『OMORI 3周年記念コンサート』MUSI
Cエンジン河合晃太インタビュー「ゲ
ームが面白かったからその音楽が好き
になる」

レトロゲームから最近のゲームまで、大好きなゲームタイトルの音楽をつきつめていく演奏団体、MUSICエンジンがアメリカのインディーゲームスタジオOMOCAT制作の名作RPG「OMORI」3周年記念コンサートを開催する。5月にも開催され好評だった本公演の見どころ、そしてゲーム音楽の魅力とは。MUSICエンジン主宰である河合晃太氏に話を伺った。

■起承転結をちゃんと持っている物語は感動を生みやすい
――まず「MUSICエンジン」の立ち上げのお話からお聞き出来ればと思います。立ち上げのきっかけはどういうものだったのでしょうか。
もともとゲーム音楽を演奏するっていう活動自体はやってはいたんですけれども、だんだん知識も溜まってきて、自分でもやってみたいなというタイミングが8年ぐらい前にあったんです。その頃一緒にやっていた室内楽のゲーム音楽団体があったんですけど、その団体での公演の際にあるゲームの監督や総合演出とかをされていた本人が来て下さって。色々お話をさせていただいた時に「もしかしたらこれはできるかも?」という感じで初めて開催したのが『ヴィーナス&ブレイブス~魔女と女神と滅びの予言~』(2003年発売)というゲームの音楽コンサートなんです。
――名作ですよね。もう20年前の作品ですが。
同作の監督・総合演出の川口忠彦さんと共に企画を進めました。その時の団体名は「VENUS & ECHOES」として、川口さんに「VENUS & ECHOES」のビジュアルも描いていただきました。
――凄いですね。
コンサートは大盛況のうちに終わったんですけど、ただその団体名がゲームに絡んでいて、今後別のゲームのコンサートをやる時に、この団体名だと難しいという話になって。
――確かに、凄く『ヴィーナス&ブレイブス』に寄せた団体名ですもんね。
川口さんが、改めて団体名も変えて再出発するのはどうだろう?と言ってくださって。なので団体名を「MUSICエンジン」とし、ロゴも改めて川口さんに描いていただいて再出発となりました。
――「MUSICエンジン」という団体名の由来などはあるのでしょうか?
私自体がPCエンジンの『天外魔境 風雲カブキ伝』(1993年発売)という作品が大好きなんです。『カブキ伝』は音楽を田中公平さんが担当されているんですが、その音楽が大好きなのもあって、PCエンジンから「エンジン」をもらって「MUSICエンジン」としました。
――なるほど。公式サイトも拝見させていただいたんですけれども、取り扱っているゲームが良いチョイスだと思いました。
基本的には私が好きか嫌いかだけの話なので、私がプレイしたものを取り上げるようにしています。クリアしてないものはやらないと。
――過去公演には『エストポリス伝記II 』『ルドラの秘宝』、『幻想水許伝II』と名作が多いです。
世代的に言うと私はスーパーファミコン世代なんです。ファミコンもかなりやったんですけれども、一番根っこにあるのはスーパーファミコン。あの頃の音楽って今聴いても凄いんですよ。
――凄くわかります。では改めて河合さんから見たゲーム音楽の魅力をお聞きしたいと思うんですが。
ゲーム音楽ってジャンルによって聴き方も客層も全然違うと思っているんですが、『ドラクエ』とか『FF』みたいなRPGのストーリーが根幹にあって、それに対して音楽をあてていくっていうのが、私には合ってるのかなって思いますね。
――やはりRPGというジャンルがお好きなんですね。
コンサートをやっていくうえで、起承転結をちゃんと持っている物語は感動を生みやすいと思います。シュミレーション・アクションはじめ、他のジャンルも物語があると思うんですけど、フィールド、バトル、町、ダンジョン、イベント……映像と文字で進みながら音楽を聴いて行くRPGの世界というのは、ドラマや映画と似ていますが、それよりも印象に残ることが多い気がします。
――楽曲の印象という意味ではRPGが一番印象に残りますね。
もしかしたら当時のゲーム音楽は生音じゃなかったから良かったのかもしれないですね。実際、今過去作のリメイクとかやってると、オーケストレーションはかっこいいし、音のバランスも最高なんですけど、意外とクリアした時に曲を覚えてなくて。
――それ、わかる気がします。印象がちょっと当時より薄いというか、悪いという意味ではなく。
