16年ぶりの原作モノに挑む〈劇団ジャ
ブジャブサーキット〉。はせひろいち
演出による、岸田國士&チェーホフ作
品の3本立て番外公演が名古屋で上演

旗揚げ以来、ほとんどの作品の劇作&演出を主宰のはせひろいちが手掛ける、岐阜の〈劇団ジャブジャブサーキット〉。これまで名古屋を拠点として年に1~3本ペースで公演を行い、東京や大阪、仙台などを巡るツアー公演も慣例となっていたが、新型コロナウイルスの影響により、2020年に予定されていた劇団創立35周年記念公演『桜ゾンビ』の4都市ツアーがすべて延期に。
そのため本公演としては、2019年の『小刻みに 戸惑う 神様』以来、休止中となっているが、昨年2021年には“番外リハビリ公演”と称して『サワ氏の仕業・特別編 ~「研究員Cの画策」ほか怪しい短編コラボ~』を上演。そしてこの度、それに続く番外公演『シヴァ氏の幕間2022 ~近代戯曲に学び遊ぶ短編集(1)~』が、2022年11月11日(金)~13日(日)の3日間に渡り、名古屋・丸の内の「損保ジャパン人形劇場ひまわりホール」で上演されることとなった。
劇団ジャブジャブサーキット『シヴァ氏の幕間2022 〜近代戯曲に学び遊ぶ短編集(1)〜』チラシ表
本公演を行うまでの“しばしの間”という意味合いも匂わせる今回の公演『シヴァ氏の幕間2022 ~近代戯曲に学び遊ぶ短編集(1)~』は、岸田國士の「留守」と「命を弄ぶ男ふたり」、アントン・チェーホフの「煙草の害について」の3本の短編で構成され、台本は原作をほぼそのままに、構成と演出をはせひろいちが務める。原作のある作品としては、2006年の『亡者からの手紙 ~日影丈吉作品群に顧みる昭和の犯罪考~』(原作:日影丈吉/作・演出:はせひろいち)以来、実に16年ぶりというレアな公演だ。
そんな今作の企画立案から作品選びに至る経緯や、自作ではない戯曲への演出家としての取り組みについて、また本企画のシリーズ化についてなど、はせひろいちに話を聞いた。

── 今回も番外公演ということで、珍しく原作モノの上演になりますが、企画立案の経緯というのは?
なんと言ったらいいのか、まず僕自体が、演劇に対する情熱がどれぐらい残っているかが自分でわからないような状態、というのが一番のベースにあってですね、昨年のいつだったか、「僕は来年書かないけど、どうする? どうしたいの、みんな」という問いかけから始まった感じですね。その背景には、以前から集団的な寿命というのを考え続けていて、劇団にこだわってやっていく、ということへの情熱自体が少しずつダウンしてきているのもあって。
──4~5年ほど前から、そういったお話をされていますね。
僕の心の現象的にそんな感じだった時に、新型コロナウイルスの流行が重なった感じなんですね。もうひとつ外的要因でいくと、文化庁から助成金を支給してもらうために活動を継続していかなきゃいけないとか、そのためにハイリスクな状況でも公演をしなきゃいけないということ自体に疲れてきたというか、あまり価値を見出せなくなってきていたんです。それで今回は、助成金をあてにするのはやめようと。そうなると他都市での公演は出来ないわけですけど、旅公演をする、というのがうちの劇団の本質だったことは間違いないことなので、それをコロナのせいにしながら「しょうがないよね、ちょっと縮小してこうね」っていうことにしつつ、そこで何か新しい楽しさが見出せたり、ハイリスクハイリターンじゃない状況の中で演劇に対する情熱が戻ってくるといいな、とは思っているんです。
それで、劇団資金は今いくら残ってるの? じゃあ助成金が無いとしたらどうしていく? というところからみんなで話し合って。その中で、「三都市公演が出来なくてもいいから、やっていきたい」という声があったので、うんわかった、と。だけど、みんなが「自分と演劇」とか、「個と集団」とか、そういうものを考える時期にもしたいから、僕は「来年は書きません。どうしますか?」ということをとりあえず投げかけたんです。誰か書けよ、とも言ったんだけど、そうはならず(笑)。それで既存の作品から探してみんなが決めて公演をやる、ということになって、誰もいなかったら演出はやります。でもちゃんと依頼してね、と言って。
僕自身も〈日本演出者協会〉のイベント「日本の近代戯曲研修セミナー」に関わったことで、最初は、なんで近代のレジェンド作家から学ばなきゃいけないんだよ、とか、そんなの読めばわかるよ、とか思っていたんですけど、実際に三島由紀夫や永井荷風、新美南吉の作品などを演出したり他の演出家の上演を観たりすると、すげぇ面白いなぁ!とかいろいろ感じることもあって。それで、著作権の保護期間が切れている作家の作品なら文芸費もかからないからいいんじゃない? ということになり、じゃあせっかくいい機会だから、朗読会というか勉強会をしましょう、ということになって、それを始めたのが今年の4月ですね。
── リリースによると、20本近い近代戯曲の中から上演作を選ばれたとか。
20本近くは読んでますね。その中からみんなが推薦の言葉と同時に「これがやりたい」とか意見を述べて7本ぐらいに絞って。そこから7月ぐらいに最終的なミーティングを重ねて、「留守」と「命を弄ぶ男ふたり」と、「煙草の害について」はどうしてもやりたかったので、この3本に決めました。
── 岸田國士の作品が2作というのは偶然ですか?
