【平岡優也 インタビュー】
音楽活動を始めて10年という節目で
より挑戦心が芽生えた
決して後悔はしてない
という想いを書いた
では、ここからは収録曲についてうかがっていきたいと思います。作品の中では一番昔に作っていたポップでバンドサウンドの楽曲「春舞」を念頭に置いて、他の楽曲を作ったのですか?
「パラレル」「ビギナーズ」は、まさにそうです。「うつろうた」はミドルテンポの曲なんですけど、これはバンドサウンド以前にポップな感じ…お客さんの身体が跳ねる感じを重要視して作りました。
ピアノの弾き語りをイメージして作るものとバンドサウンドを意識して作るものでは曲の作り方も違うのですか?
違う部分はありますね。バンドサウンドだと勢いがあるので、イントロ→A→B→サビに辿り着くまでを長々と作りたくないんです。その究極がサビ始まりで。今回、「春舞」も「パラレル」もサビ始まりにしたのはそういう理由です。あとは、Bメロですね。『20s』(2021年10月リリースの配信アルバム)の時はAメロでしっかりとしたものを届けて、この先を聴きたいと思わせるような作りをイメージしていたんですけど、今回は“よし! これからサビにいくぞ!”というBメロで。そこを作るのが楽しかったです。
冒頭でもおっしゃられていましたが、「パラレル」は舞台『あの夏の飛行機雲』の主題歌のために書き下ろした曲なんですよね?
そうです。なので、先にざっくりとした内容を書いたシナリオをいただきました。制作側から必ず使ってほしいワードというのもありまして、それが“飛行機雲”だったんです。
アップテンポというのも先方からのオーダーだったのですか?
オーダーはなかったんですが、最初の打ち合わせの前に「春舞」を聴いてもらっていて、「春舞」は卒業シーズンの別れをテーマにした青春ソングで、それと舞台の物語がリンクしたのか“こういう疾走感のある感じがいいですね”という話がその段階で出ていたので、僕の中でバラードはないと思っていました。
では、実際に楽曲を制作していくにあたって、キーになっていったものは?
舞台の内容になってしまうのですが、主人公の男の子と文武両道のお兄さんがいるんですね。そのお兄さんがバスケットをやっていたんですけど、不慮の事故で亡くなってしまうんです。あることをきっかけに、お兄さんと比べられるのが嫌でやらなかったバスケを主人公の弟が始めるという物語なんですね。それで、お兄さんと主人公、ふたつの飛行機雲があるというのが僕の中でキーになっていって。“パラレル”というタイトルは“平行線”という意味なんです。
その平行線はお兄さんと主人公?
そうです。もっと言ったら、これは舞台のスタッフさんがおっしゃっていたことなんですけど、飛行機雲は飛行機が飛んだあとにできるものだと。青春の日々の中、この物語のようにバスケに汗水流して夢中になるものがある時もあるけど、いずれ歳をとるとその気持ちも薄れていく。青春時代を飛行機雲に例えるならば、大人になっていくと飛行機雲と同じように薄れていってしまう。そういう儚さも飛行機雲にはあると。だから、パラレルになったふたつの飛行機雲の主軸はもちろん主人公とお兄さんですが、僕らが生きている日々にも夢中になって一瞬一瞬すごく輝いている時があって、5年後、10年後には“なんであの時、あんなに頑張っていたんだろう?”と思ってしまう瞬間がある。でも、間違いなく夢中になっていた時は飛行機雲ができていたはずなので、これを聴いてくれたみなさんも、自分が夢中になっていた時代のことを思い浮かべてもらえたらいいなと思います。
なるほど。歌詞の《二つの線》はお兄さんと主人公のことですか?
そうです。でも、ここはダブルミーニングになっているんですよ。見上げた空には間違いなくお兄さんと主人公の線があるんだけど、その前の歌詞に《俯くまま歩いて》という描写がありまして。それは泣いているシーンで、その頬に流れるふたつの線が涙にかけています。
いいですね! サウンドはアルバムの中でもっともライヴ感あるアレンジになっていました。
確かに! そこはアレンジャーさんが曲から汲み取ってくれてそうなりました。
「パラレル」と「うつろうた」には共通しているものがあるのですが、なんだと思いますか?
は、はい、すぐに正解が出ちゃいましたね(笑)。
これに関しては、全然意図して作ったわけではなくて。なぜなら「うつろうた」は「春舞」と同じく、サビだけを作ってTikTokに1年半ぐらい前にあげていた曲なんです。なので、作っている時期が全然違うんです。あとから“何度”というワードがかぶっていると気づいたぐらいで(笑)。
「うつろうた」はどんな時に作った曲だったんですか?
