“キンクス再結成”の噂が流れている。本当かな~。リーダーのレイ・デイヴィスが長年不仲が囁かれていた弟のデイヴ・デイヴィスと近年和解し、2015年にデビュー50周年を記念してグループの再結成を発表したというのが発端だったか。だが、その後レイは否定。いや、完全否定ではなく2015年にはないというだけ。そのうち再結成するかもとレイは言ったとか言わなかったとか。先にアルバム制作に入る。実際にともにスタジオに入り、新曲のデモ音源をレコーディングした。いや、それはないと今度はデイヴが否定。と、情報が錯綜している。まぁ、世界で一番仲の悪い兄弟がやってるバンドだから、話は半分くらいに聞いておいたほうがよさそう。とはいえ、実現すればこんなに嬉しいことはない。

2014年のクリスマス・イヴの日には折良くソニー・ミュージックから『Kinks the anthology 1964-1971』(日本版2000セット限定)というボックス・セットが発売された。バンド前期となるPYEレーベル時代の音源をまとめたボックスで、高音質のブルースペック仕様のディスク5枚組の他、レイ・デイヴィスの最新インタビューや54頁におよぶ豪華ブックレット、他がセットになっている。

ボックスの収録曲はほぼオリジナルアルバムをカバーしている。同時代のビートルズ、ストーンズ、ザ・フーといったバンドの中でも、ビートルズと並んでいち早くオリジナル曲で勝負していたバンドであり、レイ・デイヴィスのソングライティングは天才的といえ、名曲が無尽蔵なのだ。今回はこのボックスよりも、iTunes Storeにはお手軽な『The Singles Collection』('97)というアルバムがリリースされており、彼らの名曲中の名曲が厳選25曲も収録されている。じゃ、とりあえず、ここから絞り込んだ5曲を今回は紹介するとしよう。(1)まず、5曲聴いてみる。(2)気に入った方はシングル集を買って他の曲も聴く。(3)さらにハマったらお気に入りの曲が入ったオリジナルアルバムを探す。(4)発売されたばかりの5枚組『Kinks the anthology 1964-1971』を買う、と。そういう流れでよろしく!

1.「All Day and All of the Night」(
'64)

1964年にリリースされたデビュー4作目のシングルで、英で2位、米でも7位の大ヒットを記録している。これに先だってリリースされた「You Really Got Me」が何と言っても有名だけど、この曲も同じように当時としてはパワーコードを多用し、異色の歪んだギター音で弾かれるリフの格好いいこと。「You Really~」より曲構成が巧みになり、A-B-Cと転換していくメロディーの使い方が、単純かつ最強の効果を生んでいると思わせられる。「You Really~」と並んでこの曲が多くのハードロック系バンドにカバーされているのも納得できる気がする。ちなみにこのギターサウンドだが、そもそも癇癪を起こしたデイブ・デイヴィスが腹立ちまぎれにアンプを蹴飛ばすかギターを投げつけた拍子にスピーカーに亀裂が入り、そのまま鳴らしてみたら「スゲエ音」がしたというわけだ。やってみるものである。

2.「Set Me Free」('65)

セカンド作『カインダ・キンクス』('65)の米国盤に収録された曲で、英国では単にシングルでリリースされ、これも英9位、米23位と大健闘している。レイ・デイヴィスの曲作りの巧みさはますます冴え、いわゆる“キンキー・サウンド”と呼ばれた騒々しい曲で攻めずとも、こうしたマイナー調で絶妙の哀愁を表現できるのだと、懐の深さを証明してみせた。まぁ、騒々しくないとはいえ、ヴォーカルの背後ではデイヴ・デイヴィスのギターが派手にドライブしているのだが。タイプはもちろん全然違うが、こうした簡単そうで実は凝った曲というのはローリング・ストーンズのジャガー/リチャーズにはできそうでできない。ザ・フーのピート・タウンゼントにはできたかな? とにかく、この頃からビートルズのレノン/マッカートニーに対抗しうるソングライター、コンポーザーとして、レイ・デイヴィスは認められつつあった。同じ頃に活動し、しのぎを削っていたビートバンドの中でも奴は図抜けた存在だったと、いつだったかキース・リチャーズが当時を振り返って証言していた。

3.「Sunny Afternoon」('66)

