林原めぐみ

林原めぐみ

【林原めぐみ インタビュー】
『エヴァンゲリオン』というのは
誰かが誰かを想うドラマでもあった

コーラスではヘブライ語で
“残酷な天使”と歌っている

今回は何を集めたんでしょう?

登場するキャラクターですね。冒頭の《迎えに行くよ》はもちろんマリちゃんだし、《探し続け》と《1人になれない》はゲンドウさんだし、《人のぬくもり》は第3村のことで。歌詞を聴いた時に、映画のいろんなシーンが浮かんでくれたらいいなと思って。で、やっぱりアスカとレイちゃんは対にしたかったから、1サビの《後悔など もういらない》をアスカ、ラストの《後悔さえ 愛しいから》をレイちゃんにしました。ただ、2番頭の《迷いながらも/支え続け/見つめてきた》は映画の挿入曲だった「VOYAGER〜日付のない墓標」を『MUSIC FAIR』で歌う機会があったからこそ書けた歌詞なんです。

というと?

最初にレコーディングスタジオで歌った際、サビの《私があなたを愛してたことを/死ぬまで死ぬまで誇りにしたいから》という歌詞は、なんとなくゲンドウさんを許すユイだったり、この世界そのものを許すエヴァの中の人みたいな気持ちでいたんです。でも、『MUSIC FAIR』で歌うにあたって、もう一回自分の中に取り込んだ時に、これは『エヴァ』に出てくる全員の想いなんだと身体に染みたんですよ。ミサトさんから加持さんに対してもそうだし、シンジくんからミサトさん、リツコさんからミサトさんに対しても、冬月さんなんてまさにそう。そこから派生したのが《迷いながらも/支え続け/見つめてきた》という詞で、レイやアスカほどくっきりと描かれてはいないけれど、新クルーのみんなもヴィレに乗りながらずっと迷っていたと思うんです。“ここで生き延びている自分って何なんだろう?いったい何と戦っているんだろう?”って、ずっとずっと誰もが迷っていたし、『エヴァンゲリオン』というのは誰かが誰かを想うドラマでもあったなぁって。もちろん、シンジくんが孤独から生き方を見つけたというテーマもあるんですけど、その側にミサトさん、アスカ、レイがいたから見つけられたということもテーマだったよなぁって、終わった今だからこそ染みるなと。

では、“終結のはじまり”というタイトルも、終結が始まるのではなく、終結という始まりととらえていいんでしょうか?

終結によって始まる…という感じですかね。ここで終わることによって、キャラクターにせよ、観続けてくれた人たちにせよ、解放された新たな人生が始まっていくというような。それは「終結の槍」にもつながることで、こちらの曲ではラストフレーズの《シン・世紀を創めよう》というのが、たぶん一番言いたかったことですね。考えようによってはネガティブかもしれないですけど、テレビシリーズの『新世紀エヴァンゲリオン』にもう一回戻ってもらってもいいかなとか。やっぱり『エヴァンゲリオン』って作り方もとても独特でしたし、必ずしもテレビシリーズをオンタイムで観ていたのが入口なわけではなく、劇場版だったり、それこそパチンコから入った人もたくさんいるんです。なので、シンジくんが旅立っていった宇部のラストシーンから、もう一回自分の少年期を見直すも良し、もしくは劇場版しか知らない人なら、テレビシリーズを観直すも良しっていう。そういった出口があるようでないような独特のループ感も、もうひとつの『エヴァ』の世界かなと思うんです。

終結によって新たな世界、それこそ“ネオンジェネシス”が始まると。ちなみに「終結の槍」には「残酷な天使のテーゼ」の歌詞が散りばめられているとか。

はい。あの曲があったから、ここまで進んできて終わりを迎えられたという感謝を表したかったんです。たくさんカラオケで歌われている曲ですけど、ノリで騒いでいるだけで意外と歌詞を見ていない人も多い気がして。でも、それこそ《少年よ 神話になれ》とかいい言葉がたくさんあるんですよ。なので、それと対になるようなものを終わりに書きたかったんです。

確かに、共通する単語やフレーズが数多く盛り込まれていながら、「終結のはじまり」とは“終わり”と“はじまり”、“未来”と“過去”、“蒼”と“赤”といった対比もあって、この2曲でループしている感もありました。そこがまた『エヴァ』っぽいなと。

なんとなく散りばめて、意識しながらやっております(笑)。たぶん『エヴァンゲリオン』を好きな方たちって、CDをパッと買って曲をかけて終わりではなく、そういう仕掛けを楽しみにしてくださっていると思うんですね。で、これは発売まで言わないつもりなんですが…「終結の槍」のコーラスには、実はヘブライ語で“残酷な天使”“テーゼ”という言葉が入っているんです。

ヘブライ語!? いや、コーラスに仕掛けがあると聞いていたので耳を澄ましたのですが、全然聞き取れなかったんですよ。

あははは! あえて聞き取れないぐらいにぼかしているんですよ。なぜそんな言葉を入れたかと言うと、「残酷な天使のテーゼ」のコーラスは何か特定の言語に集約しないほうがいいということで、どこかの国の言葉に聞こえるけど本当は実在しない架空のものなんですね。じゃあ、あえて今度は実在する言語を使おうということで、聖書のもとに使われていると言われる、ヘブライ語で散りばめたんです。さすがにみんな気づかないだろうけど、これを聞いたら“おおっ!”ってなるじゃないですか。

今、なりました(笑)。

最初の集結の園には、それこそガムランだとかお経だとか、自分で意味は認識できなくても、何か不思議な気持ちにさせられる言葉の力…いわば言霊みたいなものを込めて入れました。それこそ私は30歳のころに『Irāvatī』(1997年8月発表のアルバム)というサンスクリット語をアルバムタイトルにしたこともあって、そうやって意味が分からなくても耳心地が良かったり、意味を知った時に“そうだったのか!?”って納得できる言葉って普遍的にあると思うんですね。

「残酷な天使のテーゼ」は今となっては作品になくてはならない楽曲になりましたが、その歌詞を改めて組み替えることで、今度は明確に物語とつながる曲になったというのも、これまた素晴らしい対比だと思います。

それはやっぱり『エヴァンゲリオン』という作品を私はゼロから…それこそ浮き沈みも、世の中の勝手な大騒ぎも、全て体感してきていますからね。作品の歴史とともに自分の歴史もあるし、一緒に歳を重ねてきた経験値があって、その中で我々みんな翻弄されましたから! キャスト全員、おそらく制作チームも翻弄されつつ、それでも信じてその船を下りることはなかったというか、信じるしかなかったというか。いい人生経験をさせてもらいました。

「終結の槍」に《ひたすら迷いあがき求めた扉》というフレーズがありますが、この作品にかかわった方みなさんの想いでもあると。

そうそう!(笑) それだけ作品やキャラクターとつき合ってきましたし…でも、たぶんレイちゃんだけでは見えない世界があります。やっぱりユイさんだったり、初号機だったりを通して、全部見てきたからこそ書けたんでしょうね。とはいえ、これを正解とするつもりもないし、言葉の裏を読もうとしたり“自分はそう思わない”と言う人がいても、それはそれで全然いい。それこそエヴァだしね(笑)。1カ所でも2カ所でも聴いている方の琴線に触れられれば万々歳!…みたいなつもりです。

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着