凄く綺麗だし、戦闘の場所にもぴったり合っているし、なんていい音楽なんだと思いつつ、あんまり記憶に残らずに終わっているな、っていうのはありますね。私の作品に対する消化の仕方が変わったのか、理由はわからないんですけど。
――そして次の演奏会が『OMORI』(Windows、MacOS版が2020年に発売)というゲームのものになります。ホラーRPGという感じですね、この作品は。ちょっと暗いですよね。音楽もかなり特徴的です。オーケストレーションというよりは、少し8bit的な。
2023年5月に『OMORI』の公演させてもらったんですけど、演奏者にも「なんでこれ選んだの?」ってまず聞かれました。『OMORI』は夢の世界と現実の世界を交互に巡るんですが、自分の過去の過ちや友達との関係性というちょっと複雑なものを取り扱っているので、最初の印象はちょっとコンサートにしづらいなっていうのは確かにありました。
――コンサートにしづらい部分というのはテーマ的にでしょうか。
そこにも関係しますが、音楽的にノイズな音が多いっていうか。戦闘とか煌びやかな曲も多いんですけど、最初にプレイした時はノイズ的な音が印象に多かったんですよね。私は毎回曲を選ぶ時は、ゲームをまずはパッとクリアーして、その後にもう一回プレイしながら、どこでどういうものが流れているのかをメモ書きしながらクリアして、そこで曲順を選ぶっていう作業をしていくんですけど、それをやっていったら「あれ、意外といけるなぁ」って思ったんです。
――2周クリアするんですね! それで印象が変わって部分があると。
はい、聴けば聴くだけ明るい要素が見えてくるっていうのはちょっと面白いところでした。
――今回の『OMORI』は海外パブリッシャーによるゲームです。「MUSICエンジン」で演奏されたゲームには、海外製のゲームもいくつかあります。『Hollow Knight』(日本では2018年発売)、『UNDERTALE』(日本では2017年発売)という海外製のゲームの演奏会と、和製ゲームの演奏会で客層や反応が違うと感じられるところはありますか?
日本の作品で演奏させてもらったタイトルはスーパーファミコンが多いので、年齢層だと40歳前後が多いかなというイメージです。
――そうですね、僕が当時プレイしていたゲームも多いです。
それに比べて『UNDERTALE』などは20歳前後あたりの年齢層が多いです。そういう意味では年齢層の違いはありますね。
――なるほど、感想なども年齢層で変わってくるんでしょうか。
そうですね、私は物語に沿った曲順を守れる範囲で守りながら選曲など行っていますが、「曲順の解釈がおかしいと思います」と言う感想をいただく時もあります。「私はこう思う」と。
――そういうこだわりがユーザの方から出てくることもあるんですね。
そうですね。でも本当に好きだからこそ出てくる言葉なので、大切にアンケートを読んでいます。
■ただ音を並べるだけじゃない演奏を目指したい
――プレイヤーに思い入れがあれば、そういうのも出てきそうですよね。そして今回の『OMORI』のコンサートではそんな多数ある楽曲を何曲ぐらい演奏されるのでしょう。
今回の『OMORI』で演奏するのは70曲かな。1タイトルで2時間の演奏会をする場合、40から60曲。曲によりますが70曲いくと2時間超えちゃうぐらい。1曲が大体2~4分。本当に長いと10分以上とかの曲もありますけど、基本は2時間の中で納めるように組み立てています。
――改めて今回のコンサートとしての見所もお聞きできればと思います。
これはゲームをやってないと風景がイメージしづらいと思うんですけど、物語で描かれている現実と夢の世界の音楽の違いというのは、なるべく意識しながら演奏できればいいなと思っています。お話した通り他作品に比べて、オーケストラにしづらいと思ったのは事実で、大編成で出来るような曲がたくさんあるわけではないのですが、大きな曲は大きな編成にして、静かな曲は編成を小さくしていけばいいのかなと。
――編成を楽曲に合わせて構成していく感じですね。
メインがピアノとヴァイオリンという物語にも出てくる大事な要素なので、そこが生きるような状態にできるといいな。あとは5月に一度コンサートをさせていただいた遊びの部分も生かせれたらとは思っています。
5月公演より
――今回の編成は何人くらいなんでしょうか?
