犬塚ヒカリ

犬塚ヒカリ

【犬塚ヒカリ インタビュー】
言葉に出さなくても
愛を感じられるシーンが
実は生活の中にいっぱいある

現役大学生としてのリアルな日常描写と、闇を直視する内省的リリック。中島美嘉ツアーのオープニングアクト抜擢で注目のシンガーソングライター・犬塚ヒカリが、1stアルバム『Halo』をリリースする。音楽に目覚めた原点から語る、初登場インタビュー。

他人同士がつながる唯一の方法が
信じることとか、愛とかだと思う

今回がmusic UP’s初登場ですので、まずは音楽への目覚め、アーティストになろうと思ったきっかけをお聞かせください。

音楽に興味を持ったのは、歌うのが楽しくて、褒められて嬉しかったのがきっかけです。小さい頃から演歌がすごく好きで、幼稚園の頃に祖父母と、曾祖母がまだ生きていて、美空ひばりさんとかの曲を歌うと喜んでくれたんです。祖父が元ミュージシャンで、裏方なんですけどプロとして活動していた時期があったのも影響して、憧れを持っていて。漠然とずっと“歌手になりたいな”という夢を持っていました。中学生ぐらいの時に、MISIAさんが好きでライヴに何回か遊びに行かせていただいて、“やっぱり自分もやりたい!”と強く思いまして。自分で探してオーディションを受けたことから音楽活動自体はスタートしたという感じです。

曲作りはどのように始まったのですか?

最初は楽器を弾くつもりも、曲も歌詞も作るつもりもなかったんです。当時はまだ中学3年生だったので、“いろいろな可能性もあるから、まずは試しにギターか何かで曲作りしてみたら?”と勧められて。クラシックのピアノは習っていたんですけど、譜面を見て弾いたことしかなかったので、どうせコードを覚えていくんだったらギターでやってみようと思って。高校1年生ぐらいからはギターでの曲作りを本格的に始めました。

2018年からデモCDをライヴ会場限定でリリースするなどの活動がスタートしたんですよね?

はい。CDをちゃんと作ったのは高校2年生の時が最初で、当時はまだ事務所にも所属していなかったから、自分でスタジオに入ってギターを弾いて、レコーディングをして、自分でパッケージの絵を描いて売るという活動でした。

2019年には100曲も作り溜めていたオリジナル曲を封印して、新しい方向性にチャレンジしたとか。どんな意識の変化があったのですか?

ちょうど大学1年生になった頃で、音楽活動を始めて4年目を迎え、自分の中でマンネリ化してしまっている部分があったんです。高校生の時は月に5、6本のライヴをしていたので、ライヴをすること自体への緊張感がなくなってしまったのと、新鮮さを感じられる機会が少なくなってきてもいて。高校生の時は暗い曲が多かったんですけど、当時は日本のヒップホップとかブラックミュージック的なものに惹かれていたので、そういう方向性の曲を新しく作れるようになりたいと思うようになりました。“今までの曲に甘えていちゃいけない”ということでそれまでの曲は全部歌うのをやめて、“新しくいい曲を作っていこう!”っていう。最近では昔の曲も歌うようになったんですけどね。

メロディーラインは歌モノとしてのきれいさがありつつヒップホップ的なグルーブ感も備えた、不思議なバランスの音楽性に感じます。配信リリースしてきた楽曲群に加え新曲も書き下ろした1stアルバム『Halo』の収録曲は多彩ですが、もともとはどんな作品にしたいと考えていましたか?

音楽活動を始めてから今年で7年目になるんですけど、CDを出すことってどんなアーティストにとっても目標だと思うんです。出せることが決まった時に、ひとつの終わりでもあり始まりでもあるというか。私の集大成でもあり新しさも感じるような楽曲を入れられたらなと。

タイトルの“Halo”にはどんな想いを込めたのでしょうか?

