稀代の名曲「セルロイドの英雄」を
収録したキンクス中期の傑作
『この世はすべてショー・ビジネス』
アルバムの完成度は高いが
チャートでは苦戦
67年の5thアルバム『サムシング・エルス・バイ・ザ・キンクス』はニッキー・ホプキンスの出番が増え、少しプログレの香りもする作品となった。凝ったメロディーを持つ曲が多く、キンクスの代表曲のひとつである名曲「ウォータールー・サンセット」(全英2位)が収録されている。良いアルバムだと思うが、チャートでは振るわなかった(全英35位、全米153位)。以降、『ライヴ・アット・ケルヴィンホール』(‘67)、『ビレッジ・グリーン・プリザベーション・ソサエティ』(’68)、『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡(原題:Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire)))』(‘69)、『ローラ対パワーマン、マネーゴーラウンド組第一回戦(原題:Lola versus Powerman and the Moneygoround, Part One)』(’70)、サントラ『パーシー』(‘71)と精力的にアルバムをリリースするもののセールス面での不調は続き、キンクスは所属していたパイ・レコードと継続契約をせず、大手のRCAと新たに契約する。
RCA移籍後、会心の一作
『マスウェル・ヒルビリーズ』
本作『この世はすべて
ショービジネス』について
そして、次にリリースされたのが本作『この世はすべてショー・ビジネス』で、前述したようにスタジオ録音とライヴ録音を合体させた変則的な2枚組になっている。スタジオサイドは前作同様にザ・バンドとアメリカの憧れを形にしている。スライドギターはリトル・フィートのローウェル・ジョージを手本にしており、ホーンセクションはザ・バンドの『ロック・オブ・エイジズ』風だ。とはいえ模倣ではなく、しっかりキンクスのカラーが出ているのだからレイ・デイヴィスは流石である。スタジオ録音は全部で10曲、全て文句なしの仕上がりだ。そして、最後に収められているのがキンクス稀代の名曲「セルロイドの英雄」である。この曲はキンクスを代表するだけでなく、ロック史に残る傑作ではないだろうか。
ライヴサイドはスタジオサイドのレコーディング中にカーネギーホールで行なわれたライヴを収録、同時期であるだけにサウンドの違和感はない。スタジオサイドよりはジャズ(ヴォードヴィル風)色が濃いが、ノスタルジックで円熟したサウンドが聴ける。ハリー・ベラフォンテのカバー「バナナ・ボート・ソング」はご愛嬌だが、これはスキッフルブームの名残かもしれない。ライヴサイドの最後はキンクスの代表曲のひとつ「ローラ」で、観客が大合唱するだけで終わるのが少々物足りない気もする。ここは「タイアード・オブ・ウェイティング・フォー・ユー」あたりで締め括ってほしかったが、“キンキーサウンド”の頃とは違うグループだといってもおかしくないので、これはまあ仕方ないところかもしれない。
TEXT:河崎直人