〝美根〟『映画の指輪のつくり方』

〝美根〟『映画の指輪のつくり方』

〝美根〟
『映画の指輪のつくり方』
- 第七十四回 -
「来る」の指輪

2017年から本格的に活動を開始したシンガーソングライター〝美根〟が大好きな映画の世界から作り出す紙粘土細工と指輪の制作過程をお見せします。ミニチュア好きな方、アクセサリーづくりに興味のある方は是非見ていってください。指輪はライブ会場にて展示しております。

動画監督・撮影・編集・演奏・文:〝美根〟

人を呪わば穴二つ(2018年「来る」)

最近、リメイク版の「IT」を見返して、やっぱり好きだなぁと感嘆しつつ、今なら割と怖いホラーもいけるんじゃないか?という、チャレンジ心が生まれた。そして何より、刺激を欲している!そんな気持ちで、ほぼほぼ初めてのジャパニーズホラーに挑戦した次第であります。

ずっと気になっていた「来る」をセレクト。原作の本も買ったままでまだ読めておらず。前情報なしでもたっぷり楽しめます。

何かが来る!!

田原は妻の香奈と数年前に結婚、知紗という娘も生まれ、娘の成長や家族との思い出をブログにアップしながら、愛妻家でイクメンパパとして、家族と暮らしていた。しかし、そこで怪奇現象が続くようになる。部下が突然大怪我を負い、瀕死の状態に、そして得体の知れない「何か」は香奈と知紗にも危害を加えるようになる。田原の脳裏によぎる、子供の頃の記憶。「いつかあんたも呼ばれる」そう言い残した幼馴染の少女は姿を消して以来行方不明だ。田原は友人に頼み、霊媒師と接触するが果たして解決の糸口は見つかるのか…という話。

なんでこんなに怖い、Jホラーよ!

この映画は2時間ちょっとあるのだが、それを感じさせない怒涛の展開、次シーンへの繋ぎも前のめりに進んでいくため、間延び感が全くなく楽しむことができる。映像としても、冷たい質感や照明が面白く、びっくりではなくじんわりと攻めてくるような、画面上での余白を使って恐怖を煽るような芸術的な映像で、視覚としても大変面白い映画作品になっている。グロいシーンはあるが、センセーショナルなスプラッタシーンではなく、どちらかというと静止画的にグロいといったイメージにとどまるので、ショッキングな映像が苦手なら注意すべきだが、個人的には物語への集中力も失わずに楽しめた。

全体の物語として、「何か」に対抗する手立てを考えていくわけだが、洋画のホラーとは違う、じっとりとした怖さがこの作品の空気感を支配していることに気がつく。ぽっとでの呪いや殺人鬼の類ではなく、長い歴史の中で培って膨らんできた得体の知れないもの、という雰囲気が、一筋縄ではいかない、自分一人では対処しきれない事象の複雑さを観客にも感じさせてくる。

日常生活とのシーンとの差も、恐ろしさを身近に感じさせてくる一つのテクニックに思えた。前半の結婚式や、田原の親戚の家でのシーンは、変に嘘っぽく、白々しく描写されているのが、逆に恐ろしく感じさせる。我々のリアルな生活の中でも、不意にホラー映画になってしまいそうな不安が侵食してくるような感覚!

人の業が膨らむ

何がこの映画で怖いか、と考えた時に、真っ先に思いつくのが、「人間」のあり方だ。襲ってくる「何か」の仕業に隠れて、人間の嫉妬や羨望、諦めやしがらみに翻弄される心が見え隠れする。登場人物たちがそれぞれに大きな闇を抱えながら生きていたことが、物語の後半わかってくるのだが、「なぜ自分は報われないのか」「なぜ自分じゃないのか」そういったふとした暗い気持ちに、登場人物の心が捉えられてしまう場面を側から見ると、とても人間的で自然な思考ゆえに、自分も一歩間違えれば、闇に飲み込まれてしまうかも知れないという恐怖を掻き立ててくる。

私なんかしょっちゅう、人を羨んだり、自分の今いる立場を悲観して人と比べたりしてしまうよ…。こりゃあ格好の餌食すぎるわ。きっとそう思うのは私だけじゃないはず。誰彼関係なく、生きていれば自然に産まれかねない、誰かに対する妬みや嫉みは、いつしか自分自身さえも飲み込んでくるような呪いになるかもしれないということは、よくよく覚えておかないといけない、と思った。

日本の景色だから面白い

今回の指輪は、田原家が住むマンションの前の公園にあったパンダの遊具にしました。思っていたよりとても怖いものができてしまったので、ドキドキ見てみてください。

この公園のシーンといい、住宅街の中でのシーンは、電線や電柱が普通にそこらじゅうにある景色の中で、お祓いが始まったりと、景色の異様さが逆に味わいとなっていて、「日本でしか表現し得ない迫力」がそこにあった。海外の人が見たらどんなふうに思うのかな? 聞いてみたい。

呪ったり呪われたりしない人生を

人を呪わば穴二つ。誰かを呪えば、自分にもその呪いは返ってくる。その関係性が、本作の鍵となっている。羨んだり妬んだりする前に。それらが呪いに変わってしまう前に。何かにつけては何かしらのせいにしてしまいがちな私なので、自分の人生は自分次第で変えられるという自由さと責任を改めて強く持って、生きていこうと思った次第です。作中に登場する最強霊媒師琴子が現実には存在するかはわからないから、まずは呪わしい気持ちに飲み込まれないように、自分を自分で支えていきましょう。
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モチーフ:パンダの遊具
音楽:cover Cigarettes After Sex 「K」
bgm 劇中歌「オムライスのうた」
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〝美根〟Link集
https://lit.link/minelink
〝美根〟 プロフィール

ミネ:オルタナティブ・シンガーソングライター。6歳の時にピアノで初めて作曲、11歳からはギターでの作曲も開始し、現在はピアノとギターを用いてライヴ活動中。2017年より“みねこ美根”名義で本格的に活動を開始し、22年4月に改名。その後も「零れる光」をはじめ、「本当は人魚」「この世界に」など配信シングルを精力的にリリースし、23年11月に待望の1stフルアルバム『焔心の砦』を発表。同年12月には東京・duo MUSIC EXCHANGEにてワンマンライヴ『A Special Day of Mine 【焔心の砦】』を開催する。〝美根〟オフィシャルSNS

【連載】〝美根〟『映画の指輪のつくり方』一覧ページ
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