MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』ゲ
ストはランジャタイ・伊藤幸司ーーク
ラスの端っこからど真ん中に挑戦して
きた、2人の人生と表現を辿る

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』、第三十九回目のゲストはランジャタイの伊藤幸司。この2組といえば、MOROHA vs 芸人ツアー 2022『無敵のダブルスツアー』で2マンをしたり、テレビ朝日の『ランジャタイのがんばれ地上波!』で共演したりと、親交が深い。MOROHAは音楽の、ランジャタイはお笑いのど真ん中で勝負をしているが、学生時代の2人はクラスの端っこだったという。そのマインドがあるから、今の表現のガソリンになっている、とも話す。どんな経験が今に生きているのか? 今回の対談は2人の思い出の音楽とともに、人生の道のりを辿っていく。
MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
どんな状況でも自分が幸せだと思ったら幸せでしょ
アフロ:話しながら音楽をかけても大丈夫?
伊藤幸司(以下、伊藤):もちろん!
アフロ:実は、昨晩セットリストを作りまして。どういうセットリストかと言うと、『激ヤバ』(※伊藤の自伝的エッセイ)に登場するバンドと、俺の思い出を掛け算した曲たちになります。
伊藤:ハハハ、すごくうれしい。
アフロ:1曲目は「ラップ・グラップラー餓鬼」。『グラップラー刃牙』の話が出てきたもんね? 漫画めっちゃ好きでしょ?
伊藤:うん、いっぱい読んでるよ。一番好きな漫画は何?
アフロ:めっちゃムズイね! 今日の1位でもいい? 明日には変わってるかもしれないから。
伊藤:日々変わるからね、人間は。
アフロ:とはいえ、うわー……なんだろう!?
伊藤:俺は『めぞん一刻』が日々変わる1位に入る。絶対に外せないので言うと、『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』からは人生を教わったね。俺はこの漫画の哲学に従って生きているし、勇気とか愛情とか、意識せずとも深く刻まれてると思う。ポップというキャラがいるんだけど、すごく影響を受けてるな。最初はすごく臆病者なんだけど、回を重ねるごとに……。
アフロ:「ポップだったらどうするんだろう?」みたいな。
伊藤:そうそう! 
アフロ:『めぞん一刻』もそうだけど、いまいち冴えない奴がちょっとずつ成長するのが好き?
伊藤:好き好き。重ねちゃうね、自分と。
アフロ:『激ヤバ』を読んでいても感じたけど、やっぱりクラスの端っことか?
伊藤:もはや端っこの端っこだよ。どんなタイプだったの?
アフロ:俺は端っこじゃなくて、真ん中の端っこだった。イケてるグループにも真ん中がいるじゃん。そこと一緒にいたいからお調子者キャラでしがみついて、自分では笑わせているつもりなんだけど、ただ笑われてるだけ、みたいな。当時、俺も『ダイの大冒険』と出会いたかったな。
伊藤:子供の頃に読んでいたらヤバかったと思う。
アフロ:タイミングってあるよね。今の自分が読むよりも、もうちょっと前に読んでおけばよかった、みたいな。今、筋肉少女帯の曲がかかっているけど、大槻ケンヂさんの書いた『グミ・チョコレート・パイン』がそうだった。言わば、アレも端っこから真ん中へ挑戦する物語じゃん。20代の真ん中ぐらいで初めて手に取ったんだよね。もっと早ければと思う。「タイミングを逃してしまったな」で、もう触れられない作品ってあるような気がして。『ダイの大冒険』はそれだったんじゃないかなと、話を聞きながら思った。
伊藤:「今、出会ったからいい」もあるかもしれないよ。その時に必要だから出会う何か。俺は運命論を信じていて、失敗も成功も先の人生で必要だからやってくるし、全部に意味があるんじゃないかと思う。もしかしたら(アフロは)今が『ダイの大冒険』に出会うタイミングかもしれない。俺は未だにボロボロ泣くよ、何回読んでも同じところで泣くの。
アフロ:それは端っこから真ん中へ挑戦をしてきた記憶が蘇るってこと? 記憶に残っているのは何?
