【さとうもか インタビュー】
ほとんどの作品が
“一瞬と一生”から
インスパイアされたもの
夏のきらめきを詰め込んだ全10曲を収録する3rdアルバム『GLINTS』。儚くて切ない恋心や、何かが始まりそうなウキウキ感、将来への漠然とした不安など、各曲で描かれる主人公が懐かしくも愛おしく感じる一枚だ。
恋は人間を人間らしくしてくれる
アルバム『GLINTS』は“女の子の恋にまつわる夏の物語”を集めた作品ですが、この構想はいつ頃からあったのでしょうか?
昨年あたりからEPを作って夏頃に出そうという計画があったのですが、コロナ禍で時間ができたこともあり、やっぱりアルバムを作ろうと決めました。夏をテーマに選んだのは、私は季節の中でも夏が好きで、夏っぽい曲のストックがたくさんあったからです。季節感のある曲は、その季節に聴くのが一番心に響くと思いますし、今回はその中でも10人の主人公を立てて短編集的に作りました。恋をしている人が主人公になっている曲もあるし、野球少年たちの試合の曲や、将来について周りと自分を見比べてしまい露頭に迷っている人が主人公の曲もあります。
これまでにも恋を歌った曲がたくさんありますが、もかさんにとっての“恋”ってどんなものですか?
恋はいい意味でも悪い意味でも、人間を人間らしくしてくれるものだと思っています。私自身もとても好きだと思える人ができてから知らなかった自分にたくさん出会って、いろいろな感情が増えた気がするんです。それが人生の中で感動した出来事のひとつだったので、そんな気持ちを残したいから恋の曲を書いているのかもしれません。
今作でテーマを設けたことで発見はありましたか?
テーマが前向きなイメージだったこともあって、コロナ禍の空気に飲み込まれず、家にこもっていてもナチュラルに楽しく作ることができたのが良かったですね。それに、作っている時のワクワク感をちゃんと音源に込められた気がします。今年の夏はこれまでと違った過ごし方になるけど、『GLINTS』を聴いてくれたらいつも通りの夏のような気持ちになれるんじゃないかと思える仕上がりです!
恋や夏と言えば、2019年3月発表のアルバム『merry go round』に収録されている「melt summer」や、その続編として20年1月にリリースしたシングル「melt bitter」のほろ苦いイメージもあったので、今作がとても軽やかで開放的だったことに驚きもありました。
「melt bitter」はお気に入りの曲ですが、歌詞は個人的な感情にフォーカスしすぎたと思っていて。私は自分のエッセイみたいな曲を作りたいわけではなく、聴いてくれる人自身が主人公になれる歌詞を書くのが目標なので、今作は「melt bitter」と真逆の開けた雰囲気のあるものを作りたいという気持ちでした。ちょっとだけ過去の作品への反発心みたいなものもあったかもしれません(笑)。特に1曲目の「Glints」は外に開けた感じをすごく意識して書きました。
「Glints」はさわやかで高揚感のあるサウンドですね。アレンジを担当したTENDREさんとはどのような意見交換がありましたか?
TENDREさんとは電話やメールでやりとりしながら、少し大人っぽい雰囲気のデモと、明るいさわやかな雰囲気のデモの2種類を作ってもらったんですが、それをちょっとした遊び心で同時再生してみたら、魔法のようにぴったりハマったんです! そこからTENDREさんがオケをさらにブラッシュアップしてくださって、最後に私がコーラスを入れて完成しました。普通ならまったく違うアレンジを同時に再生したら大変なことになると思うのですが、「Glints」はTENDREさんの作る音の緻密さと繊細さに改めて気づかされ、感動と衝撃が走りました!
