andymoriは特別なバンドだった 樋口
毅宏と宇野維正が「小山田壮平の才能
」を語り合う

 デビュー以来、熱心な音楽ファンから高い評価を得ていた同バンド。『さらば雑司ヶ谷』や『日本のセックス』、『甘い復讐』などの著作で知られる小説家・樋口毅宏氏と、リアルサウンドでもお馴染みの音楽ジャーナリスト・宇野維正氏も、andymoriの熱心なリスナーだという。

 andymoriとは果たして、どのようなバンドだったのか。東京ワンマンライブを観覧したという2氏に、バンドのスタンスやその音楽性、そしてフロントマン小山田の人間性や芸術家としてのあり方まで、たっぷりと語り合ってもらった。(リアルサウンド編集部)

(参考:andymori小山田の重傷・ライブキャンセルで、ファンに動揺広がる)

・樋口「andymoriのライブは、アッパー系でもなければ、ウェットな感じでもなかった」

樋口:andymoriのライブを初めて観たのは早稲田の学園祭のライブで、知り合いの編集者が楽屋に連れて行ってくれたんですけど、小山田さんがあまりにも可愛い顔立ちの男の子でビックリしました。2回目は一昨年、アートスクールの対バンで、横浜の小さい箱の30分くらいのライブでした。去年の武道館解散ライブは絶対に行こうって決めていたんですけど、小山田さんの怪我で中止になっちゃったから、今回のワンマンでようやくちゃんと観ることができました。

宇野:僕もワンマンは久しぶりでした。その間も、短いのはフェスとかで何度か観てますけど。andymoriのライブは、わりとムラがあるんですよね(笑)。でも、この間のZepp Tokyoのライブは、初っ端の「1984」から小山田君の声も完璧に出てて、演奏もバシっと決まってて、「おぉ!」と思った。

樋口:でも、今回の東京でのライブも、バンドにとっては最後のワンマンだというのに、キラーチューンを畳みかけるでもなく、実に淡々としていた。「今までありがとう」的な、泣かせるMCも一切なかったから、もちろん小山田さんの意図的なものなのだろうけど。

宇野:でも、andymoriのライブをずっと追ってきた人に言わせると、やっぱり東京のやつはめちゃくちゃ良いライブだったみたい。今回のライブは、小山田君が大怪我から復帰して、いよいよ解散する前の最後のワンマンだったんですけど、前週の大阪でのワンマンの序盤はさすがに緊張していたというか、慣れない感じだったみたいです。

樋口:なるほど、そうだったんですね。僕が高校1年の時に、BOOWYが東京ドームで解散コンサート、所謂「LAST GIG」に行ったんですけど、その時もあっけらかんとしていて、泣いている人はいなかった。チケットを取るため全国から電話が掛かってきて池袋の電話回線がパンクして、一般紙にも何事かと取り上げられたぐらいの社会現象になったから、観客は「自分は時代の目撃者だ」という興奮と祝祭感に満ちた感じだった。でもandymoriのライブのほうはそういう雰囲気ではなく、アッパー系でもなければ、ウェットな感じでもなかった。言ってみれば、バンドの一過程とさえ感じるようなライブでした。

宇野:なにしろアンコール前の本編最後の曲は新曲で、しかも「おいでよ」っていう曲でしたからね。しかも、解散する直前のバンドとは思えない、すげえいい曲(笑)。今回、大阪は野外でしたけど、東京はZepp Tokyoという極めて日常的なジャパニーズ・ロック的空間だから、より素っ気ない感じに映ったのかもしれない。もうひとつ思ったのは、フロアの前の方にいたオーディエンスも曲のリズムに合わせて手を前に振る、いわゆるジャパニーズ・ロック的なノリで、そういうノリを否定するつもりはないけれど、「結局届いたのはそこが中心だったんだ」とは改めて思いました。このバンドのすごさがちゃんと世間に広く伝わっていたら、もっといろんなタイプのお客さんがいてしかるべきだったと思う。ここだけの話、この日の客席に来ていたミュージシャンはすごい顔ぶれだったんですよね。SEKAI NO OWARIのメンバーやきゃりーぱみゅぱみゅは観に行ったことをツイートもしてましたけど、他にも「おぉ!」と思うミュージシャンやバンドのメンバーが来ていて。同業者にはそのすごさは伝わっていたけど、それが一般層まで広がらなかったってことだと思う。

樋口:オーディエンスもお行儀が良いっていうか、モッシュする人がひとりもいなかった。残念なのは個人的に好きな曲もほとんどやらなくて、一緒にシングアロングしたのは「空は藍色」だけ。