伊藤:中学生の頃、145cmの80kgで太っていたの。しかも体をあんまり洗っていなくてさ。親父がすごいハゲてて「俺がハゲた理由が分かった! 風呂に入りすぎたからだ」「お前にはハゲてほしくないから、あんまり入らなくていい」と。そういう教えを受けて育ったから、あんまり入らなかった。そしたら臭いデブができあがって、しかも誰とも喋らない。でも、学校にどうしようもなく好きな子ができてね。中学の移動教室の時だけ、好きな席に座れるんだけど、何を思ったか、その子の席に座ってみようと考えたの。それで授業が終わって、どんな感じかなと思って遠くから見ていたら、ちょっとした騒ぎになっていて。その好きな子が泣いてて。周りに女子たちがブワーと集まってきて、その子の肩を叩いて「ほんと最悪だよね」「わかるよ」って。
アフロ:それは胸が締め付けられるね。
伊藤:で、その子が雑巾と水の入ったバケツを持ってきて。雑巾を絞って椅子を拭きだした時、それを見て涙がバーって自然と溢れた。そこまではないでしょ? 
アフロ:伊藤ちゃんと比べたら、まだキャッチーだね。裏で変なあだ名をつけられてたぐらいだから、全然弱い。
伊藤:どんなあだ名?
アフロ:じろじろ見るから、ジロミーって言われてた。プールの授業の時、クロールして息継ぎするタイミングで横に女の子が泳いでいると、思春期だからガッと見ちゃうわけ。泳いでる最中の息継ぎでカモフラージュしてると思ったら、しっかり周りにバレていて。それでジロミーってあだ名がついた。その客観的な出来事の大きさと主観で感じる大きさって、必ずしも比例するわけではないじゃん。人によっては箸が転ぶだけで凹む人もいる。それで言うと、俺はジロミーって呼ばれていたことが衝撃的だったの。しかも、友達との喧嘩中に「お前はこうでこうだろ!」と罵ったら、向こうが「うるせえ! ジロミー! お前はジロミーだろ?」と言われて。「え、何なに!?」ってパニックになってさ。なんだったら俺の方が言い負かせそうと思ったのに、周りがクスクスし始めて「お前はジロミーって呼ばれてるんだよ!」と言われて。
伊藤:自分が知らないから嫌だよね。
アフロ:なんで、こんな悲しい会になってるんだろ? 
伊藤:楽しいけどね、これも。
アフロ:そう、楽しいね! 楽しいって言えるのは良かったよね。それはこの職業を選んで得した部分かもしれない。
伊藤:そうね、辛いことも全部楽しめるから。
アフロ:逆に、なんでもっと惨めだけど香ばしい思い出を積極的に作ってこなかったんだろう、とすら思う時がある。
伊藤:あるある。
アフロ:そんな職業は、ミュージシャンとお笑い芸人の他にないような気がするよね。
伊藤:全部歌にしてね。それはすごいことだよね。
アフロ:今が幸せだと、全部を肯定できるようになるのかな?
伊藤:うーん、そうじゃない?
アフロ:ちょっと美談すぎて勘繰っちゃうよね。
伊藤:自分の脳内にしかないもんね、幸せって。多分、どんな状況でも自分が幸せと思ったら幸せでしょ。
みんなやっぱあるよね、自分が天才じゃないと気づく瞬間が
アフロ:幸せを感じる瞬間は? 
伊藤:やっぱり漫才は楽しいね。やってる最中は。
アフロ:その実感はめちゃめちゃ大事だと思う。『激ヤバ』を読むとさ「とにかく売れるぞ」とか「世に出るぞ」って思いもあったじゃん。それって目標だよね。そこに意識がいきすぎると、やってる最中の幸せを見落としがちになる。漫才が楽しいとか、俺らで言うとライブが楽しいとかさ。目標のためにやり過ぎちゃうと、本来楽しくてやっていたことが手段になってしまう。最近それでは良くないと思った。今、音楽をやっている最中の、この瞬間の楽しさや喜びみたいなのを、もっと全身で感じようと意識した途端に、より拍車がかかり「俺、今ライブがとっても楽しい」と思えてる。目標に縛られて、漫才が手段になってしまいそうになった時期はあった?
伊藤:普段は10分のネタもやるし、あまり時間を気にせずやってるから、『M-1グランプリ』で4分ネタに調整する時は思ったかな。
アフロ:大好きなボケやツッコミを削るのは、内臓を切り落としていくような感覚だよね。
伊藤:そうそう。もっと自由にやりたいと思いつつ、決勝に行った時は嬉しかったけどね。
アフロ:その喜びとやってる最中の喜びは、別物だって感覚ある?
伊藤:あんまりないね。
アフロ:地続きな感じか。最近、俺は全く別の出来事として考えた方が健康的なんじゃないか、と思っていて。
伊藤:今めっちゃ成功してるわけじゃん? その時に感覚の違いが出てくるの?