そうですね、作品重視で選んだので。僕も演出したくない作品はあまり入れたくなかったし、「紙風船」とか「音の世界」とか有名すぎるのもちょっと嫌だなと思って。「命を弄ぶ男ふたり」は、みんなからも候補に挙がってきましたけど、これは僕の発言がちょっと強かったかな。でもやってみると、難しい! これが一番手こずってますね。まぁでも、これぐらいの刺激があっていいんだよね~と思っているんですけど。
「命を弄ぶ男ふたり」稽古風景より
── 今日の稽古を拝見して、「命を弄ぶ男ふたり」は入れ子構造にされているのが観やすいな、と思いました。
せっかくだから何かを入れ子にしようとは思っていたんですけど、実際に創り出したら「命を弄ぶ男ふたり」が一番長いので、これを分解しようと。「留守」とか「煙草の害について」を分断すると面白くなくなるような気がして。
岸田さんのホンって、なんかどうにもならないところがあるんですよ。もちろんそういうのが少ない戯曲もありますけど、この台詞、このシーンのために書いただけじゃんとか、岸田先生いいかげーんっていうところがまあまああって(笑)。特に「命を弄ぶ男ふたり」は多いんです。でも、じゃあそういうところがなだらかで会話がしやすい方が良い戯曲かって言われると、そうでもなくて。これが書きたくて書いたんだねっていうのが、その繋がりが現代だとちょっと下手に思えるんですけど、そこの言葉の強さであるとか揺るがなさというのは、もうね、なぶれないんですよ。著作権も切れているし楽に出来るようにしちゃおうと思っても、気楽にそのプロセスを変えたりしにくい。そこがやっぱり岸田さんだなぁっていう感じ。
── 30代で戯曲を書き始めた頃に書かれているので、まだ完成度が高いわけではないけれど、言葉自体は強いと。
そうそう。だから戯曲って、僕たちは映画とかドラマとかもたくさん観ていて、対お客さんとして成立させていくみたいな、そういう技術はどんどん上がってきていて、最近は若い作家でも書くの上手いなぁとか、お客さんとのやりとりでも機転が利いていたり、伏線の張り方が上手いとかは感じるんですけど、技術を大事にしすぎていたり、視聴率だとか一般のお客さんの意見とか、“いいね”の数とか、そういうことを主眼に置きすぎてて、岸田さんが書かれたような強い言葉は書けないようになってきている気もする。
それは劇作家として学ぶべきところというのか、あぁなんか俺たちは多くのものを捨ててきたんじゃないかな、っていう気はしますね。そういうのって、ちょっと強引だったり遊び半分だったとしても、本当に書かれたものを立ち上げてみようとしないとわからないんですよね、戯曲を読んでるだけでは。そういう意味ではすごく貴重な楽しい時間を過ごさせてもらっていると思うし、みんながいないと出来ないことをやってるんだな、と感じていますね。
「留守」稽古風景より
── 「留守」は1927(昭和2)年に書かれた戯曲ですが、昭和初期の頃の女性の言葉遣いが独特で美しくて、実際にセリフを耳で聴くと、とてもいいなぁと思いました。
そうですね。言葉が綺麗ですね。新鮮だし面白いですよね。今の言葉じゃないから、何が言いたいのか意識とか目的とか動機とか、その辺がしっかりしてないと言葉に負けちゃうみたいなところがあって、結構置き換えながら喋らないといけなので、上手くいくまで時間はかかると思うんですけどね。
── 日影丈吉さんの原作をもとに作・演出されて、とても素晴らしい上演だった『亡者からの手紙』(2006年)のことを思い出しました。
あれは面白かったなぁ。あの作品はサスペンスベースで日影丈吉は小説家だから、それを劇にするっていうこと自体のワクワク感もありましたね。テイストとしては、あの上演があったから今回やれているというのはもちろんありますね。日影丈吉(1908-1991)や小沼丹(1918-1996)とか、あの頃の作家の作品はまたやりたいですね。
── チェーホフの「煙草の害について」は丹羽亮仁さんが演じられていますが、最初から客演していただくことは決まっていたんですか?
