【愛はズボーン インタビュー】
4枚目は“自分の中で認められる
一番いい駄作”にしたいと思った
自分の中で認められる
一番いい駄作にしたいと思った
もう1曲の「MIRACLE MILK」についてもお願いします。
これは、もう本当にタイトル先行ですね。制作の途中にアルバムタイトルをどうするかという話になったんです。最初の予定では“マジカル・アンド・ケミカル”というタイトルだったけど、変えたくなって。というのは、世の中的に4枚目のアルバムはイマイチなことが多いんですよね。で、ちょっとヒネくれた考え方になるけど、僕は愛はズボーンの4枚目は“自分の中で認められる一番いい駄作”にしたいと思ったんです。イマイチな4枚目が多い中で、愛はズボーンは4枚目が一番いいということにするには、タイトルをコンセプチャルにしすぎると、まとめにいってしまう自分との戦いが始まると思ったんです。それを避けるためにバカバカしいタイトルにしたいと思って、“MIRACLE MILK”にしました。
そこで“ミルク”というワードが出てくるのがいいですね(笑)。
あははは。“ミルク”という言葉はホワッとするというか、肩の力が抜ける感じがあるじゃないですか。だから、いいなと思ったんです。そうやって先にタイトルを決めて曲を作り始めたんですけど…どうやって作ったんやったっけ? この曲は「ひっかきまわす」と同時期なんですよ。なので、もう「ひっかきまわす」に追いかけられすぎて、「MIRACLE MILK」を作った時のことは本当に何も思い出せないです(笑)。
「MIRACLE MILK」はリラックスした雰囲気の歌中とパワフルなサビの対比が効いていますし、後半でロックンロール/パンクなテイストに変わる構成も絶妙な一曲です。歌詞を書いた時のことも覚えていませんか?
歌詞はよく覚えています。サビの最後に《それを音楽と呼ぶのかな》という言葉があるんですけど、“何を言っているんだ?”という感じじゃないですか。ミラクルはマジカルとケミカルの間になる存在であってほしくて、それが僕の解釈としては音楽だったんです。目に見えないし、掴み取ることもできないし、時間が過ぎないと次のビートが聴こえてこないし、一瞬を切り取ることもできないものが人間の感情を高揚させたり、エモくさせたりするのは魔法みたいだと思って。それが、「まじかるむじか」の歌詞に反映されていて、その音楽をエレキギターだったり、アンプだったり、ドラムセットだったりを使って奏でることに対するロマンを言い替えたら、僕にとっては“MIRACLE MILK”だった…ちょっと謎な落としどころですけど(笑)。
謎だと思っても説明しないというのが最高です。私は「MIRACLE MILK」は“現状を打破して、もっと高いところにいきたい”という想いだと受け止めて、リスナーの背中を押すいい歌詞だなと思いました。それに、「ひっかきまわす」に出てくる“スプーン曲げ”という言葉が「MIRACLE MILK」にも入っていてリンクしていますね。
そう! これね、全曲絡み合っています。スプーンの話がそこでつながっていて、《おすすめに上がる/『フォレスト・ガンプ』を久しぶりに見たら》という一節は「笑う光」の《おれの観たい映画をアルゴリズムが簡単に見つけてくれる/そんな大事なことさえも自分で決められなくなってしまった》という歌詞とつながっていたりとか。「ヘルステロイド」と「イッチーピーチ」もつながっていたりするし。そういうのを結構散りばめたので、探していただければと思います。あと、このアルバムの主人公はだいたい風呂場で悩んでいます(笑)。排水口に自分の感情を流すというキャラクターで、めちゃくちゃ出てきます、排水口(笑)。「IN OUT YOU 〜Good Introduction〜」と「ケミカルカルマ」と「最後のひとり」かな? その3曲は排水口に何かを流しているという(笑)。
いいですね(笑)。『MIRACLE MILK』は注目と言える楽曲が並んでいまして、例えば「最後のひとり」はちょっと60年代のUKを思わせる翳りや繊細さを纏ったミディアムチューンです。
これはコロナ禍の中でDTMで作り始めたので、だいぶ前からあった曲です。以前と同じ作り方をしていて、自分の中にある感情を一番吐き出している曲ですね。僕はよく打ち上げとかで最終的にひとりになるんです。メンバーみんな帰っちゃったけど、僕は他の対バンの人とおって、“自分はひとりやな。なんか寂しいなぁ”みたいな。でも、最後にひとりになる状況というのは誰しもあると思うんですよ。例えば、みんなを車で送っていって最後はひとりになったり、ひとりだけで残業したりとか。で、ひとりだけで残るということには絶対に共通の寂しさや愚痴があると思うんです。僕はそれをワーッと言いたいけど、結局誰にも言えないんですよね。そういう人間なので、自分と同じような人のことを包んであげられる一曲があると、その日が救われるんじゃないかと思って作った曲です。
陰りを帯びていながら温かみを感じさせるのは、そういう思いが込められているからなんですね。
そうです。あと、この曲は“ケミカル=化学”というところで、“地球最後の人”という要素も入れました。イメージしていた頭の中のビジョンは、手塚治虫先生の『火の鳥』の“未来編”です。ロビタというロボットが惑星でひとりきりになるシーンの寂しさと、居酒屋で打ち上げも終わってひとりでトボトボ帰る自分とを重ねて歌詞を書きました。
個人的にはこの曲の歌詞の“別に嫌じゃない/だけど嫌じゃない?”という一節がすごく好きです。
そこは一番こだわりましたわ、そう言えば(笑)。クエスチョンマークがついている言葉は会話している時はイントネーションで分かるけど、メロディーに乗っているのを耳キャッチした時は分からないじゃないですか。そこに前置詞で“別に”を入れるとクエスチョンマークはついていないんですよ。そのあとに続けて“だけど嫌じゃない?”と言うことで問いかけだと分かる。そこは、めっちゃこだわりました。
このセンスは素晴らしいですし、「最後のひとり」は金城さんのエモーショナルなヴォーカルも魅力的です。
ありがとうございます。あと、先ほど60年代UKとおっしゃいましたが、そうかもしれない。この曲をメンバーと一緒に再構築する時に、僕はリファレンスとしてテーム・インパラの音源を出したんですけど、彼ら自体がそういう時代のサイケとかを現代に落とし込んでいるようなバンドですよね。なので、もしかしたら、そこはリンクしているかもしれないです。