L→R 金澤ダイスケ(Key)、山内総一郎(Vo&Gu)、加藤慎一(Ba)

L→R 金澤ダイスケ(Key)、山内総一郎(Vo&Gu)、加藤慎一(Ba)

【フジファブリック インタビュー】
フジファブリックの
肖像画と言えるものを作りたかった

今年の4月でデビュー20周年を迎えるフジファブリックが12thアルバム『PORTRAIT』をリリースする。多くのバンドに影響を与えてきた彼らの20年間の活動の集大成であると同時に、さらにバンドを続けていくために挑んだこととは? そんな同作へ込めた挑戦心と想いについて、メンバーを代表して山内総一郎(Vo&Gu)が語る。

20年やってきて、
今、攻めずにいつ攻める!?

デビュー20周年を迎えるタイミングで3年振りにリリースする今回のアルバムには、どんな想いが込められているのでしょうか?

フジファブリックというバンドは常に前作を超えるものを作りたい気持ちがあるんです。ただ、12作目にもなると、越えていかなきゃいけない壁もかなり高くて。それを越えるためにフジファブリックが持っているサウンドの楽しさはもちろんですけど、このバンドのプライドを詰め込んだアルバムにしたいと考えながら作ったのが『PORTRAIT』ですね。

いい作品になった手応えがあると。新たに挑戦されたこともありましたか?

1曲目の「KARAKURI」と最後の「ショウ・タイム」の2曲は組曲的というか、プログレッシブロックなアプローチをしているんですけど、こういう曲はずっとやりたいと思いながら試してみていたものの、なかなかかたちにすることができなかったんです。それからコツコツと取り組んできて、ついにかたちにできました。これまでもそうでしたけど、今回のアルバムはこれまで以上に“これでいいや”というストッパーをかけることなく、メンバー全員が培ってきたスキルとセンスを全て注ぎ込みましたね。だから、より濃い作品になったと思うし、楽曲のバラエティーという意味でもとても気に入っている作品に仕上がったと思います。これまでの11枚とは全然違うアルバムにもなっているんじゃないかな?

アルバムのためにかなりの曲数を作ったのですか?

そうですね。僕が2022年3月にソロアルバム『歌者』を発表したあと、改めて自分はこのバンドにどういったことで貢献できるのかと考えた時、ギターはもちろんですけど、やはりソングライティングだと思ったので、とにかくたくさん曲を作ろうと思ったんです。だいたい20曲に1曲くらい気に入る曲ができるんですけど、よくある曲にはしたくないと思いながら、出せるものは出そうというところで作っていきました。

候補曲は他にもたくさんあったのですか?

候補曲は絞りましたけど、デモは大量にありました。いつもは多くて5曲くらいをスタッフを含めた“デモ聴き会”に持っていっていたんですけど、今回は1回に20曲ぐらい持って行っていましたね。“それを聴くスタッフの身にもなれよ!”って感じなんですけど(笑)。自分がやりたいこと、バンドでやらなきゃいけないこと、そういったものはどこかから借りてくるわけにはいかないんだから、自分の中からとにかく絞り出さなきゃいけないという想いで作っている時期もありました。ある程度の曲数を作っているとパターンも決まってきたり、飽きたりするんですよ。でも、そんな時にこそいい曲ができるんです(笑)。アルバムにはそういう時にできた曲たちが入っています。

2021年10月に発表したシングル「君を見つけてしまったから/音の庭」から「音の庭」、TVアニメ『新しい上司はど天然』のOPテーマとして2023年10月に発表した「プラネタリア」まで既発曲も5曲収録されていますが、収録曲を決める時はその5曲を収録することを前提に他の5曲を選んでいったのですか?

だいたいアナログレコードのA面とB面みたいなイメージで、このアルバムをもうちょっとカラフルにしたいと思った時に「音の庭」があったらいいなと思ったので、「音の庭」は最後の最後に僕が希望して入れさせてもらったんですけど、基本的には「ミラクルレボリューションNo.9」から始まった2023年の流れを大事にしながら、そこに被るような曲ではなくて、さらに表現として広げていけるものを選んでいきました。

今作にはプログレッシブロック風あるいはロックオペラ風とも言える組曲もあるし、ディスコナンバーもあるし、アーバンなエレポップもあるし、フォーキーな曲もあるし、いろいろな曲が入っているじゃないですか。

入っていますね。8ビートのロックナンバーもありますしね。

曲順を決めるのは大変だったのではないですか?

