『みねこ美根の“映画の指輪のつくり方”』

『みねこ美根の“映画の指輪のつくり方”』

『みねこ美根の
“映画の指輪のつくり方”』
- 第五十一回 -
「ジョーズ」の指輪

2017年から本格的に活動を開始したシンガーソングライター〈みねこ美根〉が大好きな映画の世界から作り出す紙粘土細工と指輪の制作過程をお見せします。ミニチュア好きな方、アクセサリーづくりに興味のある方は是非見ていってください。指輪はライブ会場にて展示しております。

動画監督・撮影・編集・演奏・文:みねこ美根

「見えないから怖い(1975年「ジョーズ(JAWS)」)」

ムシムシとした季節。最近、海のしょっぱい味を思い出していた。5年前くらいかな、家族で行った沖縄にまた行きたいなー。綺麗な海でお魚見たいなー。一匹だけ襲ってくる魚がいてめちゃくちゃ怖かったけどそれすら恋しい。海好きです。泳がなくても見てるだけで心落ち着く。広くって、眺めていると、世界の全てだと思っていた自分の部屋がとてもちっぽけだったことに気が付く。

海に行きたい気持ちの時は、しんみりした映画は見れない。心の中を掘り返すようなエモーショナルなやつではなくて、ただただ、どきどきするやつがみたい。最近ホラゲの実況ばかり見ている私は更なる刺激を欲していた。ホラー映画鑑賞会はもう少し夏になってからにするつもりなので、まずは肩慣らしにパニック映画といこう(なんとなく怖さは、パニック<ホラー、のイメージ)。海に行きたい私は何を血迷うたか、「ジョーズ」の再生ボタンをクリックしたのだった。
いや、ホラー!ホラーですわ。

デーデッ…デーデッ…デーデッデーデッデーデッデーデッデーデッデーデッ!のテーマしか知らないで今まで生きてきてしまったが、やっと見れた「ジョーズ」。見えぬ恐怖の計り知れなさ、今の状況下、意外な共感どころが多くあった。

夏になると観光客でにぎわう平和な島、アミティ島。ある日若い女性が海を泳いでいると、突然何かに水中へ引きずり込まれてしまった。無残な死体となって浜辺に打ち上げられた女性。サメに襲われたことが死因と分かり、島の警察署長であるブロディは海を閉鎖しようとする。しかし市長や島の議会は夏の観光収入を優先させるため、これに反対。その結果、海水浴中の少年がサメの犠牲となってしまう。

人食いザメの存在が公になり、サメ退治に懸賞金がかけられ、島は大混乱。そんな中、大きなイタチザメが捕まえられた。これで一件落着…。誰もがそう思う中、島にやってきた海洋学者のフーパーはブロディに「人食いザメはこのサメではない」と告げる。恐ろしいサメの迫りくる影、ブロディたちはこの恐怖を食い止められるのか‥‥と言う話(良い感じにまとめられたぞ)。
全然姿を現さないジョーズ、スーパー映画作曲家マン、ジョン・ウィリアムズのあのジョーズのテーマ、貞子よろしく「来る…きっと来る…」感、いつ襲われるかわからない緊張感。縦横無尽に泳ぎ回るサメと、ちっぽけな船の上ぷかぷか浮くことしかできない人間では、かなり分が悪い。そのもどかしさも不安を煽る。

全く姿を現さないというと、スピルバーグ監督の前作「激突!」も得体の知れないトラックが追いかけてくる。お勧めしてもらって観始めたのだが、この作品も「何故襲われなきゃいけないんだ!」という恐怖と、音楽においても、迫りくるリズムと車の音、沈黙の繰り返しがストレスフルに緊張感を繋ぎ止める。ジョーズの後にこれを観たが、「激突!」もまた怖くてギャーってなった。結局もうホラー鑑賞会始まってるじゃん!この緩急と予測不可能な波が、次の展開にくぎ付けにさせる。
「ジョーズ」、とにかくずっと不安。水の中の静けさって耳に圧迫感があって突然独りぼっちになってしまった感覚にならない?水の中で一瞬音が消える演出、近づいてくるサメ目線的なカットにもずっとドキドキしているんだけど、自分的に意外だったのが、人間ドラマや集団心理をついた演出にも引き込まれるということ。

まず、最初の被害者になる女性の怖がり方が半端でねぇの。過呼吸になる感じ、怯え方、叫び声。これが、ただ事ではないぞ、と私たちにインプットさせる。サメだってわかっていても、「確かに海で一人泳いでいてサメ来たらこうなるかも…」とリアリティのある恐怖を提示してくる。
懸賞金がかけられ押し寄せるハンターたちは、危ないと注意されてもいうことを聞かず、我先にと海へでた。退治したサメが人食いザメとは違うと言われても認めない漁師たち。島にやってきたテレビ局のカメラを気にしながら、心配する観光客に海へ入るよう促す市長。一組が海へ入ると「あら、じゃあ、いいのかしらね」と堰を切ったように観光客は海水浴をし始める。そして、サメの尾ひれを見て、本物かどうかも恐怖で判断つかぬまま、一斉にパニック状態に陥る。