アフロ:うーん、成功してるのかな? ランジャタイは?
伊藤:俺らはしてないんじゃない? 
アフロ:多分、一緒の感覚。『M-1』は俺の中で『NHK紅白歌合戦』なんだよ。俺からしたら、ランジャタイって紅白歌手。『紅白』に出た歌手って、側から見たら成功してるって思うけど、本人たちの感覚は違うでしょ? 俺らは『紅白』に出てないけど、武道館ライブをやっていて、それも側から見たら成功に見えるのかもしれない。
伊藤:チキンラーメンのCMも大成功でしょ。子供の頃から食べてる商品のCMはすごくない? ど真ん中っぽいよ。
アフロ:でも、この実感の伴わない感じは何なんだろう。
伊藤:成功したと思ってないんだ。
アフロ:思ってないね。伊藤ちゃんの思う成功って何?
伊藤:お笑いを始める前に考えていたのは、いわゆる天下人。中でもダウンタウンさんは衝撃的だった。偉そうさ加減とか「全て俺たちのもの」みたいなさ。 
アフロ:「松本(人志)さんの発想と寸分の狂いなく同じだから」と言ってたらしいね。俺は松本人志と同じ発想だって。
伊藤:そうそう。鳥取の怪童だと思って出てきたよ。
アフロ:ハハハ、その話大好き。だけど途中で「どうやら違うぞ」と気づくわけでしょ。俺も同じだった。みんなやっぱあるよね、自分が天才じゃないと気づく瞬間が。伊藤ちゃんは凹んだ?
伊藤:凹んだような凹んでないような……でも凹んだかな。
アフロ:どうするの? 思い描いていた生き方と違うわけじゃん。
伊藤:とはいえ、テレビを切り取った一部分しか俺は観てないし、実際には腰も低いだろうし、現にお会いしたけど優しかった。とは言いつつ、あの頃のダウンタウンさんは違ったと思うんだよね。
アフロ:音楽の世界でも「なんであんなに偉そうにして通用するんだろ?」って人がいるんだけどさ、そういう才能だよね。「俺がルールだ」って押し通せる強さ。あの感覚ってどう生きてきたら備わるんだろうね。
伊藤:絶対的な才能と自信、俺が一番だって信じ続けて周りが全部認めて……いや、認められなくてもやっていたんだろうね。
いろんなカッコよさを知れたことは、自分にとって救いになる
アフロ:超羨ましくない? 未だに俺はそうなれないと思って、悶える時があるよ。
伊藤:うん、わかるよ。わ、いいタイミングで銀杏BOYZが流れてる。
アフロ:峯田(和伸)さんは端っこから真ん中への挑戦の人じゃない? ダウンタウン的なカリスマじゃないよね。どっちかって言うと、ダウンタウンのカッコ良さってZAZEN BOYSのカッコ良さだよね。自分がそうなれないと思った時、いろんなカッコ良さを知っておくことが、セーフティーネットになるのかも。最初はさ、テレビという狭い世界しか見えないから、田舎にいるとバンドとかも限られた人しか知らずに、1番大きなカリスマが直に思い浮かぶ。でも、年齢を重ねて上京して、いろんな同業者の方や先輩と会って「こういうカッコ良さもあるのか」と知った時、ちょっとずつ自分がそれになれないことを思い知った時の、覚悟の準備ができ始めるかもしれないね。
伊藤:うんうん。でも、なれないと思ってるの? 
アフロ:なんかさ、売れてる人って怖くない?
伊藤:怖いよ。
アフロ:今は夏フェスのシーズンでさ。売れてるバンドマンが楽屋裏に来ると怖いね。
伊藤:「売れてる人だ」という感覚もあるしね。
アフロ:こっちが構えているのもあるかもしれないけど、あの怖さみたいなのが自分の中に入ってくるのは、MOROHAの活動としても良くないような気がする。だって、俺たちはイケてるグループにどうにかしがみついている“端っこからの挑戦”だったから。真ん中をズラした瞬間にスタート地点からブレちゃうんじゃないかな、と思う。真ん中になれなかったことが、はからずとも良かったんじゃないかって。周りがMOROHAを良いように言い始めてくれたら嬉しいけど、少なくとも自覚を持ったら俺の音楽は成立しないだろうなって。そういう絶対的な存在になれないって思いの反面、余計にそう感じる。
伊藤:音楽の絶対的は存在は誰なの?
