浜田麻里

浜田麻里

【浜田麻里 インタビュー】
“自分は一生をかけて
何を残せるのかな?”と
考える年代になったんです

シンガーというよりも
プロデューサーという観点

浜田麻里

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『Soar』は「Tomorrow Never Dies」や「Escape From Freedom」を始めとして上質な楽曲が揃っていて、例えば洗練感を湛えた「Prism」は心地良さにあふれています。

「Prism」はすごくキャッチーですよね。この曲のサビのメロディーは原澤くんが考えたものがもとになっているんです。彼の作る曲はプログレハードというか、オケはすごく複雑なんですけど、その上にすごくベタな昭和のメロディーが乗るんですよ(笑)。それが面白いと思って。ただ、全部そのままだとベタすぎるので、自分の感覚でいいところだけを残させてもらいました。

“この曲のサビのメロディーは”という言葉が出たということは、普段はメロディーはご自身で考えているのでしょうか?

基本的に自分で考えます。

そうすると自分で自分を追い込むと言いますか、自ら難易度の高いメロディーにしていることになりませんか?

確かに難易度は高いですね。ただ、難しいメロディーにしようというわけではなくて、今回27枚目のアルバムだし、これまでにたくさん曲を作ってきているじゃないですか。そうすると同じコード進行の中で出てくるメロディーというのは、ある程度決まってきてしまうんですよね。なので、新鮮さを感じてもらえるメロディーをと考えると、音の起伏が激しいメロディーになったりするんです。

“自分節”という言葉に逃げるのは嫌なんですね。

そこに関しては、両方の気持ちがあるんです。なので、今までと同じ感じにならないようにメロディーを作りつつ、逆にサブリミナル的に大昔の1フレーズをバースにちょっと入れたりもしている。そういうバランスは考えるようにしています。

そこまで考えているのは、さすがです。話を「Prism」に戻しますが、この曲はハードチューンとはまたひと味異なるエモーショナルなヴォーカルを味わえることもポイントです。

そうですね、わりとストレートというか。今回は全体的にそうですけど、自分としては比較的ストレートな歌い方をしたんです。「Escape From Freedom」はウィスパーにしたり、バラードもバースは若干ウィスパー系にしたりしまたけど、基本はストレート。なぜかと言うと、演奏がすごく複雑で、それも聴かせたいという気持ちがあるので、そこにビブラートを全面にかけた歌が乗ると、情報量が多くなっちゃうじゃないですか(笑)。なので、基本はストレートで、最後にちょっとだけビブラートでニュアンスを出す程度にして。高低差の大きいメロディなので、あまりゴチャゴチャしないようにしています。「Prism」に関してはちょっと昭和的なメロディーなので、わりとはっきりとした表情の声が合うと思って、歌いましたね。

それぞれの楽曲のエモーションをより際立たせる表情豊かなヴォーカルを披露されていますが、歌の方向性や温度感などは直感に任せるタイプでしょうか? それともいろいろ試すタイプ?

私は曲作りに時間をかける…それこそ年単位でかけることもあって、まずデモでアレンジをしていくわけですけど、その時間があまりにも長いので、もう頭の中でだいたい組み立てられているんです。それは歌の感じも含めて。だから、歌は自分が思い描いたイメージを、そのまま表現しているというだけです。ただ、自分を押し出す感じではなくて、もう私はシンガーというよりも8割方プロデューサーという観点で楽曲と向き合っているんですよ。なので、“この曲をどういうふうに聴かせようかな?”とか、“どうしたらよりハッとさせるものになるかな?”といったことを考えていて。もちろん歌がメインですけど、場所場所でトリッキーな演奏やフレーズが出入りして一曲の構成になるような流れを意識しているんです。

麻里さんはシンガーとしてずば抜けたスキルを持たれていながら、歌うこと以上に音楽が好きなことがわかります。

もちろん音楽は好きですけど、本当にすごく音楽が好きな方っていらっしゃるじゃないですか。自分の周りにもそういう人はいますし。そういう方々に比べたら、私は大したことないと思います。“好き”というよりは自分が音楽に携わるのは天命だと思っているので、正直言うと、決して趣味ではないんですね。作品作りは彫刻を彫っていくようにきっちりやっていくというか。そういう考え方ではありますね。

そういう姿勢は本当にリスペクトします。それに、プロデューサーとして制作の全ての工程にかかわるとなると、相当な労力が必要ですよね。

必要です。でも、自分はそういう道をずっと選んできたので、もう当たり前になっています。作品作りの過程ではひとりでやる作業に一番時間がかかっていて、そこでより緻密に仕上げていると言えますね。

ご自身で、いろいろな楽器を打ち込んだりされるのでしょうか?

そういうこともしますし、例えばキーボードはメインキーボーディストがもちろん大枠は弾いているんですけれど、足りない音とかは自分で入れたりしますし、コーラスもよく聴くとすごくたくさん入っているんですよ。シンセみたいなコーラスが入っていたりして、そういうふうに歌で味つけをする時間も長くかかりますし。あと、今回コロナ禍ということもあって、ほとんどデータのやりとりだったので、まずドラマーとやりとりして完パケて、それをもらって全部調整をして、今度はベーシストに送って、ベーシストから返ってきたものをまた全部調整して…ということの繰り返しを、ずっとひとりでやっていたんです。なので、膨大な時間がかかりました。そうやってバックトラックが出来上がったら歌を入れて、さっき話したコーラス録りとかもして。ミックスはベーシックはすごく腕のいい人たちに頼みますけど、最終的なバランスは自分で決めているので、そこでまた膨大な時間がかかるんです。

そこまで作品作りに深く関与されるのは素晴らしいことですし、リスナーは本当に嬉しいと思います。麻里さんの歌が聴けるということに留まらず、本当の意味での“浜田麻里の作品”に触れることができますので。

そのあたりは性格が出ているといいますか。私も17、18歳の頃からは随分変わったと思いますね(笑)。その頃からテレビのCMを歌ったりしていましたけど、当時は今の自分を想像すらできなかったですね(笑)。

OKMusic編集部

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