90名くらいです。
――そんなに出られるんですね!
そうですね。5月の時が約40数名だったんですけど、弦楽器が増えるので『UNDERTALE』の時の編成と同じぐらいです。課題としてあるのがドラムですね。ドラムが入るとどうしても全体音量をマイクで増強するか、数の暴力で戦うしかないと思っているので。
――ドラムがどうしても生音でも大きいから。
はい、キックドラム一発で空間を埋められちゃうので、ヴァイオリンとかの美味しい音域帯を取られちゃうんですよね。もちろんかっこいい曲ではドラムはセーブして欲しくないので、弦楽器がどう頑張るかっていったら、数を揃えてみんなで頑張ろうぜっていう感じになるんです(笑)。そのうちマイクを使ったコンサートもやってみたいとは思いつつ、今のところはコンサートホールであるうちはなるべく全部生音で頑張りたいと思っているので。もちろん席によって聞こえ方が変わってしまうので、申し訳ないなと思うところもあるんですけど。
――そこはこだわりたいと。
そうですね!
――『OMORI』というゲームが、精神性の表現の高いゲームだと思っているんです。自分の心の闇だったり、トラウマを夢と現実の中で巡っていくって、非常にミニマムな世界観のゲームじゃないですか。音楽もそれを表現しているなと思っているんですが、それをオーケストレーションの生音で表現するのは、あの世界観の拡大拡張としても凄い面白いなと思いました。
どうしても現実的に難しい曲も多いんですけどね。全部やろうと思うとシンセサイザーでやるしかない部分が出てくる。
――そうですよね。改めて面白い作品をチョイスされているなと思います。
『OMORI』はコンサートで一緒にグッズを販売してくれている、ファンゲーマーさんが私に勧めてきてくれたんです。『Hollow Knight』も『UNDERTALE』も自分からプレイしたんですけど、これは知り合いに教えられてやったっていう形で。そういう人に勧めたくなるというか、なんとなくなんですけど『OMORI』も『幻想水許伝』も似たようなパターンでファン活動が盛んな印象があって。
――確かにそうかもしれないですね。
特にファンアートの活動が多い作品は後世に残りやすいというイメージがありますね。
――改めて今回のコンサート、チケット取ってくれているファンの方、そして今回の追加公演に興味を持っている方々に、一言メッセージいただけたら。
今回は5月の再演に近い状態になりますが、編成は全然違いますし音はより洗練された状態で頑張りたいとは思っています。『OMORI』が好きな人にも来て欲しいですし、あとは演奏者側としては『OMORI』を知らない人たちでも楽しんでもらえるような元気が出る演奏というのをしたいと思っています。『OMORI』の内容が暗いので、ただ楽しくって言うわけにはいかないですけど(笑)。
でも最後終わった時に良かった!と思ってもらえるような、ただ音を並べるだけじゃない演奏は目指したいと思っているので、ぜひ来てもらえたらと思います。昼だけ物販の制限があるので、その辺を注意しつつ来て下さると嬉しいですね。
取材・文:加東岳史

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