でも、2パターンをみんなに投げて、“どっちがいいですか?”って訊いたくらいですね。曲順ってアルバムのカラーを決めるものだから“今までと違うアルバムだな”と思いながら聴いてもらいたいので、1曲目は「KARAKURI」にして。「ショウ・タイム」というアイディアもあったんですけど、“いや、これは最後がいいだろう”みたいなことを自分なりに考えて、みんなとグループLINEでやり取りをしながら決めていきました。

「KARAKURI」が1曲目というのはかなり攻めていますね。

そうですね。もう20年やってきていますからね。“今、攻めずにいつ攻めるんだ!”っていう(笑)。“守ってどうするんだ!”ってところもあったので、このバンドが持っている物語的なものも投影できた曲だから、「KARAKURI」が1曲目っていうのは曲順を決める前から、周りのみんなもなんとなく思っていたと思います。

見世物の口上を思わせる歌詞が1曲目にぴったりなのですが、曲順を決めてから歌詞を書いたわけではないんですよね?

そうです。まず曲を作ってから、歌詞のテーマを決めて、加藤慎一さんに書いてもらったんですけど、ひと言で言ったら、“本当の自由って何だろうね?“という曲。明確なテーマがあったんですよ。捕えられた者と捕えた者。それを社会の縮図と見てもいいし、自分の内面と見てもいいんですけど、そこを出たとして、“じゃあ、そこはどこだ? そこはもうひとつ大きな籠の中なんじゃないか?”って問いかけているんです。展開も多い曲なので、そういったことを加藤さんと話しながら書いてもらったんですが、加藤さんのワードセンスがそもそも好きだし、今回は20周年ということもあって、3人で歌詞を書いている「Particle Dreams」もあるんですけど、全員の力を最大限に出して作りたかったんですよね。そんなにスポ根にやっているつもりはないんですが、そういうふうにしないとできなかったと思うし、「KARAKURI」のような曲が1曲目というのは“そういうアルバムです!”っていう意思表示でもあるんです。

その「KARAKURI」と2曲目の「ミラクルレボリューションNo.9」、そして3曲目の「Portrait」の3曲は加藤さんの作詞です。「KARAKURI」と「ミラクルレボリューションNo.9」の歌詞は加藤さんらしいと思うのですが、「Portrait」は作詞者のクレジットを見なければ、加藤さんだと分からなかったかもしれないと思いました。

確かに。「Portrait」は20周年を総括するような曲になるというか、今回のアルバムの中心になるだろうと思ったんです。それなら、この曲に自分たちのことを投影しないといけないと考えて、全員の力を注ぎ込むという意味でも加藤さんに歌詞を書いてほしいと思いました。それで“この曲を仕上げるにあたって加藤さんが開けなきゃいけない扉がある。このバンドのことを歌詞に落とし込んでほしい。素直な気持ちを書いてほしい”とお願いして書いてもらったんです。だから、この曲の歌詞は特に好きな歌詞ですね。

やはりこのバンドのことを歌っている曲なんですね。“Portrait”というタイトルは加藤さんが考えたのですか?

いえ、実はアルバムのタイトルが先に決まっていて、この曲は最初違うタイトルだったんです。“いつまでも青春ごっこをやっているわけではないけど、フジファブリックのバンド活動は終わらない青春だな。そのままでいいんじゃない?”という話をしながら、終わらない青春をテーマに歌詞は書いてもらったんですが、アルバムのタイトルが決まって、歌入れとミックスが終わったタイミングだったかな? やっぱり大きな曲だから、この曲のタイトルも“Portrait”がいいんじゃないかとなりました。自分たちの肖像、青春の肖像という意味でぴったりだと思ったんです。

“PORTRAIT”というアルバムタイトルはどこから?

フジファブリックの肖像と言えるものを作りたかったんです。“PORTRAIT”っていう言葉の響き、柔らかさもいいなと思って。堅苦しいものにしたくなかったんですよ。自分たちは新たな挑戦をしながら進ませてもらっていますけど、リスナーへ届ける時にはポップに届けたいんです。なので、意味合いも含めて抽象度の高いものがいいと思った時に“PORTRAIT”がぴったりだと思いました。

この曲がアルバムの中心になると思ったのはどんなところからだったのですか?

エネルギーを感じたんです。曲作りの序盤からあった曲で、聴いてもらったら分かると思うんですけど、アンサンブルもめちゃくちゃネイキッドで、3人の音にプラスされたのはドラムの音だけなんですよ。すごくシンプルで熱量のあるこの曲がアルバムを象徴するものになるという感覚は、作っている時からなんとなくみんなの中にありました。ストリングスを入れることもできたし、もっとシンセサウンドに寄せたり、エレキギターを思いきり弾いたりしても良かったし、いろいろとアイディアは浮かびましたけど、20年やってきて取り繕いたくなかったんです。自分たちは『PORTRAIT』というアルバムを「KARAKURI」から始まる曲順も含めて、“これがフジファブリックの日常です。普通の姿なんです”というものを表現したかった。だから、それをこの曲にも当てはめてアルバムを象徴する曲として作っていきました。
L→R 金澤ダイスケ(Key)、山内総一郎(Vo&Gu)、加藤慎一(Ba)
アルバム『PORTRAIT』

OKMusic編集部

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