桂雀々、春に大阪にて師匠 枝雀エッ
センスを借りて大ネタを披露ーーゲス
トの柳家喬太郎は「お芝居を観ている
ような感じ」

4月1日(土)、『春爛漫公演 桂雀々独演会』が大阪の新歌舞伎座で行われる。本公演は2018年から毎年春頃に同会場で行われ、今年で六回目を迎える。演目はひるの部が「舟弁慶」ほか、よるの部が「口入屋」ほか。ひるの部、よるの部ともに柳家喬太郎がゲストに登場する。公演に先立ち行われた、桂雀々の取材会の模様をお届けしよう。
今年で六回目になる桂雀々独演会
まずは独演会に向けて、桂雀々からの挨拶。「一年が過ぎるのが早く、今回で六回目でございます。毎回どのように落語を見せるかということで、頑張ってきたつもりでございます。今回も大ネタを大バコでどういう形で見せるかということで、自分なりの知恵と人の知恵を借りながら、試行錯誤しながらやっている最中です」と述べた。
演目の「舟弁慶」と「口入屋」は上方落語の代表作で、新歌舞伎座は最大キャパ約1,500名の劇場。「毎年、年が明けると新歌舞伎座さんが公演をクローズアップしてくださいます。いよいよ始まると思うと気も引き締まり、緊張感も高まります。自分自身にも刺激のある会だと思っています」と意気込みを語り、記者からの質疑応答に応じた。
二代目桂枝雀に稽古をつけてもらった、思い出深い二題
演目の選び方と思い入れを聞かれると、「1993年〜2004年に、ある場所で三ヶ月に一度の落語の勉強会をしていて。1993年からの二年間は二代目桂枝雀師匠のとこへお稽古に行っていました。その時に「口入屋」と「舟弁慶」の稽古をつけていただいた思い出がある。師匠自身も十八番とされていた演目であります」と回顧。
「新歌舞伎座さんでどんなネタを出したらハコとネタの大きさがちゃんとクロスしてマッチするのかな、と常々考えています。目標はとりあえず十回は続けていきたい。新歌舞伎座さんでの古典落語の見せ方を考えています。舞台装置も使えるので色々とおもしろいことができるなと。落語でありながら座布団に座ることに拘らず、自由自在に動いてちょっと跳ねてみようかと思っています」と語り、落語の新たな魅せ方を模索していることを示唆した。
それぞれの登場人物は「舟弁慶」はお松、「口入屋」は三人の番頭が肝になる。「どっちも漫画的にデフォルメしながらやってみようじゃないかということでね。「舟弁慶」のお松さんは典型的な大阪のおばちゃん。インパクトは大きいし、いかにも大阪の代名詞的な人物をおもしろく演じたい。代わって「口入屋」の番頭のキャラクターは僕もすごく好きで、誰しも男としても共感、共鳴できるところもあるんじゃないかと思います。男の下心や情けないところ、可愛らしいところを観てもらいたいということが、ひとつのテーマですね」と述べた。なお、お囃子は豊田公美子がつとめるとのことだ。
ネタに関して枝雀から継いだものを聞かれると、「「舟弁慶」、「口入屋」、他に「愛宕山」、「地獄八景亡者戯」といろいろありますけど、継いだというよりも「師匠ならこういう形でやるだろうな」、「年老いたらこういう形で表現してるんじゃないかな」と想像しながら自分なりにアレンジしてやっています。枝雀師匠が今、高座に上がっているとしたら、あまり喋ってないんじゃないかなとかね。何も言わずにニコニコ笑って、出てきただけでお客さまも納得し、安否の確認ができただけで拍手もらうんじゃないかな」とし、「師匠からは落語のエッセンスをいただいてると思います。僕の中に枝雀の存在はずっとあるんです。これからも枝雀ワールドは継承していきたいですね」と述べ、亡き師匠の魂を受け継いでいることを感じさせた。
喬太郎は新作落語が狂気的で社実的「ひとつのお芝居を見てる感じ」
ゲストの柳家喬太郎については「喬太郎氏は古典落語もさることながら、とにかく新作落語が狂気的で社実的で、ひとつのお芝居を観ているような感じで引き込まれる。僕にないものをいっぱい持っているので、リスペクトしてる部分が多いんですよ。新歌舞伎座の大バコで、彼の狂気的なものをどういうふうに見せてくれるんだろうという楽しみがあります。大阪でも彼のお客さまは多いですが、これからもっと喬太郎ファンは増えていくだろうと思います。関西でも多くの人に観ていただいた方がいいですよ。とにかくおもしろいですから。当日の打ち合わせはしてないのですが、僕が古典落語を二題やるので、今回は、多分新作を披露して喬太郎ワールドで客を魅了するんじゃないかな」と期待を込めていた。
