林原めぐみ

林原めぐみ

【林原めぐみ インタビュー】
『エヴァンゲリオン』というのは
誰かが誰かを想うドラマでもあった

配信という形態が登場した以上、
完結した作品も終わりにはならない

それにしても2009年から始まった“集結”シリーズも4枚目になりましたが、数を重ねるほど同一シリーズらしい、だけど別の曲を作るって、どんどん難しくなっていくじゃないですか。にもかかわらず、疾走感満点の「終結のはじまり」に、アッパーでありつつ荘厳さの勝る「終結の槍」と、今回もタイプの違う、けれど確実に“集結”シリーズらしい力強い楽曲が誕生したのには驚きました。

本当にそう思います。作曲のたかはしさんはすごい! ご本人のバンド経験やクラシックの経験、コーラスとしてお仕事をしていた経験も活かしつつ、もちろん研究熱心ですし、流行っているものも客観的に眺めて分析していて。ご本人は謙遜されますけど、音楽のジャンルを超えた深さがある方なので、いろんなところからいろんなアイディアを引っ張り出して作ってくださっていますね。いつも。

そんな2曲を歌われてみて、いかがでした?

なんだか人生の中で、ずーっと「Over Soul」(2001年8月発表のシングル)が続いている感じがしています(笑)。TVアニメ『スレイヤーズNEXT』のオープニングテーマになった「Give a reason」(1996年4月発表のシングル)以降、主人公であるリナ=インバースの力をフルに借りて、自分の心拍数ではないものが私のものとして定着し、その後、たかはしさんと「Over Soul」で初めてタッグを組んでからは、毎回手を替え品を替え、挑み続ける楽曲が降ってくるという。時々「DENIM」(2021年3月発表のベストアルバム『VINTAGE DENIM』収録曲)みたいに、自分らしい速さで呼吸ができるような曲も歌っていますけど、作品のおかげでずーっと壁打ち特訓している感じです(笑)。

作品に引っ張られて、新たなエンジンが積み込まれたような?

そうですね。そもそも、この世にネット配信という形態が登場してしまった以上、すでに完結した作品であっても、本当の意味で終わりにはならないんですよ。こちら側としては収録も、やるべき仕事も全部終わっていようとも、今日が一気観の始まりになる人もいるという、すごい時代に来てしまった。『エヴァ』が深夜に再放送された当時は“深夜にアニメなんて何を言ってんだ!?”という時代だったけど、そこからの二十数年でアニメの放送のかたちも様変わりしましたし、その突先にいたという自負もあります。もちろん先端を切り開いたのは作品であって、あくまでも私はそこに“いた”だけですけど(笑)。

“終わりにならない”ことで、ご自身に何か変化ってあります?

私、この世界に入って夢とか目標を聞かれるたびに“おばあちゃんになった時に、おばあちゃんの声を当てている人になっていたいです”って、ずっと言ってきたんですね。もちろんヒロインだったり主人公だったり、少年少女たちのど真ん中な役柄もやってはきたけれど、いい意味で自分が枯れていく道というのを見つけながら、模索しながら歳を取っていくことを楽しんでいきたいって。だけど、こんな時代だと歳を取っている場合じゃない! 言ってみれば『魔神英雄伝ワタル』は35周年で、“もう一回、忍部ヒミコの“あちし”に戻るのか? 出るのか、あの声を!?”ってことですよ。自分を楽器に例えてみれば、昔はうまく出せなかった低い音を出せるようになったけど、ピーン!と張った緊張感のある高い音も常に出せるようにしておかないといけない。まぁ、今のところ出せてますけど…だいぶ目測を誤りましたね(笑)。

配信の浸透で時代を問わず作品に触れられるようになった結果、周年を大々的に祝ったり、新作が作られることも、かなり増えてきていますもんね。

そうなんです。終わったはずの『エヴァンゲリオン』でも、今回もパチンコに搭載するための新たな台詞録りをしましたし。それを私の中では“ダウングレード”って呼んでるんですよ。過去の作品を過去のままやることが望まれるので、“私が30年、歳を取ったら綾波レイちゃんはこんなに成長しました”はいらないんですよ。番組は完結しても、例えば何かのコラボに呼ばれれば、当時のままのレイちゃんでやらなきゃいけないので、当時の気持ちだったりテンション、肉声まで自分をダウングレードするんです。

普通は年月が経つほどに演技力も上がりますし、いい意味で芝居も変わってくると思うんですが、むしろ…

変えてはいけない!という空間もあるのね、声優って。例えば、懐かしい友達に会ったら、小学生の頃の気持ちに戻って思い出話で盛り上がったりはするけれど、その声は“ゲラゲラゲラ!”って笑っている45歳だったりするわけじゃないですか。だけど私は“キャキャキャ!”って当時のままの声で笑わなきゃいけない。これはだいぶ想定外でしたね。

それこそ今回も“終結”と銘打ってしまいましたが、まだ何かあるかもしれない。

そこは私も何とも言えないですね。今のところ何の予定もないですけど、庵野秀明さんではない別の監督が、誰かのサイドストーリーとかを描かないとも限らない。今回“これで終わり”と信じて作っていたことに嘘はありませんが、何があるかは分からないので、何かが始まったらその時にまた考えます。絞り出す!

期待しています(笑)。きっと2024年も林原さんの活躍をたくさん見られそうですよね。

どうなんですかね? 録ってはいても、いつオンエアするのかわからないものもありますし。昔はオンエア中に続話のアフレコをやっていることもありましたけど、今は1年くらい前から録って、完パケにしてからネット配信と同時にオンエアなどをすることが増えているんですよ。ネットはローカライズだったりに時間がかかるみたいで。あとは、いわゆる作画崩壊を防ごうという動きもあって。まぁ、視聴者側方からすれば、一気観だろうと毎週視聴だろうと、クオリティーの高いものが観られるんですから良いことですよね。結果的に、2023年はずいぶんと立て続けだったなぁと思うんですが、動いて休んで動いて休んで…というかたちが理想なので、2024年は息を深いところまで吸い込み、それを栄養にして作品に活かしていきたいです。

取材:清水素子

シングル「終結の槍/終結のはじまり」2023年12月6日発売 KING RECORDS
    • KICM-2147
    • ¥1,430(税込)
林原めぐみ プロフィール

ハヤシバラメグミ:声優・シンガー・ラジオDJ ・作詞家・エッセイストであると共に一児の母。1986年、看護学校及び声優養成所在籍中に『めぞん一刻』でアニメデビュー。その後、数々の人気アニメのキャラクターを担当しており、現在の代表的な出演作品およびキャラクターは、『スレイヤーズ』のリナ=インバース、『エヴァンゲリオン』シリーズの綾波レイ、『ポケットモンスター』のムサシ、『名探偵コナン』の灰原 哀等。また、シンガーとしても活躍し、91年3月に1stシングルとなる「虹色のSneaker」をリリース。当時はまだ珍しかった“声優アーティスト”という存在を世に知らしめた立役者とも言える。オフィシャルサイト

「終結の槍/終結のはじまり」試聴動画

OKMusic編集部

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