グラスゴー出身で
英フォーク・ロックを代表する
シンガーソングライター、
ラブ・ノークスを今再び
本作
『ドゥー・ユー・シー・ザ・ライツ』に
ついて
もう一人、ノークスに近い音楽性のミュージシャンを挙げておくとすれば、故ロニー・レイン(Ronnie Lane 元スモール・フェイセス→フェイセス→スリムチャンス)だろう。とにかく、聴き流していてとても和ませられるのだ。曖昧な印象で申し訳ないのだが、不思議と収まりがいいというのがこの人の持ち味かもしれない。馴染みの店にある不動の定番メニューのような、なかなか他所では出せない味というか…。編成はノークスのギター、ヴォーカルのほか、セッションプレイヤーによるキーボード、エレキ・ギター、ダブルベース、ドラム。極力シンプルに抑えたのであろうバンドのアンサンブル、タメの効いたリズムなどからは、彼もまたザ・バンドの影響を受けたのだろうか。
とはいえ、キャッチーなメロディーがあるわけでもなく、アルバムはほとんど注目を浴びず、デッカレコードとの契約は1枚で終わる。だが、アルバムに収録されていた「トゥゲザー・フォーエヴァー(原題:Together Forever)」がやはりスコットランドのバンド、リンディスファーン(Lindisfarne)によってセカンド作『フォグ・オン・ザ・タイン(原題:Fog On The Tyne)』(’71)でカバーされるなど、ノークスの楽曲センスは一定の評価を得る。そしてこの時期、やはり同郷のシンガーソングライターで、フィフス・コラムというバンドをやっていたジェリー・ラファティとジョー・イーガンに誘われ、ノークスはスティーラーズ・ホイールの結成に加わる。後に「スタック・イン・ザ・ミドル・ウィズ・ユー(原題:Stuck In The Middle With You)」の世界的なヒットでも知られる英フォークロックの名バンドなのだが、ノークスはデビュー盤が出る前に脱退しているので、彼の参加した音源が残されていないのは惜しまれるところ。喧嘩別れしたわけではなく、ジェリー・ラファティとジョー・イーガンはノークスのソロ作のレコーディングに参加するなど、交流は続く。特にジェリー・ラファティとは長く友好的な関係が続いたようだ。
そして、スティーラーズ・ホイールやジェリー・ラファティと同じA&Mレコードから、ノークスのセカンド作『ラブ・ノークス(原題:Rab Noakes )』(’72)がリリースされる。引き続きバンド編成で、スティーラーズ・ホイールでの経験も加味し、バンドならではの聴かせどころ、デビュー作からさらに深めたルーツ色など、内容はかなり聞きごたえのあるものに仕上がっている。プロデュースにはボブ・ディランの諸作、サイモン&ガーファンクルを手掛けたボブ・ジョンストンがあたるなど(彼は先述のリンディスファーンの『フォグ・オン・ザ・タイン(原題:Fog On The Tyne)』のプロデュースを担当しており、その流れでノークスのことを知ったのだろう)、ノークス自身も自信作だったが、これも売れなかった。いいんだけどなあ〜と、思わずつぶやいてしまうのだが、結果は虚しく、A&Mとの契約もこれで終わる。それでもミュージシャン、業界受けするというのか、さほど間をおかず、今度は大手ワーナーとの契約がまとまる。それを機に心機一転、ノークスはアメリカに活動拠点を移している(すぐまたグラスゴーに戻るのだが)。