紆余曲折しながら、自分なりに探し求めてる
2代目桂枝雀師匠の思い出話も飛び出した
自身の評価については意外に低め。「自分の落語はあんまり好きやないんですわ。このネタは絶対やらん方が良かったなと思うこともあるし、ネタと気持ちがちょっと合わないこともある。うちの師匠(桂枝雀)みたいに万能にはできません。僕の落語は自分で聞いてても、アラばっかり出てくるし、記録用の映像を渡されても、絶対観ませんもん。恥ずかしいじゃないですか。もっと良くしたい気持ちはありますけど、どこを良くしたらいいのか自分の中でわからんのです。けど人のことはわかる。じゃあ他人に置き換えて自分を客観的に見ても、いまひとつパチッと来ない。ハマるとことハマらんところの部分が、はっきり0点100点だったらいいんですが、中途半端に45点ぐらいの出来だとややこしい。どこを直したらいいのか修正に時間がかかりますね。もうちょっと何とかならんのかなと思い、日々、反省することは多々あります」と、自分に対する辛口評価をこぼしていた。
そして「お客さまが(落語の)点数をどう決めるかわかりませんが、皆それぞれ色んな表現の仕方が出てきて良いんだと思います。落語家は、紆余曲折しながら、自分なりに自分としての解釈と表現を探し求めています。だから落語の表現も十人十色。何が正解というのはないんだと思います」と語った。
さらに「東京は、落語や歌舞伎に対しては好みがはっきりしてますね。うちの師匠も東京でも評価されてましたけど、自分自身がそれによってブレることはなかったですね。「私は私の世界で生きています。名人上手とか決してなろうと思てません」と言うてました。おもしろければ、笑っていただければ十分じゃないかと。こんなおもしろい芸は日本にしかない、だからこそお客は絶対見捨てるわけがないということも、よう言うてはりました」と、枝雀の評価への向き合い方についても言及していた。
師匠がいたことを、絶対に忘れさせてはいけない
野球モチーフの着物を着こなす桂雀々
​枝雀の変わったエピソードを聞かれた雀々は、「真顔で弟子の前で「やっぱりどう考えても僕ほどまともな人間はいてない」と言うわけですよ。でも師匠は普通やないんですよ。さすがに芸歴20年が経ったとき、お酒を組み交わしながらね、「一番おかしいです」と突っ込みましたよ。普通どころか変わっていて、天才で、そんな人間がそれを言うことがめちゃくちゃおもしろくて」と笑わせる。
「行動もそうです。約束の店にいてないのでおかしいな、まさかそんなことないやろと家に電話したら「もしもし」と出るんですよ。携帯ない時代ですよ。困りました。店に行く道中でも飽きてどこへ行くかわからんのです。ついて行く方はフラフラになりますわね。「怪我なく帰って良かった」しかないですやん。今からそっちへ伺いましょうか言うても「来んでええ」と言うし。やっと会えたと思っても、途中で帰ってしまう。我々のことをあんま好きやなかったんかなという話にもなるわけですよ。うちの師匠はすごい難しい人やった。会えなくなって23年やけど、まだ記憶は鮮明に残ってますもんね。師匠は今のこの時代に、改めて再ブレイクしてもいい存在だと思います。何回忌公演をもっとやった方がええんじゃないかと思うわけですよ。人々から忘れられてしまったらもったいない。こんなすごい人がいてたのを、絶対に忘れさせてはいけないなと強く思います。今でも映像見たら抜群におもしろい。だからこそ今回の新歌舞伎座の公演は、師匠の代演じゃないけど枝雀エッセンスをたっぷり盛り込んだ「舟弁慶」と「口入屋」を、しっかりつとめさせていただきます」と力強く語った。
『春爛漫公演 桂雀々独演会』は4月1日(土)、大阪・新歌舞伎座で開催。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA
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