ライ・クーダーらしさが際立つ
傑作セカンドアルバム『紫の峡谷』
本作『紫の峡谷』について
収録曲は全部で11曲、ドラムにジム・ケルトナーが参加することで、エイトビートがシンコペーションの効いたポリリズミックなリズムになっているのがミソ。民族音楽にも精通したライの思い描いたサウンドはケルトナーの存在なくしては生まれ得なかったものだ。同時期にリリースされたリトル・フィートのファースト(’70)や『セイリン・シューズ』(’72)でも、リッチー・ヘイワードがケルトナーを範にしたプレイをしているのは、お互いのサウンドを研究していたからである。ライはリトル・フィートのファーストにゲスト参加し、リトル・フィートのリッチー・ヘイワード(Dr)とロイ・エストラーダ(Ba)はライのファーストでリズム・セクションを受け持っており、互いの交流が可能だったのである。
アルバムの構成は『ライ・クーダー登場』とさほど変わらず、古いブルースとヒルビリーを中心に組み立てられている。ライはギター(エレキとアコースティックの両方)とフラットマンドリンを演奏しており、絶品のスライドギターはもちろん、マンドリンも上手い。「ビリー・ザ・キッド」のマンドリンプレイは、スタイルとしてはブルースのヤンク・レイチェルとブルーグラスのビル・モンロー、その両方から影響されているように思える。ライは子供の頃にはブルーグラス・バンジョーのプレイヤーとして活動していた時期があって(後に組むことになるラップスティールの名手デビッド・リンドレイもブルーグラス・バンジョー奏者であった)、モンローからの影響は当然あるはずである。
カリプソの「トリニダードのF.D.R」とバハマのギタリスト、ジョセフ・スペンス作の「天国からの夢」の2曲は前作にはなかったワールドミュージックへの試みで、ジョセフ・スペンスの曲を取り上げたのは本作に参加しているフリッツ・リッチモンド(ジム・クエスキン・ジャグバンド)からの紹介だと思われる。フリッツはスペンスの研究家としてその演奏を録音するために1964年にバハマまで赴いている(その時の録音はエレクトラから『Happy All The Time』(’64)としてリリースされている)。
プロデュースは前作がレニー・ワロンカーとヴァン・ダイク・パークスだったが、本作ではワロンカーのほかメンフィスの重鎮ジェームズ・ルーサー・ディッキンソン(ピアノも弾いている)が参加しているだけに、前作よりも泥臭さが増している。ディッキンソンはディキシー・フライヤーズのメンバーで、ストーンズやアレサ・フランクリンのバックなどを務め、サザンソウルやスワンプロックの世界ではよく知られるアーティストだ。ライはこの後、ルーツ音楽に精通したディッキンソンと長く付き合っていくことになる。
現在の音楽業界の仕組みを考えると、ライ・クーダーのようなアーティストがメジャーレーベルからアルバムをリリースすることは困難であろう。本作は、ロックの良心ともいえるまさに傑作中の傑作である。
TEXT:河崎直人