私の誕生日は4月8日で、旧暦でお釈迦様の誕生日と同じなんですね。お釈迦様の“後光(halo)”が“ヒカリ”という名前の由来なんです。本名は平仮名なんですけど、暗いものとかカッコ良いものを好んでいるのに“ひかり”って字が全部丸っこいから、可愛いらしくて自分らしくないとずっと思っていたんです。でも、芸名として片仮名の“ヒカリ”にした時に、初めて自分の名前をちょっと好きになることができて。自己受容というか、“初アルバムのタイトルは自分に関するものがいいのかな?”なんて思って決めました。

アルバムは「愛を形容」という書き下ろし曲で幕開けます。《君の胸からシトラスの香り》という表現にドキッとしました。いきなり“抱き締める”と書かずに近距離にいることを表す描写が新鮮でした。

シーンを思い浮かべながら、それをいかに直接的じゃなく遠回しな比喩表現で人に伝えられるかというところは、少なからず意識しています。

《日々に転がる愛を探してる》というフレーズはアルバム全体に通底するテーマだと感じます。これは犬塚さんが音楽活動において大切にされていることなのでしょうか?

そうですね。好きとか愛とか、そういう好感的な感情って、言葉に出さなくても感じられるシーンが実は生活の中にいっぱいあって。お母さんが“ご飯できたよ!”と言うのも愛だし、お外で遊ぶ子供たちの声が聞こえてくるのもまた愛だと思うし。それをいかに人に伝えるか。普段は意識していなくても、その曲を聴いた時に“あっ、これって大切なことだったんだ”“あれは愛しいことなんだ”と気づかされるような曲が作れたらと思っています。

リード曲「overlap」は、ふたりの運命が交差するさまを象徴するようなMVも印象的でした。

「overlap」は19歳ぐらいの時に作った曲なんです。人はひとりでは生きていけないから、恋愛に限らず友情でも家族的な愛情でも、やっぱり“誰かに愛されたい”と願ってしまうじゃないですか。そう思っている中で、ひとりとひとりが出会って恋に落ちていく。“運命だ”という言葉ひとつだけじゃ軽すぎるから、その偶然をどうやって表現したらいいのかなって。相手の運命と自分の運命の重なり合ったところに、その出会いがあり、それがその人とのつながりになって…という表現だと面白いと思って出来上がのが「overlap」です。

「overlap」の歌詞以外にも、アルバム収録曲には“愛されたい”という言葉が随所に出てきます。ご自身が強く抱いている感情なのですか?

そうですね。今はこの年齢になって、家族や友達の大切さ、愛の大切さを実感していますし、“愛って意外と当たり前にある”ということを自覚できたから良かったんですけど…高校生とか多感な頃は、周りに友達や家族がいるはずなのに、すごく孤独に感じる不思議な時期でした。ただ、“私を見てほしい”という意味での“愛されたい”という気持ちがあの頃はすごく強くて。曲作りをするとなると、やはりその時の気持ちに引っ張られるので、“愛されたい”がキーワードになると思っています。

“愛されたい”という願望は、そもそも音楽活動をするモチベーションとも密接な関係があるんでしょうか?

それはすごく感じています。愛というのは恋愛的なことだけじゃなくて、人を信じるという意味でもそうだし。自分自身にも自分が愛されたいし、あらゆる人にも自分が愛されたいし、愛したいし。人と人って結局は家族同士だって個と個の結びつきで、ある意味他人同士だけど、その他人同士がつながる唯一の方法が、やっぱり信じることとか愛とかだと思うので。人間にとって切っても切り離せないことだし、何より大切にしなきゃいけないことだと思います。

多感な時期とは違い、今では愛を実感できるようになっていたのには、何かきっかけがあったんですか?

何よりも音楽をやっているということが、一番自分の中で心情の変化があったと思います。どんなにつらい時も音楽だけは私のことを裏切らないし、絶対に安心できる場所というのがあると思ったことが最初の安心であり、“愛されている”と実感するきっかけだったと思いますね。

やはり、そこに聴いてくれる人たちという存在があったのは大きいんでしょうか?

そうですね。高校生の時から音楽活動をしてきて、私は可愛いらしいタイプではなかったし、分かりやすい音楽をやっていたわけじゃなかったんですけど、だからこそ逆に、一回私のことを好きになってくれた方たちはずっと応援してくださっていて。“あぁ、私の愛され方ってこれなんだな”と思いましたね。大勢の人に“すごい、すごい!”と言われるよりも、ずっと側にいてくれる数人の人たちがいること、私はそれで満足だなって思えたというのが、かなり安心につながりました。
犬塚ヒカリ
アルバム『Halo』

OKMusic編集部

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