
スラック・キー・ギターの
巨星ギャビー・パヒヌイの傑作

コンテンポラリー・ハワイアンの祖

“ギャビー” こと、チャールズ・フィリップ・パヒヌイ は1921年4月22日、ホノルルで生まれる。家は貧しく、小学5年で学校を辞めてしまったらしい。グレていたのかどうかは分からないが、彼は音楽に目覚め、とりわけジャズに夢中になって、最初にスティール・ギターをマスターし、バーやクラブで演奏するようになったという。そう言えば、ホノルルの近郊にはあのパールハーバーがあり、ギャビーがちょうど20歳の時に太平洋戦争が勃発している。ホノルルに住んでいたならば、あの日本軍の奇襲攻撃を体験していることになる。ともあれハワイにいて、海軍が駐留している環境で生活するということは本土の音楽をリアルタイムで聴くこともできたはずだ。そうしたスタイルの音楽を、軍関係者に求められて演奏する機会もあったかもしれない。そこで聴き齧った音楽、経験がいつしか彼の中で伝統的なハワイ音楽と混ぜ合わされ発酵していったのではないか。逆に1920〜40年代の初期カントリーやウェスタンスウィング、ジャズにはハワイアンの影響を感じさせるものもある。米本土でハワイアンブームがあったらしいのだ。だからなのか、その時代の古びたバンドの写真にはウクレレを持ったプレイヤーが写っていたりする。きっと相互に影響を与えあっていたのではないか。

話を戻すと、やがてスラック・キー・ギターの演奏を身につけたギャビーは1946年に初のレコーディングを体験し、以降ハワイアンバンドで活動しながらいくつかのスラック・キー・ギターのアルバムをレコーディングしている。1960年代に入ってからは今も語り継がれている伝説のハワイアンバンドのサンズ・オブ・ハワイに加入して、数々の名演奏を残している。録音されてからけっこうな年月がたっているけれど、古臭さは微塵も感じられない。そして1970年代、スラック・キー仲間のアッタ・アイザックスら音楽仲間と息子たちと一緒に結成したのがギャビー・パヒヌイ・ハワイアン・バンドだった。54歳という脂の乗り切った時期ということになるが、この5年後に亡くなってしまうことを思うと、世界的に知られることになるレコーディングの機会をセッティングしたようなライ・クーダーにも座布団を5枚くらい進呈しなければと思う。

今回、テキストを書くにあたり、ギャビー・パヒヌイ・ハワイアン・バンドの2作はもちろん、これも名盤の誉れ高い、ソロ作でセルフタイトルをつけた、通称ブラウン・アルバムと呼ばれる『ギャビー(原題:Gabby)』や、サンズ・オブ・ハワイというバンドのアルバムも聴いたが、改めてどこかアメリカのポピュラー音楽、ジャズ、ラテンのテイストがその音楽の底に横たわっているのではないかと思えてならない。

最後に、本作『Gabby Band Volume 1』(’75)が出たその年、後にハワイのミュージックシーンを代表し、世界的なアーティストとなる男子が生まれている。オアフ島ノースショア出身で、プロのサーファーとしても知られるミュージシャン、ジャック・ジョンソンである。ジョンソンは両親の聴くギャビーのレコードをBGMに育ち、今でもギャビーをリスペクトしているという。ギャビーが残した音楽は、世代や音楽のジャンルを越えて、人々に影響を与え続けているわけだ。

TEXT:片山 明

アルバム『Gabby Band Volume 1』1975年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. アロハ・カ・マニニ/Aloha Ka Manini
    • 2. モキハナのレイ/Ku'u Pua Lei Mokihana
    • 3. プウアナフル/Pu'uanahulu
    • 4. かぐわしき風/Moanl Ker'ala
    • 5. ブルー・ハワイアン・ムーンライト/Blue Hawaiian Moonlight
    • 6. ムーンライト・レディ/Moonlight Lady
    • 7. エ・ニヒ・カ・ヘレ/E Nihi Ka Hele
    • 8. ハワイアン・ラヴ/Hawaiian Love
    • 9. ワヒネ・ウイ(美しいハワイ娘)/Wahini U'l
    • 10. オリ・コモ/Oli Komo
    • 11. イポ・レイ・マヌ(憧れし恋人)/Ipo Lei Manu
アルバム『Gabby Band Volume 2』1977年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.ポー・マヒナ(月の輝く夜に)/Po Mahina
    • 2.ワイキキ・フラ/Waikiki Hula
    • 3.プア・トゥバローゼ(バラの花)/Pua Tuberose
    • 4.ハウ・ドゥ・ヤ・ドゥ(はじめまして)/How'd Ya Do
    • 5.プウヴァアヴァア/Pu`uwa`awa`a
    • 6.マカプウ・ビーチ(マカプウの浜辺)/Makapu`u Beach
    • 7.プア・ククイ(ククイの花)/Pua Kukui
    • 8.キラキラ・オ・モアナルア/イヌ・イ・カ・ワイ(荘厳なるモアナルア/水を飲む)/Kilakila O Moanalua
    • 9.ノ・ケ・アノ・アヒアヒ(夕暮れ時に)/No Ke Ano Ahiahi
『Gabby Band Volume 1』('75)/The Gabby Pahinui Hawaiian Band futuring Ry Cooder
『Gabby Band Volume 2』('77)/The Gabby Pahinui Hawaiian Band futuring Ry Cooder

OKMusic編集部

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