アフロ:(忌野)清志郎さん、ザ・ブルーハーツマキシマム ザ ホルモンとか、結構多岐にわたるかもね。
伊藤:永ちゃん(矢沢永吉)とか?
アフロ:そうそう! 芸人さんの絶対的な存在は、ダウンタウンさんのほかに誰がいるの?
伊藤:(明石家)さんまさん、(ビート)たけしさん。タモリさん……はまたちょっと違うか。
アフロ:タモリさんは自ら絶対的を拒んだ感じがあるよね。あと、俺は爆笑問題の太田(光)さんがめっちゃ好きなんだけど。
伊藤:俺も大好き。
アフロ:あの人さ、絶対的な権威になることを抗ってるじゃない。
伊藤:否定でもないけど「そんなんじゃないだろ」みたいなね。「所詮、芸人っていうのは」をずっと言ってる。
アフロ:自分のことを一生懸命下げようとするでしょ。それは本当に素敵だなと思う。そのカッコよさに昔は気づけていなかっただろうな。いろんなカッコよさを知れたことは、自分にとって救いになるなって思う。
誰も笑っていなくても漫才中は2人だけの世界だから、俺はいつも楽しかった
伊藤:10年後、20年後はどうなっていたい?
アフロ:んー、どうだろうね。
伊藤:感覚とか変わるのかな? そういえば、永ちゃんがカッコいいことを言ってたよ。インタビューで「タワマンとかいい暮らし全部を手に入れて、今どういう気持ちですか?」と聞かれた時に「高いところで1番うまい飯食ってる時の幸せと、六畳一間に家族みんなで貧乏暮らしで、朝起きて味噌汁が出てきて、その味噌汁を飲んだ時の幸せって多分一緒だと思うんだよね」みたいなことを言ってて。それ、すごくいいなって。感じる幸せの大きさって変わらないんだな、というか。
アフロ:受けとる側ってことだよね。結局、幸せは自分の中にあるか……それは確認したいかも。例えば『M-1』の舞台で漫才をする達成感としての喜びと、漫才をやっている喜びは地続きって言ってたでしょ? 俺は別にした方が健康的じゃないかって思うところが、永ちゃんのそれに近い気がしてて。『紅白』で歌って大勢の人に伝わる喜びと、路上で歌って通りすがりの人に伝わる喜びは一緒かどうか?を確かめたい。で、矢沢さんと同じ言葉を言えたら、そういう大きな分母にとらわれずに生きていくことができるんじゃないか、と思う。大きいところでやったから楽しいんだ、嬉しいんだっていうのを一緒くたにしちゃうと、それができなくなっちゃうじゃない? だから、全く別のものだと思って「今日演奏すること自体が最高に楽しいんだ」って。伝わる喜びみたいなものは、どっちに付随するんだろう? 分母に付随するのか、自分のやりがいに付随するのか。おそらく後者だと思っているんだけど、それをしっかり確認したい。伊藤ちゃんはどう? 『M-1』の舞台で漫才するのと、新宿のハイジアV-1で漫才するのと、もちろん視線の数は『M-1』の方が大きいわけじゃない? でも、漫才する喜びは同じだけあった?
伊藤:うん、そうだね。相方は違うと思うけど、俺は誰もいなくたっていいぐらいの感じかな。漫才としてはね。すべりまくってる時も、めっちゃ楽しくてさ。誰も笑ってなくても睨まれていても、漫才中は2人だけの世界だから俺はいつも楽しかった。でも、これは相方と全く違う考えだと思う。
アフロ: 国ちゃん(国崎和也)は違う?
伊藤:「絶対違う」って言うと思うよ。
アフロ:俺、めっちゃ好きなのが、ランジャタイの2人が自分たちしかお客さんがいないネタ見せライブを家で開催してて、その時も超楽しかったってことだよね。
伊藤:うんうん。今は「2人で月へ行って漫才をしたい」って言ってるんだ。それが終わったら火星に行って、もっと銀河系に出て漫才をやりたい。誰も見てなくていいから。
アフロ:じゃあ、国ちゃんの顔を見てるだけで楽しいんだ。国ちゃんが演者であり、お客さんでもあって。
伊藤:そうそう。
アフロ:わからんでもないな。それって2人組の強みだね。最悪だだすべってても、1人のお客だけはそれを最高にいいと思ってくれてる状態って超心強いね。それってすべってないよね。
伊藤:すべってないよ、楽しいよ。
アフロ:そっか、だからランジャタイはすべったことないんだ。
伊藤:ないかもしれない。
アフロ:今のは太字だね。
賞レースで芸人さんが他の芸人のことを応援してるのって、すげえ不自然だと思った
アフロ:元々は小さな部屋から始まったじゃん。でもデカいところでやるようになって、聴いてくれる人が増えるってことは、大きい部屋でやるってことだよね。それによって曲の内容もデカくなっちゃうのが怖かった。ネタがでかくなっちゃう怖さってある? この感覚わかる?
