伊東歌詞太郎

伊東歌詞太郎

【伊東歌詞太郎 インタビュー】
愛することは技術であり、
人格もルックスも関係ない

アニメタイアップ2曲を収めた最新シングル「ヰタ・フィロソフィカ / 猫猫日和」。あてがわれた相手との関係性を“愛”という技術で育んでいくさまを説いた「ヰタ・フィロソフィカ」に、気まぐれな猫の生態を軽やかに写し取りながらも史上もっとも高い難易度を誇る「猫猫日和」と、作品に寄り添いながらも自身の思想とクリエイティビティーを濃厚に表した楽曲からは、さすがの手強さがうかがえる。

愛することは技術である――
その恋愛観に強く影響を受けた

最新シングルの1曲目「ヰタ・フィロソフィカ」はTVアニメ『わたしの幸せな結婚』(以下、『わた婚』)のエンディング主題歌として作られた楽曲ですが、聞くところによると奇跡的なタイミングでタイアップのお話が来たそうですね。

そうなんです。今、僕の中で起きている哲学書ブームのきっかけになった作品がありまして、それがフロムという哲学者が書いた『愛するということ』という本なんですね。その中に書かれている“愛する”ということの価値観が、現代の我々とはまったく違うんですよ! 我々ってアニメにせよ、ドラマにせよ、ずっと“自由恋愛こそが素晴らしい”という価値観で育ってきたと思うんですよ。でも、この本では逆に“自由恋愛のような次元の低い愛情で満足しているような現代人はダメだ!”って書いてあるんです。

ならば、次元の高い愛情はどんなものだと?

例えばお見合いだとか、家同士が決めた許嫁だとか、いわゆる我々が“勝手に決められた”とかってネガティブに評してしまう関係性ですね。フロム曰く“愛するということは技術である”と。

技術?

そう。自分で選んだのではなく、目の前にあてがわれた人だとか、恋愛を経ないでも自分が“この人だ”と決めた相手を、他者とまったく比べず…つまり、こっちの人のほうがカッコ良いだとか、年収が高いとかっていう比較はしないで、一生その人と添い遂げるための技術、それが“愛すること”だと言っているんです。だから、相手がどんなルックスだろうが、出自だろうが、性格だろうが関係ないんですよ。それまで自分が勉強や教養を通じて培ってきた人格というもので、目の前の相手を一生愛していくのが恋愛であると書かれていて、その説に自分がかなり影響を受けたんですね。もちろん、実際に自分がそういった愛し方を実践できるかと言えば難しいですけど、ひとつ新たな恋愛観の引き出しが自分の中にできた…というタイミングでいただいたのが、今回の『わた婚』のお話だったんです。なので“なんじゃこりゃ!?”と。

『わた婚』の主人公のふたりは最初、婚約者として出会うわけですもんね。

そうなんですよ! まさに“あてがわれた人”をどう愛していくかということを描いている作品でもあるので、歌詞を書いたり曲を作ったりという作業は、はっきり言って簡単でした。歌詞も15分とかで書き終わったんじゃないかな? 歩きながらやっていて、スタート地点からほとんど移動しないうちに終わったから、ちょっと物足りなかったくらい(笑)」

“あてがわれた人を愛す”と聞くと一種“つまらない”というか、無味乾燥な印象も受けますが、歌詞を見ると《僕だけの美しい光》とか《いつまでもあなたを待ってる》等、非常にロマンチックな描写もあって意外でした。

そこに対する作者の意図としてはですね、今、僕がフロムと同じ価値観で人を愛していくとなったら、相手に対して“あなたのことは誰とも比較しない。あなたは唯一無二の存在なんですよ”ってことを伝えると思うんですよ。でも、我々の従来の価値観では、そういった恋愛観って異端中の異端じゃないですか。なので、そんなにすんなり納得して受け入れてもらえるはずがないんです。

確かに、ルックスとか性格とかも関係なく愛してくれるなんて、ちょっと信用できないかもしれない。好きになる理由があって愛するのではなく、愛するという結果が先にあるわけですから。

むしろ、理由があった上で愛するというのが、フロムの言葉を借りると“次元の低い愛”だとか“児戯にも等しい愛”ってことなんですよ。だから、そうではない愛…こちら側からの“愛という技術”に気づいてもらえる、もしくは受け入れてくれるまで、ずっと待っているっていうことなんです。なんなら死ぬまで気がつかなかったとしても、こちら側は問題ない。なので、《いつまでもあなたを待ってる》という表現になっているわけですね。

だから、大サビにあるとおり“どうなったって変えられぬ愛”があって、“本当の美しいあなた”を見出せるということですね。では、その“愛という技術”って、具体的にはどんなものなんでしょう?

フロムによると愛する人と出会うまでに過ごした時間、経験、教養、思考、その全てを総合した人間力ってことですね。なので、“未熟な人間に愛するという技術は備わらない”とも書いてあるんです。これ、1950年代に出版された本なんですけど、その時点で“最近、児戯にも等しい恋愛というもので苦しむ人間たちがどんどん増えている。このままでは結婚できなくて思い悩む人たちが出てくるし、子供も生まれなくなって、家族というものの価値観も壊れていくから、世の中がどんどん悪い方向に行ってしまうだろう”ってことが書いてあるんですよ。確かにそのとおりになってるなぁって。 結婚をするしない、子供を持つ持たないって現代日本での大きな問題だし、モテるモテないというところで悩んでいる人も多いじゃないですか。だから、海外でも同じだったんですよね。自由恋愛が広まる以前は、フロムの言うような愛で世界は成り立っていたんだというところは、今回、自分としても描きたかったところです。

現代において、それを正解と押しつけることは最早できないけれど、そういった価値観もあると知り、引き出しを持てれば生きやすくなる人も多いかもしれないですね。

そうだと思います。で、愛というテーマを訥々と説いていくとなった時に、歌詞とメロディーが自然にバラードに寄っていったんですよ。タイアップ的にもエンディング主題歌でこういうタイプの作品だったら、やっぱりバラードというところを意識しないといけないので、そこも今回は運が良かったところです。
伊東歌詞太郎
伊東歌詞太郎
シングル「ヰタ・フィロソフィカ / 猫猫日和」

OKMusic編集部

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