宇野:とてつもないバンドなんだけど、すべての曲が傑作というわけではないんですよね。あと、さっき樋口さんも言っていたように、僕も昔、まだ彼らがインディーズでデビューしたばかりの頃に小さなライブハウスで小山田君とすれ違った時、「なんだ、このキラキラした男の子は!」って驚いていたら、数分後にステージに上がってて、そこで彼がandymoriのメンバーだということを初めて知ったんですけど(笑)。でも、ステージ上でさらにキラキラするかといったら、そういうわけでもない。ステージ上では自分の輝きをわざと出さないようにしているんじゃないかって思うくらい。よく、中学生くらいの女の子で、自分の本当の美しさに気づいていない子っていたりするじゃないですか。彼は、そんな感じのまま30歳になってしまった男の子って感じがするんですよ(笑)。

・宇野「小山田君はとてつもない天然というか、完全に古い芸術家タイプ」

樋口:小山田壮平という人は、あの年代では群を抜いた才能の持ち主ですね。

宇野:ソングライターとして、本当に桁が違う才能だと思う。メロディの天才であると同時に言葉の天才で、たとえば小沢健二と比べたときに、言葉は小沢健二の方が勝っている部分があるかもしれないけれど、なにもないところからメロディをもってくる才能は圧倒的に小山田君の方が勝っている。たとえば岡村靖幸と比べたときに、メロディは岡村靖幸の方が引き出しをたくさんもっているかもしれないけど、言葉の引き出しは小山田君が勝っている。ずっと自分はそのくらいの才能だと思ってきました。あのくらいとんでもないレベルでメロディと歌詞の才能が拮抗しているアーティストって、ほかにはaikoくらいしか思いつかない。

樋口:僕がつい比べ合わせてしまうのは、サニーデイ・サービスなんです。スリーピースで、ボーカルが作詞作曲のワンマンバンドで、やっぱり青春について歌っている。

宇野:たしかに出てきた時はそういうイメージがあったし、実際、曽我部君はインディーズ時代のフライヤーにコメントを出したりもしていた。スタッフも、人脈的に近いですしね。サニーデイ・サービスは吉祥寺や下北沢について歌っていて、彼らは西荻窪や高円寺について歌っているというのも、近しい感じがします。ただ、確かにスリーピースだし、ボーカルの才能が突出しているバンドだけど、曽我部君はすごくいろいろなことを考えているモダンなミュージシャンで、小山田君はとてつもない天然というか、完全に古い芸術家タイプ。そこが一番違うと思います。

樋口:デビュー時に山崎洋一郎さんがリバティーンズを引き合いにして、一点突破のバンドだと評していたけど、小山田さんはビート・ドハーティーですね。生まれてくる時代が遅かったのではないかという感じ。ムチャクチャやりすぎる。

宇野:リバティーンズみたいな刹那的な感じは、後藤大樹君がドラムをやっているセカンド・アルバム『ファンファーレと熱狂』までで完結しているように思う。そう考えると、本来は2枚か3枚で終わっていたバンドなのかもしれないですね。それでもなんとか5枚アルバムが出たのは、岡山健二君が入ってくれたからで。そう考えると、andymoriというバンドは、ずっと非常に危ういバランスの上に成り立っていたんだと思う。

樋口:だとしたら、僕は岡山君が入ってくれてよかったと思っています。3枚目の『革命』からが最高ですよ。5枚の中から1枚選べって言われたら、僕は『革命』。でもライブではやってくれない。「楽園」とか「Weapons of mass destruction」とか、すごくシングアロングしたいのに。去年2枚同時リリースしたライブ盤にも入っていない。

宇野:僕は『ファンファーレと熱狂』が1番好きかな。2番目が『革命』。多分、ファン投票とかをしたら、ファーストの『andymori』もかなり上にくるんじゃないかな。でも、『革命』がリリースされた時は、本当に興奮しました。あの作品は言葉もすごく削ぎ落とされていて、楽曲もすごくキャッチーですよね。ここからブレイクするぞって思わせてくれる作品でした。後から振り返ると、5枚のアルバムの中ではわりと異色の作品なんですけど。

樋口:僕が残念なのが、こんなに良いアルバム出しているのに、彼らはオリコンのベスト10とかにほとんど入らなかったってこと。

宇野:1枚だけ、4枚目の『光』が8位に入りましたね。

樋口:でも8位でしょ? 考えられないよ、こんなに良い歌を歌っているのに。

宇野:でも、それは小山田君本人のせいかもしれないって思うんですよ。僕はよく仕事をしているカルチャー誌で、何度も編集者を通して取材のアプローチをしてきたんだけど、ファッション誌の『装苑』で一回インタビューした以外は、なかなか話がうまく着地しなくて。スタッフの腰が謎に重いなぁとずっと不満に思っていたんですけど、今思えば小山田君を動かすのが難しかったんだと思う。andymoriって、あらゆる意味でのタイアップも一度もやってないでしょ? それと、彼らはロック・イン・ジャパン・フェスティバルにもたった一回しか出てない。世の中的にはいわゆるロキノン系だと思われているかもしれないけれど、実は何系でもないんだよね。他のバンドだったら絶対に飛びつくような話を、彼らはことごとく拒否していた。

樋口:小山田さんは売れたくなかったのかな?