伊藤:うんうん。
アフロ:2人だけで笑えていたネタが、みんなが笑ってくれるようになって。そうすると嬉しくなってさ、もっとみんなに喜んでもらいたいから、そっちに合わせにいっちゃう感覚ってある?
伊藤:あんまりないかも。 やってること変わってないかもしれない。
アフロ:それは最強だね。俺たちは変わってるかも。MOROHAを聴いてくれる人が今より少なかった頃、俺たちしか分からない言葉を使っていた時もあった。相方のこととか、クラブ用語とか「一般の方は知らないよね」みたいな言葉を躊躇なく使っていた。だけど、聴いてくれる人がどんどん増えていって、置いてきぼりにしたくないからこそ、言葉選びを改めた。
伊藤:テレビでの漫才なら、そういうことはあるね。この前も「金玉がダメ」って言われて“アソコ”にしたよ。
アフロ:それに対して、ふざけんじゃねえ!とかはないの?
伊藤:全然ない。それはそれで「あ、いいですよ」って。そういうこだわりはないからね。
アフロ:すごいと思うのはさ、そっちのミラクルもあるよね。金玉をアソコに変えなきゃいけないってなった時に、向こうからの要望によって、よりブラッシュアップされこともあるじゃん。
伊藤:あるある、分かるよ。
アフロ:それってすごいよね。ちょっと話が変わりますけど、浜口浜村さんの動画を掘り起こしたんだけど「牛」がめっちゃすごいね。あのネタすごいね! いい!
伊藤:いいよね!
アフロ:アレは震える。でも浜口浜村は解散しちゃったんだよね。
伊藤:解散しちゃったね。
アフロ:こんなに素敵なものが世に知られていない悔しさって感じる?
伊藤:あのままやっていたら売れたと思うんだけどね。折れるのが早すぎたというか、続けていたら、今『THE SECOND』とかで同じように出てるはず。当時その辺にいた浜村さん以外の全員売れてるから。ウエストランドの井口(浩之)くんとか「みんな友達ばっかりだけど、浜村さんだけいないっすね」みたいな。モグライダーとか三四郎とかみんな同じライブでやっていたけど、折れるのが早すぎたと思うよ。
アフロ:それって力強い言葉だね。「折れるのが早すぎた」は「折れなければ面白い人は必ず売れる」という確信のある言葉でしょ。その感覚ってやっぱり、音楽とかなり違う気がする。音楽はマジでいいものでも、売れないまま終わることが多い。
伊藤:それはなんで?
アフロ:ブランディングとか、いろんなことに左右され過ぎる。それはカッコつけることの脆さなんだよね。お笑いの方がもっと剥き出しというかさ、笑うって反射的じゃない? でもカッコいいと感じるのは、もっと理論的にいろんな情報をキャッチするわけで。音楽は基本は「カッコいい」に評価されるものだから、ビジネス的な意味で言うと、そういうものからいろんな情報とセットで入ってくる。音楽の場合、セットとなるものが揃わないと「売れる」にならない世界な気がするけど、お笑いはもっと一個の要素でいけるのかなって。
伊藤:お笑いは、なんで面白い人が売れるんだろうね?
アフロ:腕っぷしだよね。
伊藤:ネコニスズのヤマゲンとか、今ちょっとキテるしね。相方の舘野さん(舘野忠臣)もめっちゃ面白い人だから。
アフロ:この前、下北をぷらぷら歩いていたら、ネタ合わせをしてる2人がいて。よく見たらネコニスズで。「ヤマゲンさん!」と声をかけたら「これからネタライブやねん」と言うから「俺、観に行くよ」ってチケットを買ってさ。下北沢の劇場で観たんだけど、めっちゃよかったね。
伊藤:ハハハ。噂で聞くからね「ネコニスズがすごいのができた」って。いよいよ行くんじゃないかみたいな。
アフロ:だからだ! 伊藤ちゃん、謎が解けた!
伊藤:なに!?
