ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!

今日もやっぱり寄席に行く、
噺家さんの出囃子五選
その二

心臓を泥まみれの氷柱で貫かれ、だくだくあふれる血を止めることすら億劫になるようなニュースが矢継ぎ早に飛び込むここ数日、神田松鯉先生の人間国宝認定は唯一と言っていいほどのおめでたい報せでした。本日も先生の祝福ムードに満ちた浅草演芸ホールまで行ってきたのですが、今日締め切りなのにまだこの原稿が執筆途中だったことを思い出し、トリを務める先生の怪談を聴かずして泣く泣く離脱しました。いいんだ、お弟子さんの神田松之丞さんに「ちょっと笑いすぎじゃないですかね」と苦笑いされるほど楽しかったから。そういうわけで、どういうわけか分かりませんが、寄席で聴ける変化球的な出囃子をご紹介します。
シングル「檄!帝国華撃団」/真宮寺さくら&帝国華劇団
「スーダラ節」収録シングル「忘れかけてた物語」/チャラン・ポ・ランタン
「銀座カンカン娘」収録アルバム『UNITED COVER』/井上陽水
「ウィリアムテル序曲」収録アルバム『ロッシーニ序曲集』
「Writing On the Wall」アルバム『Shadow of the Moon』/Blackmore's Night

「檄!帝国華撃団」(’96)
/真宮寺さくら&帝国華劇団

シングル「檄!帝国華撃団」/真宮寺さくら&帝国華劇団

シングル「檄!帝国華撃団」/真宮寺さくら&帝国華劇団

想像してみてください。長唄やセピア色の歌謡曲、あるいはスタンダードなデキシージャズといった出囃子を期待していたのに、緞帳が上がった途端に切れ味鋭い三味線の和音と軽やかな太鼓の音で構成された「檄!帝国華撃団」のイントロが流れてくる瞬間を。デコラティブなホーンやストリングスがダイナミックに彩る一節を三本の弦で表現すると一陣のつむじ風のごとく潔くなるのかと驚くあまり、もう落語に聴き入るムードから引き剥がされてしまう感動を。小刻みに跳ね、泳動するベースラインを思い出していたら着物姿の男性が唐突に登場する戸惑いを。ちなみに三遊亭とん楽師匠の高座を目当てに行くと聴くことができます。

「スーダラ節」(’14)
/チャラン・ポ・ランタン

「スーダラ節」収録シングル「忘れかけてた物語」/チャラン・ポ・ランタン

「スーダラ節」収録シングル「忘れかけてた物語」/チャラン・ポ・ランタン

現在、噺家さんは東西合わせて約900人いらっしゃるそうで、そうなると必然的に人気の高い出囃子だとか複数の噺家さんが使用している楽曲というのも出てくるわけです。「元禄花見踊」などが好例ですが、「スーダラ節」もそのひとつです。古くは植木等が歌い、昨今ではSAKEROCKやSEBASTIAN Xなどもカバーしているこの曲、今回はチャラン・ポ・ランタンのバージョンをピックアップ。シアトリカルなポエトリーリーディングのような歌唱に、酩酊感と高揚感が忙しなく回転するさまを表現したかのような緩急自在なアレンジの過剰さに“幻想の中にしか存在しない、昭和という時代の憧憬”が極彩色のセロファンに包まれています。

「銀座カンカン娘」(’01)/井上陽水

「銀座カンカン娘」収録アルバム『UNITED COVER』/井上陽水

「銀座カンカン娘」収録アルバム『UNITED COVER』/井上陽水

「銀座カンカン娘」を使用しているのは古今亭菊千代師匠。高峰秀子や美空ひばり版が有名ですが、こちらは井上陽水のカバーアルバム『UNITED COVER』に収録されているバージョンですが、牧歌的な原曲をこれでもかと物の見事に遊び尽くす容赦のなさに何度でも驚かされます。艶と乾きと熱と冷たさが融合した稀有なヴォーカリスト井上陽水の歌声をエフェクトで無機質にコーティングする異質さ、ループするアコギの和音と相反して磁場の狂った別次元に首を突っ込んだかのようなグルーブが曼荼羅を描くベースラインに胸焼けがしそうです。なお、落語の起源は江戸の中頃と言われていますが、女性の噺家さんの歴史はまだ50年に満たないとか。

「ウィリアムテル序曲」(1829)
/ジョアキーノ・ロッシーニ

「ウィリアムテル序曲」収録アルバム『ロッシーニ序曲集』

「ウィリアムテル序曲」収録アルバム『ロッシーニ序曲集』

“クラシックのクの字は知らなくても、これなら分かる!”という王道中の王道を使用しているのは三遊亭歌扇師匠。小学校の教科書や行事にもしばしば使われるこの曲をトラウマ楽曲に変貌させたのは、キング・オブ・マスターピース『時計じかけのオレンジ』です。マルコム・マクダウェル演じるアレックスの暴力と破壊衝動、転落と再生を描いた同作の予告編や劇中ではテクノアレンジバージョンを起用。むやみやたらにせっかちで、パズルのピースのごとく仕組まれたチープさが“数十年前に誰もが思い馳せていた近未来感”を瞬く間に構築していくトリップ感は、そこからさらに何十年経過しても色褪せず、結晶された生々しさが脈打っています。

「Writing On the Wall」(’97)
/Blackmore's Night

「Writing On the Wall」アルバム『Shadow of the Moon』/Blackmore's Night

「Writing On the Wall」アルバム『Shadow of the Moon』/Blackmore's Night

『任侠 流れの豚次伝』シリーズなどで知られる三遊亭白鳥師匠の出囃子は高座名とかけた「白鳥の湖」ですが、せっかくなのでチャイコフスキーの同曲を下敷きにしたこの曲を。Blackmore's Nightはリッチー・ブラックモアとキャンディス・ナイトを中心としたプロジェクトですが、同曲が収録されているアルバム『Shadow Of The Moon』ではリッチー・ブラックモアのブルースロックサウンドは鳴りを潜め、アシッド感を醸し出すフォークロックやニューエイジを標榜しているのですが、ギターのエフェクトがダーティーでゴシックなトランスサウンドとクラシックのキマイラ感に爪を立てる「Writing On the Wall」は、作品のビジュアルから想起される不穏さを余すところなく具現化しています。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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