それはすごいですね(笑)。また、歌詞では1番の浮かれた感じもさることながら、2番以降のちょっと冷静さが覗く展開も素敵です。《未来の私は映画の終わりより/この瞬間の空気を思い出す》は、終わりを知っている今の自分だからこそ言葉にできる情緒だと思います。
まさに「Glints」は“一瞬と一生”を裏テーマにして書きました。私はどんなことでも最初に終わりを想像するんです。多分“終わり”ってものが苦手なんだと思うんですけど、お休みも、旅行も、学生時代も、恋も、一瞬のキラキラには必ず終わりがくるし、忘れたくないと思っていてもはっきり思い出せなくなることがあります。すごく悲しいけど、それは消えてなくなったのではなく、染み込んで私自身になったんだと思えた出来事があって。その時に“一瞬って一生ものなのかもしれない”と気づいたんです。だから、全ての気持ちを引っくるめて“今を生きていたい”という想いを込めました。
「オレンジ」で描いた恋人同士のすれ違いがリアルで、女の子の気の強さやポジティブさが感じられました。
この主人公には私の性格が結構反映されているかもしれません(笑)。ストーリーはあまり平和とは言えないんですけど、そこをアレンジのポップさでちょうどいい塩梅にできたのではないかと感じています。
アレンジは“もかバンド”のみなさんと、以前一緒にユニットを組んでいたかねこきわのさんが手がけていますが、共作してみていかがでしたか?
もともとみんな仲良しなので本当に和気藹々と作ることができましたし、この曲はアルバムの中でも特にメンバー全員の個性が際立っていると思います。きわのちゃんとキーボードの小川佳那子ちゃんとは同じ高校で、こんなふうに一緒に音楽を作れる人が同級生にいるってことも個人的に嬉しいことです。
また、今作では各曲でやってみたかったことにチャレンジしている印象もありました。2,000年代前半のアニメのOP ソングをイメージした「オレンジ」、人生初のギターソロが入っている「愛ゆえに」など、挑戦という部分での手応えはいかがですか?
私は飽き性なのもあってか、あまり同じタイプの曲を作りたくない気持ちがあって、今回も過去に出した作品ではやってないことを意識的に取り入れました。一番良かったのは「愛ゆえに」でエレキギターを使うようになったことです。この曲をきっかけにエレキギターにハマってからは、初めてギターを手に入れた中学時代みたいな気持ちで音楽に取り組めていて、毎日が楽しすぎます!
もかさんの活き活きとしたパワーをたくさん感じるアルバムですが、バラード曲も心に染みました。3曲目の「Poolside」は人生の選択肢を海とプールで例えていて、大きな海に飛び込んで生きていくのか、ゴールが見えるプールでターンを繰り返すのか、人それぞれの価値観があるけれど、今の自分はまだプールサイドにいるという歯痒い気持ちが伝わってきます。
大人になっていくほど知識や積み上げてきた経験で自分を強くしたり、守れるようになっていくけど、それと同時に昔自分がバカにしてたような凝り固まった人間になってきてるんじゃないかって思ったことがあったんです。歌詞に《安心をするのが不安になっちゃった》というフレーズもありますが、いくら安定を求めていても安定すること自体が終わりの合図のように思えて結局不安になるし…大人になっても昔のマインドと変わらずにゴールのない海の中をもがいてる人って、どんなにすごい人よりもカッコ良いかもしれないと思った時に作りました。
「Poolside」はアレンジを担当されたSPENSRさんの個性も出ていて、瑞々しく広がっていくサウンドと、もかさんのクールな歌声が魅力的でした。
SPENSRくんには私がもともと作っていたデモを聴いてもらって“とにかく思いっきりSPENSR節を爆発させてほしいです!”ってお願いさせていただきました。この曲の主人公はかなり冷静な目線で物事をとらえるイメージがあったので、感情を強く出しすぎず、あえて淡々と、なんとなく映画のナレーション部分のようなイメージで歌うように意識しました。ひんやりしているけど透明感が強すぎないこのアレンジが主人公の心情にめちゃくちゃマッチしていたので、すんなり歌うことができたと思います。