アフロ:なんで、芸人さんが芸人さんのことを素直に応援できるのかってこと。「面白い奴は必ず売れる」という世界だと、確信を持って言えるからだ。自分も面白いからいつか必ず売れるっていう確信があるから、面白い奴が売れていくのを見た時に、その確信が強くなる。だから「頑張れ」になるんだ。音楽はタイミングとか、いろんな要素で自分が売れる・売れないが左右される世界な気がする。そういうのを加味すると、素直に応援できないんだ。例えば、俺らが取れなかったタイアップに対して「ずるい!」って思っちゃう。その点、お笑いはすごくピュアなんだよ。
伊藤:めちゃくちゃすごいのに、売れないまま辞めちゃった人もいる?
アフロ:全然いるよ。目標に近づかないと、どうしてもモチベーションが保てなくなっちゃう。そうすると人が離れていくし、心も疲弊して実生活にも影響が出て、続けられなくなる。それに音楽は、スタジオ代とかライブにかかる移動費とか、やっぱりコスト的にかかる部分もあるから、お笑いをやるよりも生活に対して影響が強いのかも。世間に知られるという意味でのブレイクするタイミングって、音楽の世界で言ったら30代前半ぐらいまでに出さないとキツいと思うんだよでも、クリエイティブだけのことで言えば、物を作る絶好のタイミングがいつ来るかわかんない。だから、20代や30代前半のぐらいアーティストだけで音楽番組が回っているこの状態って、本当はおかしいんだよね。なんか、今日は色々と確信するな。俺はずっと理解ができなくて不満だったの。賞レースで芸人さんが他の芸人のことを応援してるのって、すげえ不自然だと思った。「その“頑張れ”は本当か!?」と疑っていたけど、折れるのが早すぎたのところから全部が繋がった。うわ、食らうなこれ。ミュージシャンみんなくらう気がする。
神聖かまってちゃんの出現は事件だった
伊藤:ちょっと昔のお笑い界は違ったと思う。昔のネタ番組とか観ていたら、誰かがネタやっていて、周り出ている芸人が映ったら全く笑わってない場面もあるしね。時代の移ろいも影響して、今がそうなった感じ。
アフロ:YouTubeの力もあって、売れる芸人さんが増えたじゃん。昔は15組ぐらいしか出てなかったけど、今テレビとかYouTubeとかメディア全般に100組ぐらい出てるよね。ゆえに「面白いから売れる」が、本当にその通りになった。どう考えても15組しか出れない枠だったら面白いから売れるって、ちょっと信じづらいもんね。そうか、いい時代にやってるなって感覚あるかも。
伊藤:いい時代なのかな? いい時代とか悪い時代とか、あんまりよくわかんない。
アフロ:今の話で言うと、俺はいい時代な気がする。
伊藤:音楽にとってはいい時代なの?
アフロ:多分、いい時代かな。テレビに出なくても、ライブをしなくても音楽で食っていけるし、自分でMVや音源をYouTube、サブスク、TikTokにあげてバズってそれで食っていくという意味では、売れ方が多種多様になってきたから、いい時代かもしれないね。でも、俺は個人的にテレビに憧れて生きてきた世代だから、テレビの影響力が下がってるからと言って、「YouTubeをやった方がいい」と言われてもね。そもそも憧れたことがないからさ。ビジネス的にはYouTubeを積極的にやった方がいいのは分かってるけど、憧れはテレビにあるから、テレビの仕事もやりたい。でもそこに影響力がないって言われてる、というところでは悲しい時代だなと思う。
伊藤:CDはどうなの?
アフロ:全然売れないよ。みんなCDプレイヤーもコンポも持ってないもん。
伊藤:その点に対してはどうなの? ずっとCDで聴いていたでしょ?
アフロ:CDには憧れてなかったな。CDは買う?
伊藤:今は全く買わないね。サブスクですぐに聴けるし、ポンポン変えれるし、いろんな人の。CDを入れ替える作業とかもないから。
アフロ:めっちゃ楽だよね。最近の音楽で良かったのはある?