いや、作品を決めてからですね。じゃあ誰がやるんだよこれ、となって。「煙草の害について」といえば柄本明さんというイメージですけど(柄本が構成・演出を手掛けて自ら演じ、1993年から繰り返し上演している)、でもやりたいと思って。「煙草の害について」は一人芝居、「命を弄ぶ男ふたり」は二人芝居、「留守」は三人芝居なので、さっき言った劇団としてのスキルアップも考えて。ちょっと話が逸れますけど、今回のようなことをやってみると、今まで僕が当て書きして、いかにみんな楽に演劇をやってきたっていうか。
「煙草の害について」稽古風景より
── 楽っていうことはないと思いますけど(笑)。
でもそれはいいことでもあるんですよね。劇団員は僕の手の内がわかってるから、僕の方でも「ちょっとこれやれる?」っていう風にはチャレンジしてるつもりなんだけど、ベースは僕の書く言葉、僕のよくやるロジックとかそういうものでしか書けないから、そうするとやっぱり楽は楽だったと思う。新しいことをチャレンジさせるつもりでやってはいるんだけど、実際演出していて公演が迫ってくると、とりあえず成立させることとか、まず覚えてもらうこととか、そっちの方が大事になってきちゃう。そのいう意味では今回は、ほんと大変だと思うんですよ。
そんな中、そういうチャレンジやみんなのスキルアップも含めて、ふと、あ、丹羽君だ!って(笑)。名古屋で「煙草の害について」が出来る役者、誰がいるんだよって思っていたら、空沢しんかが「丹羽君とか」と言って、今俺も思った!って同時に。それでまだスケジュールも何も聞いてないうちに、はい、丹羽君丹羽君って決まりました(笑)。
── 演説姿や声がとても作品に合っているな、と思いました。
ロシア人の感じが出てますよね。
── 一見強そうな風貌なのに、実は恐妻家というのが面白くて、良いキャスティングですね。
ありがとうございます(笑)。
── 今回は〈ジャブジャブサーキット〉の公演としては珍しく、会場が「損保ジャパン人形劇場ひまわりホール」ですが、舞台美術などはどんな感じになるのでしょうか?
夜の野外があって、室内があって、講演会があるので、抽象的にさせてもらうしかないっていうのがベースにあるので、「命を弄ぶ男ふたり」を非常に暗ーい舞台にしておいて、「煙草の害について」と「留守」をわりと明かりが当たるようにしつつ。だから、具象と抽象のまさに真ん中へん、勝手に“半抽象”とか言ってるんですけど。かといって、「留守」で小道具が出てくるあたりはマイムではやりたくないので、その抽象性と具象性もぐちゃぐちゃ遊べたらいいなぁと思います。
── 演出面で今回、他に気をつけていらっしゃる点などはありますか?
やっぱりさっきも言っていたような、戯曲が書かれた時代とか、その言葉と俳優の持っている意識が上手くいくといいな、と。でもせっかくだから、ちょっとした違和感が残って気持ち良く、先ほど「美しい日本語」と言ってもらったように、美しい喋り言葉が成立するのが一番いいな、とも思いつつ。今ちょっとだけ匙加減をどっちに振ろうかな、と思っている最中ですね。
作・演出をしていると、ポリシーとしては、書いてる俺と演出してる俺は全然違うはずだ!とか、いやいや、かぶってないかぶってない、と思ってやってるんですけど、やっぱり他の人のホンを演出してみると、あ、演出の仕事しなきゃっていう、すごくピュアな気持ちにはなりますね。演出って何なんだろう? みたいな。分けてるつもりでも、やっぱりクロスオーバーしてるんですよね。
自分が書いたものに対して子どものように思うとか、そっちはあまりないんですよ。それとは逆で、やっぱり演出要素で書いてる。でも岸田戯曲とかは、これ現場が困るかなぁとか、なんでこんな言葉発したんだろう?とか、そんなことは全然考えてない。「なぜここでこんな言葉発するんですか?」って聞いたら、「それはここで、こういう話を書かなきゃいけないからだ」ぐらいなんですよ、きっと。だから反省するわけじゃないんだけど、あぁ僕はやっぱり自分で演出するという建前で書いているんだなって。だからひょっとしたら脳味噌にもっと行きたいところがあっても、まぁでも不自然か、とか、プロセス考えるとこの辺からこうしなくちゃいけないから、これはまぁいいか、とかそういうことをたぶん無意識に書いてるんだなっていうのがすごくわかりますね。
── はせさんは、最初から整然と書いていくタイプですか? それとも、思いつくまま書いていって後で辻褄を合わせていくとか?
両方ともあるんですけど、例えば書きたいシーンから書いて、次に書きたいシーンとの間が繋がらないなっていうのを意外とほかっておけないタイプなので、次のこともある程度考えて書いちゃってたり。これの後にどうせこれが来るよな、とか思いながら書いてるから、何か違うんですよね、そこが。岸田國士は本当に自由な劇作家だなと思いますね。それが強さになったり魅力になったりするんだなぁっていう。だから「後はお任せします。どうぞご自由に」みたいな作品と、そうじゃない作品もあるんだけど、そういうことなんだろうな、と思いながら。
── だから後世の人が、いろいろ工夫して上演したくなるのかもしれませんね。
そうそう、本当に面白いですね。リリースにも勢いで、「さほど遅くならない内に【第2弾】を企てる予定です」と書きましたけど、久保田万太郎や川口一郎の作品とかも、来年すぐには出来ないかもしれませんけど、ぜひやりたいですね。
劇団ジャブジャブサーキット『シヴァ氏の幕間2022 〜近代戯曲に学び遊ぶ短編集(1)〜』チラシ裏
取材・文=望月勝美

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