関根青磁×生田真心が語り合う、録音
と編曲のコツ「少しのさじ加減で人を
説得できる感覚も重要」

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カニエ・ウェスト「Stronger」のレコーディングセッションに参加し、同楽曲でグラミー賞2008『ベスト・ラップ・アルバム賞』『ベスト・ラップ・ソロ・パフォーマンス賞』を受賞した関根青磁(以下、関根)と、AKB48の「フライングゲット」やAAAの「恋音と雨空」、Sexy Zoneの「男 never give up」などで編曲を務める、現代のJ-POPに欠かせない編曲家・生田真心(以下、生田)による対談を紹介したい。

――お二人がそれぞれの仕事を志したきっかけは?

関根:初めは、ただの音楽好きな少年として、高校時代に友人とアマチュアバンドでライブをやっているときにPAさんに「自分の音をこうして欲しい」と言いたい時に専門用語がわからず、悔しい思いをしたので「きちんと勉強したほうがいいのかな」と思うようになりました。当時組んでいたバンドもデビューは無理だなと思っていたのと同時に、レコーディングにも興味を持ち始めたので、専門学校に入ったというのが最初のきっかけですね。エンジニアはPAと違って名前のクレジットが残るのもいいなと思いました。

生田:僕は中学校、高校とバンドで演奏してましたが、その頃から制作することが好きで、カセットMTRを買って宅録を行っていました。その後、音楽の専門学校に進み、ギタープレイヤー科に入りました。学校を卒業したあとは、劇伴をやりはじめ、関西にある、ボアダムスなどのコアなバンドが集まるスタジオで周辺のバンドと交流を深めました。その後、劇伴の活動と平行して、彼らのサポートやトラックメイクの手伝いをするようになるなど、J-POPとは縁のないところから僕の音楽作家人生はスタートしました。

――なるほど。関根さんはいかがでしょうか。

関根:僕は、2年寄り道した後に専門学校に行っていたから、就職しなきゃいけないと意識がありました。「プロを目指すぞ」というよりは、「真面目にやらなければ」という気持ちでしたね。同級生は2歳下の学生が多く、学校のテストの点数が悪いと恥ずかしいなという気持ちもありました。

――生田さんはどのタイミングでJ-POPに携わりだしたのでしょうか。

生田:東京に出てきた当時は、今とは違う名前でコンペなどに参加していました。それがきっかけで「アレンジの仕事をやってみない?」と声をかけていただき、初めてお仕事させていただきました。そこから、アレンジの仕事に携わることが多くなり、現在までJ-POPを手掛け続けています。

――ありがとうございます。続いて、専門学校から就職という道を歩んだ関根さんにお聞きしたいのですが、会社という組織にいたからこそのメリット、デメリットはそれぞれどういうことがありましたか?

関根:僕は大手の会社のスタジオに行っていたので、同期の社員も多く所属していました。仲間も多かったですが、その分ライバルも多かったですね。仕事は個人といいますか、対人関係で回っていくことが多く、それが築けていない最初の頃はやりたい仕事ができなかったですね。会社が大きい分、色んな人間が関わるので、仕事関係の方と密接な関係になるのは大変でした。アシスタントのポジションは確保できていても、自分がエンジニアになるには壁があり、なかなか上へ上がれないというのがデメリットですかね。「どうやったらエンジニアになれるのかな」とずっと考えていました。

 メリットは大きいスタジオ故に、クラシックから演歌、ロック、ポップスまで、ありとあらゆるジャンルのレコーディングに参加することが出来、ホールレコーディングなども早い段階から経験する事ができたことです。基本的な楽器のマイクアレンジもだいたい見てきたので「こうすればいいな」と判断してマイキングができます。たまに、エンジニアでも見当違いなところを狙っている方がいますが、そういうのを目にすると、色々と見てこられてよかったと思いますね。

生田:そうですよね。ストリングスを録ると言っても、パッとできることでは無いですからね。どう考えても経験値がないとできない仕事だと思います。

関根:バイオリンとか近接マイクだけで狙う人を見ると「あ〜ぁ」って思いますね…(笑)。小さいスタジオでしか作業したことがないのかと思ってしまいます。大きい部屋では音の空気と流れを上手く捕まえることが大事ですからね。

――エンジニアや編曲家に作った作品を受け渡すときのコツや、受け取った際に「これは良い、悪い」と判断する基準は?

関根:それはマルチトラックとしての話でいいんでしょうか?

――はい。

生田:マルチでトラブルというと、たとえば、Pro Toolsではない、ほかのDAWから書き出したときにたまにあるのは、「頭が揃ってないこと」ですよね。最初のうちはみんなが良くつまづくんです。

関根:そう、BPMを無視してデータがズレてしまうんです。DAWのソフトが違うと全く同じ画面が出るわけではないので、ファイルの頭だけは揃えておくのが基本ですね。

――なるほど。

生田:あと、作り手は理解できているかもしれませんが、フォーマットが何ビット・何ヘルツであるかは書いておくと親切ですよね。トラブル回避につながります。

関根:ちなみにPro Toolsだとファイルの形式を調べる手段がないので、クイックタイムを使って調べたりしています。たまに間違ったフォーマットで渡してくる方もいますからね。

生田:僕はいまだにレベルをどれくらい突っ込もうというので悩んだりはしますね。

関根:これは、よくトラブルになりますね。

生田:そうなんです。たとえば、FXみたいな、割とミックスしようがないパートをどれくらいまで纏めようということもあります。あまりにもトラックが増えすぎると…。

関根:それに関しては「まとめて欲しい」と思うときもあるし「分けて欲しい」という場合もあるから、一概にこれとはいえませんね。ただイントロにしか音が入っていないのに、ファイルが曲の最後まであるトラックを見ると容量の無駄だとは思います(笑)。あとDAWによりますが、音源はモノラルなのにステレオファイルでくるとか。