伊藤:最近で? ずっと聴いてるのは、(神聖)かまってちゃんとか、銀杏もずっと聴いてる。新しいのはそんなに知らないかも。
アフロ:かまってちゃんの出てき方って、本当に一時代の始まりって感じがしたよね。
伊藤:かまってちゃんは事件だったよ。最初に聴いたのは、相方の家に泊まって寝る前に「これいいよ」と言われた時。音楽で一番衝撃を受けたと思う。「ロックンロールは鳴りやまない」を聴いて布団の中で動けなかった。そこから生配信をやっては必ず見る、みたいな感じでずっと追ってるね。前にさ「全国のNHKを観ているバンドマン聞いてるかい? 今こそが俺の時代である」って、テレビの生放送で言ったの覚えてる? ああいうのはどう思う? 俺は宣戦布告みたいで「カッコいい!」と思った。
アフロ:その時に自分たちがテレビに出ていなかったから、あー売れてんだなって。今、見たら悔しいと思うかも。あの時は悔しいと思う表現すら持てなかったな。「俺の時代である」と言えることに憧れる。ということは俺も言った方がいいな。
伊藤:うん、「俺の時代だ」って言ってほしい。わかりやすい“革命の合図”だもん。言わなくていいことじゃん、そんなこと。でも革命を起こしたい人は言うんだろうね。
アフロ:言おうかな!って決めて言うのは違くない?
伊藤:ふふ、そうだね。
アフロ:でも、決めてしか言えない奴のドキュメンタリーもあるね。
伊藤:決めて言うカッコよさもある。それも絶対あるから。
アフロ:そっか。じゃあ俺、決めて言うよ。
伊藤:決めて言って、大失敗しても面白いしカッコいいから。
アフロ:俺はね、ランジャタイこそ「俺の時代だ」を体現するような漫才をしてるように見える。『M-1』であの漫才をやるのは、明らかに異端じゃない?
伊藤:わかんないけど、あるかもしれんね。
アフロ:気持ちよくてしょうがないよね。
伊藤:うん、楽しいよ。
アフロ:「俺の時代だ」漫才だもんね。
伊藤:俺も言いたい派だもん。時代ってなんかいいよね。音楽で、かまってちゃん以降に「俺の時代だ」と言った人はいるかな?
アフロ:言葉じゃないけど、やっぱりKingGnuは「俺の時代だ」感を見せてるよね。
伊藤ちゃんと国ちゃんの言葉が、俺の中でお守りになっている
アフロ:国ちゃんと2人で飲みに行くこともある?
伊藤:2人はないかも。別に気まずさとかはないから、昼に空いた時間とかご飯に行ったりはするよ。何より、俺は1番仲のいい友達が相方かもしれない。そもそも友達がいないから。
アフロ:でも、『激ヤバ』の中でたくさん登場してたよ。
伊藤:それは本当の仲のいい人だけ。
アフロ:高円寺に住んでいたんだよね?
伊藤:うん。駅から4分くらいのCoCo壱のところに、2年前まで6年間住んでいたね。
アフロ:ということは8年前ぐらいか。俺も住んでたな、8年前。南口のSEIYUの近く。
伊藤:めっちゃ近い! 
アフロ:当時、すれ違っていたかもね。南口を出たところにさ、セブイレブンがあって。そこで働いてた。
伊藤:えー! そうなの。
アフロ:ほぼクビみたいな辞め方でキツかったな。セブンイレブンの横にさ、トリアノンってあったじゃん。その上に漫画喫茶があってそこでも働いてた。今も戻りたいと思う?
伊藤:戻りたいけど遠いから。最終的にはどういうところに住みたい? 
アフロ:タワマンに住んでみたい。
伊藤:本当に? 高ければ高いほどいいの?
アフロ:それを知ってみたいんだよね。タワマンに住んで「あ、こんなもんか」と思うかどうか。どこに住みたい?
伊藤:木造でいいから、一軒家に住みたいかな。
アフロ:でかい家に1人で住むの?
伊藤:1人で住む。いずれは結婚もしてみたいけどね。
アフロ:彼女はいない?
伊藤:ずっといない。
アフロ:ベタな質問だけど、世に出たら出会いのチャンスは増えるじゃん?
伊藤:うーん、そういう場に行けばあるんだろうけど、全然ないね。
アフロ:行くと帰りたいってなるのが目に見えてるから行かない。
伊藤:そうそう。
アフロ:最後の彼女は?
伊藤:3、4年前とかだけど、すぐ振られちゃうから。
アフロ:どんな人が好きとかあるの?
伊藤:『めぞん一刻』の音無響子さんは、見た目も性格も全部が理想かも。理想はある?
アフロ:機嫌が良い人かな。女性が突然機嫌悪くなるのが、俺は1番怖いかも。付き合った時、どうやって喧嘩した?
伊藤:喧嘩しないね。そこまで心開いてないのかも、毎回。
アフロ:国ちゃんと喧嘩する?
伊藤:ほぼしない。
アフロ:怒ることもない?
伊藤:声を荒らげたりとかはないね。静かに怒る感じ。
アフロ:最近、怒りを覚えたのはいつ?