この曲もキンキー・フリーク必殺の曲だろう。4作目となる『Face To Face』('66)に収録され、彼らとしては3度目となる英No.1ヒット(2週間連続)、米でも14位とヒットしている。ちなみに英国ではそれまでチャートに居座っていたビートルズの「ペイパーバック・ライター」を蹴落としての記録なのだからすごいではないか。牧歌的というか、ミュージック・ホール、ヴォードヴィル調というか、曲調、コーラス、メロディー、サウンドメイクのセンスにも一段と磨きがかかっていることをうかがわせる。そもそもバンドに(主にレイ)オリジナル曲での勝負を進言したのは当時のマネージャーだったラリー・ペイジだった。印税収入を目論んでのアドバイスだったのだが、金銭面にシビアなレイ・デイヴィスはそのあたり実にしっかりしており、後に両者間で激しい対立が起こり、法廷闘争に発展するのだが。

4.「Waterloo Sunset」('67)

たまらなく英国、ロンドン愛を感じさせる大名曲。アルバム『Somethng Else』('67)からのシングルで、これも英チャートで堂々の2位を記録している。テリーとジュリーという架空のカップルを設定し、彼らが地下鉄ウォーター・ルー駅で出会い、テムズ川にかかる橋を手を取り合って渡っていくという光景を描いている。一説にはモデルは後にオーストラリアに移住するレイ・デイヴィスの姉とボーイフレンドのことだとされている。熱狂的なキンクスのファンなら、ロンドン観光で必ず訪れるのがこのウォーター・ルー駅で、夕日の沈むテムズ川を眺めながら、しみじみと涙するのだそうだ。納得できる話だ。いかにも英国人が書いたと思える哀愁が、少し鼻にかかったレ・デイヴィスのヴォーカルに乗り、実にロマンチック、たまらなく胸を熱くする。

5.「Autumn Almanac」('67)

シングルでのみリリースされた曲だが、時期的にはアルバム『Somethng Else』と次作となる『The Kinks Are The Village Green Preservation Society』('68)の狭間にリリースされ、バンドの過渡期を記録した曲でもある。時代は風雲急を告げており、米国ではサイケデリック・ムーブメントが沸き起こり、ジミ・ヘンドリックスが英国でデビューしたり、ビートルズはライヴ活動をやめてコンセプト作の制作をすすめていたりと、ロックミュージックもより多様に変化し、バンドもリスナーやオーディエンスの求める新しい姿へと進化しなければならなかった。キンクスとて例外ではなく、ここにはもうビートバンドとしてのキンクスはいない。ドラマチックなストーリーを曲の中で表現する、レイ・デイヴィスお得意の創作スタイルが確立され出した曲とも言える。それにしても、彼の曲は大それたロックスターの日常を描くことはなく、ロンドンの下町のたわいない話が多い。この曲も秋の一日、年老いた庭師の姿を目にしたことが書くきっかけになったという。ロンドンっ子にキンクスが愛されたのも、そんな親しみやすさが大きいのだと思う。
…と、結果的には64年から67年のわずか3年間の間に生まれた曲だけで軽く5曲が埋まってしまった。「See My Friend」も捨てがたかった。「David Watts」を外すなんてどうかしている。「Till The End of The Day」「Dedicated Follower of Fashion」はマストじゃないか? と、どこかからキツい声が聞こえて来るようで楽しくも苦しい作業となった。いつか70年代のキンクス、RCA、アリスタ時代のアルバムからの曲も紹介しなければと思う。彼らの最新情報を追記しておくと、昨秋には脳梗塞でしばらくライヴ活動から遠ざかっていたデイヴ・デイヴィスが新ソロ・アルバム『Rippin Up Time』をリリースしたのに続き、米デトロイトでギグを行なった。熱心なキンクス・ファンの友人がわざわざ日本からそれを観に行き、「キンクス時代の曲がやっぱり多かったよ」と、その回復ぶりをうれしそうに報告してくれたものだ。レイとデイヴ兄弟はそれぞれ、71歳、68歳となる。無理のきかない年齢に達しているのだが、英国の至宝と言える名曲群を聴くにつけ、ふたりが並んでステージに立つ姿を夢見ないではいられないのだ。

著者:片山明

OKMusic編集部

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