 エンジニアの立場からリクエストしたいのは、リバーブやエフェクトのついた状態の「ウェット」と外した状態の「ドライ」の2種類ファイルを送って欲しいです。トラックに色づけをしていくのがエンジニアの仕事なのですが、リバーブで先に世界観を作られてしまうと唄の世界観と馴染みが悪くなる事もあり、後から調整しにくくなるという事になるからです。

生田:キックでサイドチェインをかけたようなエフェクトに関しては、ある程度アレンジ側でやらないと、雰囲気は出ませんよね。

関根:そうですね。本当はもう少し手前の段階から一緒に作業したほうがいいんですよね。フラットな音から音作りやサイドチェインの調整をした方がより良いものはできると思いますね。

生田:ですよね。いつもそれを迷っているんです。

関根:先にがっつりとサイドチェインを掛けたファイルが書き出しされてくるとノイズも強力だったりして「あぁ、こんな音でトラッキングされちゃったかぁ…」と悲しくなることもあります。もちろん、それで完結している音であれば問題ないのですが、唄ありきだったりしますから「後から全体でサイドチェインをかけてダッキングすれば楽しいのに!」と思うことはありますね。

生田:ですよね。いつもそれを迷っているんです。最近は、“ドラムトラックをひとまとめにして、全体にエフェクターをかけることでアレンジの一部にする”という手法がよく見られます。本当はエンジニアさんと密接にやりとりしながら行いたいのですが、アレンジャー判断に委ねられることが多いんです。

関根:あとはトラック数が飽和状態のアレンジは増えましたね。ハイハットのトラックが1~5まであるファイルを渡されても「どうすればいいんだろう?」と困惑します(笑)。せめて2~3トラックくらいまでには収めて欲しいですね。

 アレンジャーは「もっと派手にして」と言われて、音を足す一方で引き算をしなくなる。それでトラック数が増えるという傾向が見られますね。その結果、最後にエンジニアの所に来る時には「この音はいらないでしょう。派手にしたければ、これをこうすればいいよね」という判断を下すことが多いです。

生田:やはり引き算だと、クライアントから「寂しくなっちゃったね」とデータにNGが出ることもありますからね。本当は「こっちに音を足すのであれば、すでにタンバリンがあるから必要ないのでは」ということもあるんですが…。

関根:大きいプロジェクトであれば、スタジオで、アレンジャー・エンジニア・ディレクターまたはプロデューサー達と話し合いながら音を作れるので、エンジニアが「これ、いらないでしょう」と言えばその場でディレクターが「いらないね」と判断して進めることができます。しかし、最近はアレンジャーが家で仕上げなければいけない時代になってしまいました。特にコンペの場では、自身の曲を通さなければいけないということもあり、装飾過多なトラックを作らないと先に進めない場合もあります。

――それぞれの職業を目指す人たちに対して押さえておくべきポイントは?

関根:とにかく沢山音楽を聴くこと。例えばビートルズを知らないとそこで話が終わってしまいますし。年代の差はあるにしても、「プログレっぽいサウンド」と言っても理解されないこともあります。「あのサウンド」って言ったときに、そのサウンドをわかり合って、初めて次に進める部分もありますから、それを知らないと会話にならないので困ってしまいます。

――生田さんはどうでしょうか。

生田:仕事でやっていく場合は、相手に言われなくても「こういうのが欲しいだろうな」と察することができる引き出しを持つことが重要だと思います。一つのジャンルに対して、浅くてもいいから、せめて広く聴いておくことではないでしょうか。

関根:そう。「知らないのはナシ」というか、せめてそのジャンルの代表曲だけでもいいから聴いておいてほしいです。

生田:当時の空気感もわかれば、それに越したことはないのでしょうが、その部分に関しては相談しながら進めることができるので。どちらかというと「あんな曲」と言われたときに、ぱっと自分でイメージできる能力が必要だと思います。

関根:楽譜が読めなくてもすごい人もいますからね。感覚的に表現できる人はそれを突き詰めればいいと思います。ピアノができなければいけないとかギターができなければということではないと思います。

生田:あるジャンルに徹底的に詳しいという自負があったとしても、よほどすごくないと仕事は来ませんからね。

関根:エンジニアでも卓の前に座って音を聴いて、フェーダーを横一線に並べて微調整するだけで素晴らしいバランスの音を出すことができる人もいます。その人が座っただけで場の雰囲気が変わることもありますし、聴かせるボリュームのレベルだけでも音の印象を変えることもあります。ほんの少しのさじ加減で人を説得できるかできないかという感覚も重要ですね。

 あとは技術の前に人間性ですね。基本過程としてはアシスタントを経てエンジニアを目指すわけですから、言葉遣いや気遣いはしっかりとできた方が良いですね。もちろん我が道を行って成り上がる人もいるんでしょうけど。あとはできたらお酒は飲めたほうがいいと思いますよ(笑)。

生田:確かに、エンジニアさんは話しやすい人のほうがレコーディングをお願いしやすいですね。アレンジャーとエンジニアは相談することが多いので「ここのギターをこうしたいんですけど、何かいい方法ないですか?」ということ一つにしても、やはり人柄や話しやすさは重要視されると思います。

(取材・文=中村拓海)

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