伊藤:えー、ないかもな。怒りの感情が自分の中で、抜け落ちてるっていう感じはあるかな。
アフロ:「金玉のワードが使えない」と言われた時も?
伊藤:全然何もない。それも面白いというか、なんか全部が面白く感じる。言えないことも、変えられていることも面白くなっちゃう。
アフロ:それはすごい強みだね。国ちゃんも言うんだけど「すべってるってめっちゃ面白い」って言うよね。
伊藤:面白いよ、すべってるって。
アフロ:それってさ、お守りみたいな言葉だね
伊藤:音楽ですべるとかってあるの?
アフロ:あるよ。俺の大好きなハンバート ハンバートの(佐藤)良成さんが言った言葉で、そこに必要のない音を鳴らした瞬間すべってるんだって。その感覚って、めっちゃわかる。今、この音は誰のとこにも入ってってないなという。その瞬間、この時間が早く終わらないかなと思ったりするんだよ。人生で4、5回しかないけど、明確にトラウマとして残ってる。それを面白いって思えたらいいな。
伊藤:『M-1』のいつかの準々決勝でとんでもないぐらいすべったんだけど、今思い返したらめっちゃ面白いもんね、そのすべってる感じも。その映像を観ると、ネタが進んでいくごとにすごい気持ちが折れて、俺の首がどんどんめり込んでいくの。
アフロ:やってる最中でそうなってるってことはさ、「やばいやばい」と思ってるわけじゃん。
伊藤:思ってるよ。「『M-1』落ちたなぁ」と思って、落ちるのは嫌じゃん。
アフロ:でも自分で笑ってる部分もあるんだ。
伊藤:あるある。
アフロ:不思議だね。それなのにラストイヤーが終わってさ、悔しくて泣いたりしてるわけでしょ?
伊藤:泣いたよ、めちゃくちゃ泣いたよ。
アフロ:でも、その瞬間も面白いなと思って見てる自分がいる。
伊藤:ま、そうだね。
アフロ:客観性を持って、自分で自分のこと面白がってるっていう強みか。主観のみになる時はないの? 客観性が入ってこないで、ただ悲しいっていうのは。
伊藤:それも全然あるけど、相方がすべってるとかも面白いしね。全く笑ってない人とか目に入るじゃん。ジーッと真顔で見てる人がいたら面白いよね。「全然笑ってないじゃん!」みたいな。「相方がこんなに必死でやってるのに、なんで笑わないんだろう?」って。このまま笑わないでくれ、とも思う。
アフロ:その感覚って達観とも違うよな。他の芸人さんと共有できたことある? すべってるときにその気持ち。
伊藤:あまりないかもしれない。
アフロ:違うかもしれないけど、国ちゃんと伊藤ちゃんから「すべってるのとかめっちゃ面白いじゃん。それはそれでいいじゃん!」って何度か言われていて。その“すべってる自分が面白い”って言葉をライブに行く前のお守りにしてるの。それを思ってから、逆にライブが安定するようになって。
伊藤:それは良いことだね!
アフロ:本当にダメなライブってすべってすらいないんだよね。すべるのは進もうとした足があってこそ、すべるわけじゃない? ダメな時は足が進んですらいなくて止まってるというか。「どうにかしよう、どうにかしよう!」としてるうちは、常に面白いって言われてるような感じ。その考え方を俺はお守りとして受け取ってんのね。
伊藤:うん、絶対にそう。
アフロ:そして、最後の曲が終わりました。「僕のレテパシーズ」でございました。このリストに入れた(小山田)壮平さんの「ゆうちゃん」ってさ、壮平さんの昔の友達のことを歌ってるのね。俺ね、これが国ちゃんと伊藤ちゃん2人の歌みたいな気がしたんだ。あ、ちなみに「KiSSからはじまるミステリー」がKinKi Kidsの枠でした。『金田一少年の事件簿』のエンディング。ジャニーズはサブスクがないからカラオケver.だけど。
伊藤:今度、カラオケに行きたいね。
アフロ:そうだ、カラオケ行こうね。高円寺にさ、カラ館ができたじゃん。嫌だったんだよ。高円寺のあの景観をぶち壊す青い看板。みんなすごく反対してたの。今や、カラ館がないと高円寺じゃないってなってるから、どんどん高円寺像も変わってくるんだよね。今の住んでる人たちには、俺たちとは違う高円寺像があるんだろうね。今度、高円寺会やりましょう!
文=真貝 聡 撮影=suuu

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ギャラリー

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