封切り間近!映画×音楽の祭典『MOO
SIC LAB』を振り返る

今年も『MOOSIC LAB』の季節がやってきました。このイベントは2012年にスタートしたもので、毎年夏になりますと、数組のアーティストと映像・映画監督とのコラボムービーが公開されます。“インディーズミュージシャンの登竜門”と言ってしまうとちょっと大げさかもしれませんが、まだ歴史は浅いものの、その後メジャーデビューを果たしたアーティストも多数います。ざんざんと暴力的に降り注ぐ日差しを避けるように逃れ着いた映画館でひっそりと繰り広げられる、素朴な演技と音楽と映像のつばぜり合い、スクリーンの中で射出される萌芽寸前の才能と葛藤のノイズが、夏の風物詩となりますように。

1.「Over the Party」(’13)/大森靖

代表曲のひとつ「ミッドナイト清純異性交遊」の《アンダーグラウンドから君の指まで遠くはないのさ》という歌詞をものの見事に体現してしまった彼女ですが、その華奢な体ひとつでメインストリームのど真ん中に痛々しいほどに無垢なピンク色の旗を打ち立ててしまうまでに、どれほどの時間と体と心を音楽に捧げたのか。2013年に公開された『サマーセール』には、そんな畏怖にも近い疑問を解くピースが隠されているように思えます。今回は憤怒も悲哀も承認欲求も情念も包み隠さず、荒れ狂う生々しいギターとともにぶつけてくる彼女に敬意を込めてこの曲を。

2.「さめざめ」(’15)/アカシック

2014年に公開された『これは僕がアカシックというバンドを撮ったドキュメンタリーである。』はタイトルが表す通り、横山真哉監督とアカシックのメンバーによる、セルフドキュメンタリーともモキュメンタリーともつかない境界の狭間を行き交う映画です。賛否両論を巻き起こした同作ですが、理姫の果物のように甘くヒリヒリした舌足らずのヴォーカル、出入口を探し当てられないまま蠢めく無機質な鬱屈を孕んだギターのディストーション、ダイナミックに絡むピアノとドラムの音色が織りなす美しくもグロテスクなこの曲が終幕を飾ることで落とし前が付けられる気もするのです。

3.「もぐらたたきのような人」(’15)
/町あかり

デジタルネイティヴ・SNS世代以降の情報量の多さやクレバーさには日々焦燥感と危機感を覚えるばかりですが、こんなノスタルジーあふれるテクノポップ繰り出されたら最早土下座する他ありません。歌謡曲の理念に則ったくどいまでの歌唱法や、「やたらホイッスル鳴らしたがるよね」といったコミックソングの様式美に則ったこの曲も入門編として最適なのですが、『あんこまん』の劇中に流れる挿入曲の数々は、「道化を演じるには賢者であらねばならない」としみじみ実感せざるを得ないほど彼女の才能の底知れなさや引き出しの多さに肌が粟立ちます。

4.「暗号 Theme from another place」
(’14)/MANNERS

2012年公開『労働者階級の悪役』の音楽を担当した見汐麻衣というシンガーソングライターを紹介するには何が最適か悩みに悩んだ挙句に選んだこの曲は、彼女のソロプロジェクトMANNER名義で発表された、高架下の夜を彷徨う大人のためのシティポップです。坂口光央のメロウなエレビ、あだち麗三郎の懐の深いファンクネス、物言わぬ亀川千代の多弁でメロディアスなベースを従えて殺傷力の強いファズを鳴らす姿は鬼軍曹めいた気迫もあって非常に頼もしかったのですが、残念ながらメンバーチェンジにつき現在活動休止中。ライヴで披露されていたあの曲やあの曲やあの曲が音源化される日を待ち望んでいます。

5.「バンドマンの女」(’15)/クリト
リック・リス

「下ネタのナポレオン」「平成のGGアリン」、見事なまでにハゲ散らかした頭と股間に仕込んだテルミン、すっかすかでチープなトラックとレッドブルをしこたま投入した汗だくの体で展開される命がけのパフォーマンス。今年47歳のスギムさんがまさか映画の主演を務めるだなんて、初めてステージを観た7年前は思いもよらなかったです。やってることまったく変わってないのに。2016年の芸能界を象徴するような「バンドマンの女」がとりわけプッシュされていますが、「桐島、バンドやめるってよ」「柳瀬次長」等まだまだ名曲がたくさんありますので、みなさんぜひライヴに足を運んでください。ちなみに、間もなく公開予定の作品のタイトルは、そのまんま『光と禿』です。

著者:町田ノイズ

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着