ハードロックの
プロトタイプを作り上げた
ジェフ・ベックの『ベック・オラ』
ジェフ・ベック・グループ結成
ただ、『トゥルース』にはハードロックとポップス的なものが混在していて、アルバムとしての完成度は今ひとつであった。これはベックの売れたい想いが邪魔をしたのであり、20代前半の若者の気持ちとしては理解できる。この時、まだ意識の上ではロックはロックロールでありポップスの一部であったのだから、ベックも自覚のしようがないところである。グループ初期にメンバーであったブリティッシュロック界最高のドラマーのひとりであるエインズレー・ダンバーが脱退したのも、ベックの売れようとする部分に嫌気が差したからで、ベックのリーダーシップが売れるものを作るのか、良いものを作るのか、この時点ではまだ中途半端であったのだ。しかしながら、『トゥルース』は全米チャート15位まで上昇するヒット作となり、ベックのハイテクニックのギターワークはもちろん、ロッド・スチュアートの枯れたヴォーカルにも大きな注目が集まった。
本作『ベック・オラ』について
収録曲は全部で7曲。ジェフ・ベックのギターは前作よりはるかに破壊力が増している。ビブラート、トーンアームを使ったベンド、フィードバック、スライドなどを駆使して、ロックギターとしてそれまでにないレベルの最高のテクニックを披露している。ジミヘンとはお互い影響し合っているだけに似たところもあるが、ジミヘンの整頓されたプレイと比べて、ベックの意表を突いたギターワークはまさに彼の独壇場だ。
タイトでシンコペーションを効かせたロン・ウッドとトニー・ニューマンのリズムセクションも素晴らしく、特にプレスリーのロックンロールをカバーした「オール・シュック・アップ」と「監獄ロック(原題:Jailhouse Rock)」の2曲は、ロックンロールからロックへの進化が明確に見てとれる仕上がりになった。ハードロックのプロトタイプとも言える「スパニッシュ・ブーツ」「プリンス(原題:Plynth(Water Down The Drain))」「ハングマンズ・ニー」「ライス・プディング」の4曲は、べックの長い活動の中でも最高位にランクされるギタープレイではないだろうか。『べック・ボガート・アンド・アピス』(‘73)や『ブロウ・バイ・ブロウ』(’75)、『ワイアード』(‘76)と比べても遜色のないプレイだと僕は思う。ゴスペルライクなインストの「Girl From Mill Valley」は他とテイストが違うが、べックのアメリカ南部ロック好きがよくわかるサウンドで、この曲は第2期ジェフ・べック・グループへの布石なのかもしれない。
1967年の転機の項で述べた各種アルバムが、ロックンロールからロックへの進化が分かる作品だとするなら、『ベック・オラ』はロック界で最初のハードロック作品と言えるのではないか。本作はそれぐらい革新的なサウンドを持っており、当時最高のロックの技術が詰め込まれた作品となった。なお、このアルバムの核ともいえるニッキー・ホプキンスの存在は大きく、彼はこのアルバム以降、アメリカで多くのアルバムに参加し、英米双方のロックの進化に大きな役割を果たすことになる。
TEXT:河崎直人