【かりぃーぷぁくぷぁく
インタビュー】
渋谷系とスパイスカレーへの
熱狂は似ている!?
某アーティストと同じリズムのアーティスト名、“アイドルなの?”と思って曲を聴いたらどうやら男性。しかも、2ndシングル「パンが無ければナンを食べればいいじゃないのよ」は渋谷系の有名なあの曲とあの曲を思い出させる…。何が何だか分からないあなたに送る、かりぃーぷぁくぷぁく解説編。
あのマニアックな熱狂は
今、どこにあるのか?
音楽活動そのものは以前からやってらっしゃったんですか?
はい。中学2年の頃からバンドをやっています。メンバーからいろいろと面白い音楽を聴かせてもらったりして、“こんなのがいいね”と話して歌ったり弾いたり…みたいなことを中学生の時はずっとやっていました。そのバンドは“ししゃも”っていうんですけど、今でもたまに活動していて、2019年に結成25周年ライヴをやったんですね。で、何かしらちゃんとコンセプトのあることをやりたいと思って、その時にあんまり素のまま出ちゃうのも面白くないなと。すでに自分がおじさんであることをあんまり受け入れたくない気持ちがあって、自分では“おじさん性同一性障害”と言っているんですけども、おじさんから離れたことをやってみようということで、こういう格好で出てみたのがきっかけです。で、当時からカレーにハマっていたからカレーの歌を歌うってことをライヴでやりたくて、そのししゃものライヴで初めて披露してみて、その時にかりぃーぷぁくぷぁくが誕生しました。
キャラクターで押しているように見られがちなのでは?
“自分が一番やりたいことは何なのか?”ということなんですが、カレーが好きだということと、音楽やっているということに自分の中で整合性を保ちたいと思っていて。やり始めてから気がづいたことなんですけれど、“渋谷系とカレーは似ている”っていうことをどうしても伝えたいなと。自分が20歳ぐらいの時は、渋谷系だという意識はなかったんですけど、よくよく振り返ってみて中学生の頃に聴いていた音楽が渋谷系だったんだなと。当時の音楽ファンは結構な熱量を持ってレコード屋さんに行っていて、ああいうマニアックな熱狂が今はどこにあるのかと考えたら、カレー屋さんなんじゃないかと。“エリックサウス”というお店はご存知ですか? そこの稲田俊輔さんという総料理長の方がおっしゃっていたんですけれども、ラーメンとカレーという二大国民人気食があると。で、ラーメンを作ろうと志している人はあんまり中国大陸の麺料理のほうを向かないんだと。
あくまでも日本のラーメンですよね。
そう。心に描くのはジャパニーズ中華そば。醤油のあれが至高のものであって、そこをみんな目指そうとする。それに対してカレーはいわゆるじゃがいもと人参とでトロッとしたボンカレーが代表的なものとして描かれるけど、カレーを作ろうと志している人は、そっちを目指さないよねって。だから、向きが逆で、ラーメンは国内志向だけれどもカレーはかなり海外志向。
本場に行こうとしますね。
そうそう。本場に行こうとするんですよ。海の向こうに目が向いている感じっていうのが洋楽志向の渋谷系のミュージシャンの目線に似ていると思っていて。例えばスウェーデンに実際に行っちゃう人とかいたじゃないですか。あの感覚でスリランカに行っちゃったり。作り手もそうだし、ファンの掘り方も“あのカレーはどこの国のどのスパイスがどんな感じで…”みたいに掘り下げようとする。そのマニアックな熱狂具合、作り手も受け手も織り混ざっている感覚を考えると、“渋谷系とカレーは似ている”って意外と間違ったことを言っていないんじゃないかと思っているんです。でも、それを言うだけではちょっと伝わりつらいので、自分もその一端として体現してみることはできないかなと思ったんですね。なので、今回の「パンが無ければナンを食べればいいじゃないのよ」は分かりやすくフリッパーズ・ギターとPIZZICATO FIVEを意識したということを、この場で言いたいと思って(笑)。
なるほど。デビュー曲の「マリー・アン・ドゥ・トロワ・ネット」はラップ的な押韻がユニークで、比較的テクノ的でしたが、それもいわば渋谷系に含まれますし。
振り幅も大きいと思うんですよ。ジャンルじゃなくてムーブメントだから、電気グルーヴ的なグループもいたし、それが引き継がれてきゃりーぱみゅぱみゅまで辿り着いていると思うので、そっちも意識するし…っていうところを最初に見せたかったんですよね。本当にやりたいことは“広い世界観で、広いフィールドで”と考えていたので、今後の3曲目、4曲目も話が動いてはいるんですけれども、なるべく幅のあることをやれたらいいなという気持ちではいます。
90年代の渋谷はタワーレコードもHMVもすごい活況を呈していて、もっとコアなところだと宇田川町のレコード店とかに行くとさらに面白いものがたくさんあるっていう。いろんな音楽が出てきた頃の感じですね。
そうですね。なので、「パンが無ければナンを食べればいいじゃないのよ」のミュージックビデオは今の渋谷を舞台にしながらも、歌っていることが90年代の渋谷なんです。《世紀末まで喋っていようよ》と歌っているのも、やっぱそこ思わせたいんですよね。
確かに2001年があると思っていなかったですもんね。
そう。ディストピア感、絶望感がちょっと近いような気もします。
別に地球が滅亡をするとは半分以上思っていないんですけど、“滅亡するんだったらもっと面白いことやっちゃえ!”みたいな…この話、若い人に分かりますかね?(笑)
あははは。でも、無視しちゃいけないけど、本当に伝えたい人たちはやっぱりその世代の人かもしれないですね。そこに刺さるものであってほしいと思うから、あんまりそこはひよっちゃいけないと思います。
それでいて、“かりぃーぷぁくぷぁく”というアーティストネームは、きゃりーぱみゅぱみを想像させるので非常に意識的だと思うわけです。
きゃりーぱみゅぱみゅさんは渋谷系の系譜を引き継いでいる方だと思うんです。中田ヤスタカさんがやっているCapsuleってネオ渋谷系と呼ばれていたフューチャーポップというか…でも、あれもPIZZICATO FIVEの存在を意識しながら、独自に切り開いていったものだと思うので、もしかしたらその進化の仕方もカレーになぞらえられるのかなと思っています。“きゃりーと渋谷系は関係ないだろう”と言われちゃうかもしれないと思っている部分はあるんですが、よくよく考えたら一緒だよねっていう。そこまで視野を持てば若い子たちも“きゃりーのルーツって?”とより興味を持って面白さを感じてくれるんじゃないかなという気持ちもあったりね。