伊東歌詞太郎

伊東歌詞太郎

【伊東歌詞太郎 インタビュー】
才能の裏側には勘違いがあり、
その源には愛がある

新曲「サイレントマイノリティー」はギターが掻き鳴らされるエモーショナルなロックチューン。多様性の名のもと“サイレントマイノリティー=声をあげない少数派”をスルーする社会への危惧から生まれたリリックには、伊東歌詞太郎の信念と人生訓があふれ、正しく生きるがゆえに時に心が折れてしまいそうな者たちへの親身な激励となっている。その源にある音楽への尽きせぬ愛をご覧あれ。

声をあげない少数派に目を向けないと、
多様性の本当の意味に気づけない

かなりインパクトのあるタイトルですが、歌詞を読んだら“なるほど!”と納得しました。

僕はいつもタイトルを最後につけるタイプなんですが、ここで自分が描きたかったことを説明すると…今って多様性が叫ばれている世の中じゃないですか。で、本来の多様性っていうのは“マジョリティーであろうがマイノリティーであろうが、どちらも同じ権利を持っているから平等に扱っていこうぜ”ということだと思うんです。でも、今は“マイノリティーの意見を優先しよう”という方向に向かいがちで、しかもいわゆるノイジーマイノリティーばかりが注目を集めているんじゃないかと。それは非常に間違っている気がするんです。

マイノリティーの中でも声の大きい人ばかりが利益を得て、それ以外の人たちが蔑ろにされがちだと。

そう。ただ、マジョリティーは多数派だから、ノイジーであろうとサイレントであろうと、あんまり不利益は被らないですよね。逆に言うとマジョリティーだから、声をあげる必要がない可能性もある。そして、ノイジーマイノリティーは世の中に着目されがちとなると、ここで一番割を食ってる人たちがサイレントマイノリティーだと思うんですよ。そこに対して社会が目を向けなければ、多様性の本当の意味にみんなが気づけないんじゃないかっていうことを、この曲では描きたかったんです。

実際、そういったサイレントマイノリティーの人たちに心当たりも?

たくさんいますね。この世の中では正直に、真面目に生きている善人が割を食ってしまうと感じることがすごく多いんですよ。要は犯罪として謗られない範囲で、うまく立ち回って出世していく人たちの踏み台にされがちなんですよね。しかも、真面目だから相手じゃなくて、自分ばかり責めるんです。明らかに搾取されているのに“自分にも非があるから”とか言って声をあげない! そういう人たちがサイレントマイノリティーだと感じていて…実際に僕の周りの信頼するクリエイターたちに結構そういうタイプが多いんですよね。“それ、搾取されてませんか?”と指摘しても、”私、それでもこれをやるのが好きなんで”と口を噤んでしまう。

クリエイター業界は、やり甲斐搾取がめちゃめちゃ多いですよね。クリエイターのプライドにつけ込んで、ビジネスとしてはあり得ないオファーをすることが横行している。

ただ、逆のパターンもめちゃめちゃ多いんですよ。大風呂敷を広げて良い仕事を取ってきては、SNS上で“俺、こんなにすごい仕事しました!”と宣伝して、また仕事を取ってくるっていう。そういううまいやり方ができる人もいるんですけど、僕、そういう人が苦手で遠ざけちゃうから、結果的に周りに残るのはサイレントマイノリティなタイプが多いんです。僕はそういう人たちが報われる世の中になってほしいんですよ! 善人が損をしてしまう社会の構造を変えることは難しくても、せめて一個人として彼らにできる限りのことをしてあげられる人がもっと現れてほしい。なので、僕自身、そういう人たちに対して手助けになるようなことをしたり、物をギフトしたりします。それで喜んでくれるのを見るのが好きだし、搾取されている分を少しでも埋めてくれたらいいなぁって。

つまり、声をあげられずに埋没してしまうサイレントマイノリティの声にもっと耳を傾けられる社会であってほしいという願いが、この曲には込められていると。だから、1番のサビは《思うまま立ち向かおう》なのに、2番では《声が出せなくても それも戦うことだよ》と歌っているんでしょうか?

やっぱりね、戦えない人っているんですよ。家庭教師をやっていた時に引きこもりの子を3人担当した経験があるんですけど、血圧とかの関係でどうしても起きられなかったり、身体は健康でも何を聞いても答えることができなかったり。そういう子たちに“おまえ、そんなんじゃダメだよ! 世の中生きてけないよ!”と言っても何の意味もないんです。もちろん戦ってほしい気持ちはあるから、1番では《思うまま立ち向かおう》と歌っているけれど、どうしても黙ったままの人もいるんですよ。だったら、それもそれでひとつの戦い方だから、自分がダメだとは思わないでほしい。それによって現実が何も変わらなくても、悶々とした現実を生きること自体が苦しいことでひとつの経験だから、どうであっても僕は肯定する…と歌っているのが2番なんです。

“声をあげて立ち向かっていこう!”と歌う曲はたくさんありますが、声をあげられないことを肯定するというのは新しい視点ですよね。ちなみにラストには《(いつかは必ず伝わるから)》とありますが、声をあげられなくても抗う想いだけで何かを変えることができる、言わば念の力みたいなものを信じていたりします?

念の力というわけではないのですがか、そのフレーズは僕の人生におけるテーマでもあるんです。確かにミュージシャンでも、そんなに音楽が好きじゃなかったり、真面目にやっていなくても売れる人って結構いるじゃないですか。運とか時代の流れっていう人間にはコントロールできないものが、自分には納得できない人を選ぶのを見て、真面目にやっている人は心が折れて音楽を辞めていくことも多い。でも、選ばれるのも結局はただの順番でしかないんですよね。真面目にやっている人たちも、明日もしかしたら時代や運が自分を選んでくれるかもしれないわけで。だから、“真面目にやっていれば絶対に世に広まる”っていうのは自分の信念なんです。搾取されるばかりで声をあげられなくとも、いつかは必ず選ばれる順番が来るから、自分の好きなことを諦めないでほしい。もちろん自分の心や身体に限界が訪れたら辞めたほうがいいでしょうけど、誰かと自分を比べて落胆して辞めるというのは間違いだってことを、そのワンフレーズに込めているんです。
伊東歌詞太郎
シングル「サイレントマイノリティー」

OKMusic編集部

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