乃木坂46における「君の名は希望」と
「制服のマネキン」の重要性ーー杉山
勝彦の作曲力を読む

 乃木坂46は2012年2月にメジャーデビューしていたものの、先述の2曲を発売したタイミングでは同番組への出演はなかったため、これらの楽曲は今回が番組初披露となる。また、「君の名は希望」に関しては、生田絵梨花がピアノ演奏をし、メンバーが歌唱する特別バージョンということも発表されている。

 この2曲は乃木坂46のレパートリーの中でも特に評価が高く、アイドル論者としても知られるBase Ball Bearの小出祐介(Vo/G)が雑誌連載において2年連続で「年間アイドル楽曲ベスト」に選んでいる(2012年「制服のマネキン」、2013年「君の名は希望」)。そして、この2曲の作曲を手がけたのが男性二人組ユニットUSAGIでも活躍する杉山勝彦だ。杉山は過去には嵐やAKB48私立恵比寿中学への楽曲提供をしているほか、乃木坂46には先述の2曲以外にも「サイコキネシスの可能性」や「私のために 誰かのために」、新アルバム『透明な色』では新録曲として「僕のいる場所」や西野七瀬のソロ曲「ひとりよがり」を手掛けており、名曲メーカーとしてファンからの信頼も厚い。AKB48グループや乃木坂46で総合プロデューサーを務める秋元康も、トークライブアプリ『755』で「杉山勝彦さんは、本当に天才だと思います。大好きな作曲家の一人です」と発信するなど、グループにとって欠かせない作曲家の一人であることを示唆している。

 乃木坂46において杉山の楽曲ーー際立ってこの2曲がかねてから注目されているのは、この2曲が“乃木坂46を定義した”といえるからなのかもしれない。近年、一般的にアイドルポップスとして世の中に存在する楽曲のなかで流行しているのは、ライブで盛り上がる、アップテンポで抜けの良いもの。その王道を行くのがライバルグループであるAKB48であり、乃木坂46はこれまで同グループとは異なる道を模索してきた。初期段階では「おいでシャンプー」や「ぐるぐるカーテン」など、フレンチポップをベースとした清楚なイメージの楽曲を表題曲としてきたが、そのイメージを一変させたのが、4thシングル表題曲として発表された「制服のマネキン」だ。同曲は90'sユーロビートを彷彿させる四つ打ちサウンドとマイナーキーを多用するメロディー、6度音程内の狭い音域で歌われるサビなど、アイドルの楽曲としては異端といえるアプローチを積極的に採用。卒業や恋愛をテーマにした歌詞とも相まって、乃木坂46の新しいイメージを打ち出した。

 そして、「君の名は希望」は複雑な構成を持ちながらも、独特のキャッチーさを持つ乃木坂46の代表曲の一つだ。「Aメロ→Bメロ→Aメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→Aメロ→サビ」という複雑な“大ロンド形式”の構成を持つ同曲だが、主旋律はピアノ一本で成立するうえ、ユニゾン歌唱が活きる合唱向きの歌メロでリスナーを飽きさせない。杉山は『OVERTURE』のインタビューで同曲について「普段はフルサイズで送るんですけど、『君の名は希望』の場合は1コーラス送ったら『ほぼこれでいくから』ということになって<中略>乃木坂46にとって大切な曲になる予感がしました」と語っており、断片的にしか楽曲がなかった段階からスタッフや本人が名曲だと予感していたようだ。(参考:徳間書店『OVERTURE』)

 これら2曲がファンやそれ以外の楽曲愛好家に受け入れられたことにより、乃木坂46は“楽曲が良い”アイドルとしても広く知られていった。また、杉山以外の作家がその後手掛けて採用された楽曲にも、「制服のマネキン」や「君の名は希望」の影を追いかけているようなアプローチがみられることから、その影響力の大きさが伺い知れる。

 ではなぜ、杉山が2013年3月リリースの『君の名は希望』以降、乃木坂46への楽曲提供を控えていたのか。その答えは、現在彼が力を注いでいるUSAGIにある。

 USAGIは、年間200本ものストリートライブを行っていた上田和寛の歌声を、偶然新宿の路上で聴いた杉山が一目惚れし、それまでの作家活動を投げ打ってまで組んだ音楽ユニットだ。デビュー前には『ミュージックドラゴン』や『中西哲生のクロノス』など全国のテレビ・ラジオ50局でパワープレイを獲得して注目を集め、2014年の1月に『イマジン』でメジャーデビュー。USAGIはその後も『Hello / USAGI~不昧なストーリー~』『ここから』とコンスタントにリリースを続け、2015年1月19日に赤坂BLITZで開催したデビュー1周年ワンマンライブはチケットが完売するなど、徐々にその才能が世間に認知されつつある。

 そんなUSAGIは3月18日に4thシングル『好きをこえたヒト』のリリースを控えており、先行してリリックビデオも公開されている。同曲はUSAGIにとってシングル表題曲としては初のラブソングで、杉山が手掛けるストリングスアレンジとキャッチーなメロディーや、人間味あふれる上田の熱唱が一段と胸に響く楽曲だ。赤坂BLITZのステージで初ライブ披露された。

 2015年、『好きをこえたヒト』でステージに立つところから活動をスタートさせたUSAGI。作曲家として多大なる功績を残した杉山だが、2015年はUSAGIとしての飛躍にも期待したい。(中村拓海)

リアルサウンド

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