“虚ろう=空っぽ”とか、そういう意味なんですけど。この曲はわりとマイナスなイメージで作り始めた記憶があります。10年も東京で活動をしていると失うものもあれば、得たもの、なぜか分からないけどずっと持ったままのものもある。僕にとってコロナ禍初期はそういうことを考える時間だったんです。その中で、この曲のサビを作って。で、今作に入れるにあたって改めて作り直したんです。歌詞は応援してくれている方がいるから頑張ろうと思えるし、次のチャンレジをしようとする自分がいるんだと思ったので、マイナスなマインドのところからスタートしますが、支えてくれる“君”に出会えたことで前向きになっていき、最後は僕の役割である光、希望に向かって行くような曲になりました。
夢を追い続けていても《歳を重ねていく度 馬鹿馬鹿しくなるよ》など、歌詞が染みますね。
これが本心かと言われたらそうじゃないかもしれないけど、そういうふうに思う時がある。なので、この曲の1番は10年間活動してきた僕の前半から中盤の自分を書きました。2番はここ最近、今の自分です。“年齢も30歳になるのに何をやってんだろう?”と思うけど、この10年間で築き上げてきたものを改めて振り返ると僕にしかないものがある。だから、決して後悔はしていない…という想いを書いた歌になっています。
“うつろうた”というタイトルではありますが、この10年を振り返ってみたら空っぽではないと。この声に愛を注いでくれる君たちがいたからこそ僕は頑張れているという、平岡さんなりのファンへのメッセージソングとも言えますね。
はい。だから、僕の人生は“君”たち…ファンに生かしてもらっているんですよね。この曲は全体が出来上がってからすごく気に入っていて。ピアノの弾き方も他の曲とは違って鍵盤を叩いて弾く感じだから、ライヴでやったら楽しいだろうなと思っています。
♪タ・ターンという軽快なクラップも入っていますしね。
僕は要望していなかったんですけど、アレンジャーさんが入れてくれたのが良かったので、そのまま採用となりました。全体的に跳ねていて、クラップも入っているからポップですよね。僕が弾き語りだけで作っていたら空っぽで暗いままだったかもしれないです。いろんな人がかかわってくれたことによって、マイナスだけで終わらず、陽キャになって終われた気がします(笑)。
エンディングの締めに入る♪タンターンのピアノ音とかめっちゃ陽キャですもんね。
ですね(笑)。なので、この曲はライヴでやる時にピアノは弾きたくないです。弾かないでみんなと楽しみたい。
そして、そのまま陽キャで作品を締めるのではなくて、最後にバラード曲「ソングレター」が入るという。
そうですね。1曲はバラードを入れたいと思っていましたから。だからこそ迷いましたよね。この10年間、バラードは散々作ってきたので、ラブソングがいいのか、どういうものを入れるべきなのか。それを悩みつつも、時期が「ソングレター」を呼んでしまったというのが大きいかもしれないです。
それはどういう意味ですか?
ちょうど制作していた期間中にお盆のシーズンがありまして。実家は昔からお盆は毎年じいちゃん、ばあちゃんを連れて墓参りに行くというのが家族の恒例行事だったんです。でも、この3年間はコロナ禍でずっと秋田に帰れてなくて。なので、頭の中のどこかに亡くなった人の魂に想いを馳せる気持ちがあったから、この曲ができたんだと思います。
なるほど。友人の死を体験した実話を描いた裏にはそんな背景があったのですね。そして、この作品を提げて初の東名阪ツアー『Tour 2022「∞- infinity -」』が始まります。どんなツアーにしたいですか?
僕がみんなに会いに来たということが伝わるライヴができればと思っています。声が出せるのかどうかはその時になってみないと分からないですけど、シーンとした感じにはしたくはないですよね。なので、みなさんには自由に楽しんでもらいたい。あと、初の試みですけど、3会場のチケットを持っている方とオンライン上でツアーの打ち上げをやるので、そちらも楽しんでもらえたらと思います。
取材:東條祥恵
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ミニアルバム『∞ - infinity -』デジタル:10月12日配信
CD:10月14日発売
『Tour 2022「∞ - infinity -」』
11/12(土) 大阪・南堀江knave
11/13(日) 愛知・名古屋sunset BLUE
12/04(日) 東京・代々木LIVE STUDIO LODGE
「ソングレター」Lyric Video
「ビギナーズ」MV
「春舞」MV