宇野:自分の愛する音楽を、自分が気持ちよく奏でられればそれで良いというタイプなんでしょうね。もちろん、世の中に伝えたくないというわけではないと思うけれど、そのために何かをするくらいなら、もっと音楽に集中させてくれよという感じだったのかもしれない。だから、やっぱり古いタイプの芸術家ですよ。もしかしたら、一番近いのは尾崎豊なのかも。顔もキレイだし、歌声もすごいし。ギラギラしてない尾崎豊みたいな。

樋口:でも尾崎の場合は、自分の役割をちゃんと引き受けていましたよね。みんなが自分にこういうのを求めているんだなって考えて、“尾崎っぽい”っていうイメージを演じていたし、その果てに彼は死んでいったんだと思う。でも小山田さんの場合は……。

宇野:音楽以外のことは何も視野に入ってない感じですよね。先日のライブでも、バンドのメンバーも、彼には何を言っても仕方がないという感じが伝わってきましたよね。MCで藤原君が「良かったね、帰って来れて」って言って、小山田君は「オーイェー!」って応えるんだけど、その後に小さな声で「悪かったですね、本当」って言って。それに対する藤原君の言葉が「別にいいけどね」っていう(笑)。そういう関係性がこのバンドのあり方だったんだと思います。

樋口:小山田さんと藤原さんが西荻窪のアパートに住んでいて、近所の銭湯の亀がいなくなった話をしていたでしょう? 小山田さんが「(行方不明になったけど)亀は万年生きるからね」ってMCをして、あれみんな心の中でツッこまなかった? 「小山田、おまえは何年生きるんだろうね!」って。

・樋口「平和と言われた時代の最後に現れた、青春ロックバンド」

樋口:解散するのが本当に惜しいなあ。僕は自著の『日本のセックス』で、「青春の終わりとは、好きなバンドが解散することである」って書いたんだけど、あの日同じように感じた若い人たちも多かったと思う。だからといって「あの頃良かったな」っていう安い青春振り返りではないんですよね。「青春=一時的に産物」という図式のものや、ノスタルジーでは全然ない。だけど「平和と言われた時代の最後に現れた、青春ロックバンド」。矛盾しているように聞こえるだろうけど。

宇野:圧倒的な普遍性がありますよね。もうとっくに絶滅したカルチャーだけど、5枚のアルバムの中から10曲とか12曲とか自分の好きな曲を選んで、カセットテープのA面とB面に編集して、それを大切な友達だとか好きな女の子に配って回りたくなる。こんなおっさんにさ、「10代で出会った大切なバンド」みたいな感覚を思い出させてくれるんだよね。

樋口:本当ですよ。こんなすれっからしの中年が、ライブ会場でandymoriのTシャツ着ちゃうんですよ。客層としても最高齢の部類だから好奇の視線に晒されて、帰りも同じ格好で渋谷の回転寿司に入ったら、若い子たちから「何あのオヤジ」って目で見られましたよ! 

宇野:僕も入場したら大至急物販に並びましたからね(笑)。あー、本当にマイandymoriのカセットテープ作りたいなー! 選曲とか、1曲目から最後までパッと浮かぶもんね。たぶん、僕と樋口さんが作ったら、それぞれ全然違うんだろうな。でも、本当に彼らは普遍的だと思うよ。僕が普段車で聴いている音楽にはほとんど反応しない5歳の息子も、andymoriだけは大好きで、流すといつも一緒に歌ってるからね。たとえば、良くできた童謡とかに近い感じで、彼らの歌は意図しないところで、本質的なものだけをシュッ!と掴んでるんだと思う。

樋口:歌の喜びがありますよね。小さい子は「スーパーマンになりたい」とか絶対歌うと思う。

宇野:超歌ってる(笑)。

樋口:「ユートピア」の「バンドを組んでいるんだ」って歌詞も、ブルーハーツの「パンクロック」みたいで、自分の生き方を宣言している。

宇野:こうして話せば話すほど、彼の手に負えない芸術家的資質と、その才能は、表裏一体のわかちがたいものだったんだと思う。尾崎豊、小沢健二、岡村靖幸……最近だと、峯田和伸とか。それぞれタイプは全然違うけれど、小山田壮平というミュージシャンが、今挙げたような人たちと並び得るような存在だったということは、このタイミングでちゃんと言っておきたい。
(構成=リアルサウンド編集部)

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