アート・ガーファンクルを聴くならこ
の5曲

アート・ガーファンクルのソロコンサートが来月(12月)にある。S&Gの公演も観たことがないくらいだから、アート・ガーファンクルのソロコンサートも未体験だ。でも、一度だけアイルランドを代表するバンド、ザ・チーフタンズのコンサートにゲスト出演した際のステージを観たことがあるのだ。長身に白いYシャツ、履き古したジーンズ、天然パーマのくしゃくしゃ頭という、まさにイメージ通りのアート・ガーファンクルな姿に感激してしまったのだが、会場(ニューヨーク、カーネギーホール@2000年)に響くその崇高なまでの美しい歌声に、感動というより、仰天してしまった覚えがある。作詞、作曲、演奏(ギター、ヴォーカル)もするポール・サイモンに比べると、なんとなく脇役と思われがちなイメージはその瞬間に払拭されたと言っていい。今回はそんな彼の珠玉の歌声を5曲選んでみようと思う。

アルバムを選ぶなら、ジミー・ウェッブの曲をたっぷり取り上げたマッスルショールズ録音の『Watermark』('77)をお勧めするところなのだが、残念ながらそのアルバムはまだiTunes Storeでは取り扱われていないようだ。それもいいのだが、手っ取り早く代表曲を目一杯詰め込んだ『The Singer』(2012)というベスト盤もリリースされているようなので、これから彼の音楽を聴くという方、来日公演に備えての予習用に、という方にはこっちのほうがぴったりと言える。

1.「Bridge Over Trouble Water」('7
0)

ソロ作だけで選ぼうかと思ったが、やはり生涯を通じて彼の傑作であろうこの曲は外せなかった。サイモン&ガーファンクル時代のものとしても、デュオ最大のヒットを記録した名曲。作詞・作曲はポール・サイモンで当初はサイモンが歌うつもりだったがうまくいかず、ガーファンクルにバトンタッチし、彼がプロデューサーのロイ・ハリーとアレンジも手がけている。とにかく、ガーファンクルのシンガーとしてのすごさを一般に知らしめた曲であり、彼なくしてはS&Gのサウンドは成り立たなかったのだと誰もが改めて納得した。S&Gでのライヴでも欠かせないレパートリーになっていたが、近年のガーファンクルのソロコンサートでも披露されている。まさに名唱。この曲を聴くためだけにコンサートホールに出かけていく価値があると言えるのではないだろうか。

2.「My Little Town」('75)

この曲もS&Gなのだが、公式にはガーファンクルのソロ2作目『Breakaway / 愛への旅立ち』('75)に収録されたもの。本作のレコーディングにポール・サイモンが参加したのは、デュオが解散して6年後のことだった。旧友のためにサイモンはこの曲を贈り、久々にふたりの共演が実現する。それもあって、ビルボードチャート9位の大ヒットとなっている。《ちっぽけな町で、ボクは育った~神よ、あの頃の街を思い出すよ》と歌われるのだが、ガーファンクルは生粋のニューヨーカー(クィーンズ地区出身)で知性的な風貌や姿にもそれが現れているように思える。歌からも、それらしさが醸し出されるというか、実に彼にお似合いの曲と言えるだろう。一方のサイモンはニュージャージー出身。それにしても、解散しているとはいえ、サイモンとのコーラスを聴いていると、やはりそこにはエバーグリーンな輝きが生まれると言うべきか。

3.「All I Know」('73)

ガーファンクルはよほどジミー・ウェッブ(Jimmy Webb)が好きなのだろう。S&G解散後初のソロ作となったアルバム『Angel Clare / 天使の歌声』('73)で、本作を含めウェッブの曲を2曲も取り上げると、3作目のソロ作『Watermark』('75)では12曲中10曲ものウェッブの曲を録音しているのだ。“友に捧げる賛歌”という邦題が付けられたこの曲は、優美なガーファンクルの声質が生かされた、心に残る名曲だ。アルバムには他にランディ・ニューマン、ポール・ウィリアムス、アルバート・ハモンドらの楽曲が取り上げられているほか、英国トラッド「Barbara Allen」を取り上げたり、ブルーグラスの祖ビル・モンローの兄、チャーリー・モンローのバージョンで知られるアパアラチアントラッド「Down In The Willow Garden」を歌っていたりする。

4.「Wonderful World」('77)

意外な選曲だと思う。しかし、これが驚くほど良い。半ばスタンダード化しているこの名曲は、誰でも一度くらいは耳にしたことがあるのではないか。R&Bシンガー、サム・クックの大ヒット曲だ。作詞・作曲はサム・クックとルー・アドラー、ハーブ・アルパートという異色のトリオ。ノリのいい曲をガーファンクルはサラッと美しく歌い上げているというか。結果、彼のバージョンもヒットしており、ビルボードのチャートで17位を記録している。熱くならないR&B、ゴスペルというか、それはS&G時代から守り続けている彼のスタイルなのだろう。どんなに感動的な曲であろうと、エモーショナルになることがない。ということは醒めているのかというと、決してそんなことはない。彼にはもう1曲、パーシー・スレッジの大名曲「When a Man Loves a Woman」(邦題:男が女を愛する時)もカバーしているのだが、これも極めてガーファンクル節でしっとりと歌うのだ。悪くない。

5.「Crying In The Rain」('93)

比較的近年の(といっても10年以上たっているが)作品から1曲選んでみた。これは『Up 'Til Now』('93)に収録され佳曲で、オリジナルはまさにS&Gの先輩というか、彼らが目指したヴォーカルデュオ、エヴァリー・ブラザーズの曲。ならばポール・サイモンと歌えばいいところだが、そうはならず、ガーファンクルがパートナーに選んだのは、何とジェイムス・テイラーという、それはそれで何とも贅沢な組み合わせ。テイラーとは親しい関係にあるらしく、この曲に限らず、過去にも共演があるのだが、なかなか声の相性もいいのではないだろうか。ガーファンクルの声は衰え知らずというか、ニューヨークの喧噪の中を透徹するように声が渡ってくる。澄んだ美しさだけでなく、力強さも秘めているのだ。
 最後に日本公演のスケジュールだけ、お知らせしておこう。12月4日の日本特殊陶業市民会館ビレッジホール(愛知県)を皮切りに、12月5日はあましんアルカイックホール(兵庫県)、12月7日は広島アステールプラザ大ホール(広島)、12月10日と11日は渋谷公会堂(東京)、という全5公演となっている。

著者:片山明

OKMusic編集部

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