あるあるというか、人間的な心理をついてくる演出が現実的。はたから見てると「なんでそんなことになっちゃうの!」ということも、渦中にいたら自分も気が付けないんだろうなとも思う。今私たちが生活する世界の状況も、はたから見たらどんな風に見えるんだろう。

海の閉鎖を求めるブロディと、反対する市長をはじめとする議員たちのやり取りも「どこも同じなんだな…」というやりきれなさを感じるところ。「夏は稼ぎ時だ、この島の収入源はこのシーズンの観光収入なんだ!」的な発言をする市長。市民や観光客の安全ではなく、経済を優先させ、最初の被害者の女性の死因も「スクリューに巻き込まれた事故」と捏造してしまう(このシーンもね、鶴の一声的な感じで、あっという間に書き換えられちゃうからビビる)。経済を優先させ…ってあれ、なんか聞き覚えがあるな。経済を取るにしても、ちゃんとサメをどうするか、向き合うべきだったね。安全対策をすぐに取るべきだった。後回しにしたり、なかったことにしようとごまかしたりしちゃいけないよね。市民には本当のことを早くに伝えるべきだったね。。。。。

腹ペコなサメが人間をパクリ。それが起きたこと。その時に人はどう動くか。そこがこの「ジョーズ」の面白いところでもあるなと思った。そう考えると、大体がヒューマンエラーなんだよね。

サメ退治に異常な執着を見せるクイントの人間臭さ、家族を心配するブロディの翻弄される姿には声援を送りたくなるし、研究者魂を隠せないフーパーでも登場するシーンでは「なんかまともそうなヤツが来た安心感」を感じてしまう。それぞれのキャラクターが絶妙な存在感で、リアルに描かれている。
そして音楽。最初の方であんだけ、「テーマが鳴ったらサメが来る」を刷り込ませておいて、ラストシーンでは、テーマ曲なしでサメを登場させたりするからもう!!わざとだろ!こら!ほんとに、びっくりする。曲の使い方も素晴らしい。あのテーマが無かったら、映画は全然違うものになっていたと思う。映画音楽の存在は本当にでかい。

なんとなく、怪物つながりで、日本のゴジラのテーマと比較してみた。低い音で、シンプルな構成っていうところでは似てるよね。違うのは、ゴジラは一定のリズムを刻み続け、ジョーズはだんだんテンポが速くなって盛り上がるところ。あり続ける恐怖と、迫りくる恐怖、そんなイメージの違いだろうか。ゴジラは、人間が住んでるところにやってくるから逃げ場がないんだよね。一方で、ジョーズは一応陸という安全地帯がある(竜巻に乗って飛んで来たら話は別だけど…シャークネードというサメ映画があるんです)。

これってちょっと面白い違いかも。音楽だけでも恐怖が何種類にも増えるし、「人は何に恐怖を感じるのか」ということに対して製作者側が考えていることも分かってくる。(ちなみに、完成した指輪、「ジョーズ」のはずが意図せず「MEGザ・モンスター」のポスターに似ていると言われてしまった。これもサメつながりということで。海から顔出してるから許してください。)

私も昔、怖い曲を作ろうってやってみたことがある。工場のようなガッチャン!ガッチャン!と響く音に、赤ちゃんの泣き声と、民族楽器を使ったインスト。久しぶりに聞いてみた。‥‥こっわ!何作ってんだ私。夜中に聴いたらダメだった。怖くて爆笑しながら、でも背筋が凍った。

ちゃんと怖かったよ、過去の私よ。映画音楽もいけるぞ。
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モチーフ:サメ、ライフル、釣り竿、海に浮かぶオルカ号、黄色い樽、ボンベ、酒瓶、海水浴をする少年
音楽「JAWS Main Title」ジョン・ウィリアムズ piano cover
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▼みねこ美根情報

聴いてくれましたか!?
新曲「我にかえれ」本当に最高です。
https://lnk.to/warenikaere

◆みねこ美根◆
https://powerpop.co.jp/minekomine/
〝美根〟 プロフィール

ミネ:オルタナティブ・シンガーソングライター。6歳の時にピアノで初めて作曲、11歳からはギターでの作曲も開始し、現在はピアノとギターを用いてライヴ活動中。2017年より“みねこ美根”名義で本格的に活動を開始し、22年4月に改名。その後も「零れる光」をはじめ、「本当は人魚」「この世界に」など配信シングルを精力的にリリースし、23年11月に待望の1stフルアルバム『焔心の砦』を発表。同年12月には東京・duo MUSIC EXCHANGEにてワンマンライヴ『A Special Day of Mine 【焔心の砦】』を開催する。〝美根〟オフィシャルSNS

■『みねこ美根の“映画の指輪のつくり方”』一覧ページ
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