DJ和の女性向けミックスCD、なぜ北関
東でヒット?『ギャルと不思議ちゃん
論』著者が分析

 『A-GIRL↑↑2 mixed by DJ和』は、2013年12月4日に発売された最新JPOP満載のミックスCDで、E-girls加藤ミリヤFUNKY MONKEY BABYS、ももいろクローバーなど幅広いアーティストの楽曲を収録。「ギャル」や「不思議ちゃん」などさまざまな女性文化がミックスされていると同時に、発売時より特に北関東でセールスを伸ばしたという特徴をもっている。オリコンの12地区別ランキングによると、北関東でのみ12週連続TOP20入りしており、同作にはその地区にマッチするなんらかの特殊性があることが伺える。

 いったいなぜ『A-GIRL↑↑2 mixed by DJ和』は、北関東を中心に支持されているのか。新たな若者文化、地方文化を織り込んだヒットCDが生まれた理由を『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』の著者であり、若者文化に詳しい松谷創一郎氏に分析してもらった。

■北関東で売れるのは、自動車保有率が高いから

 『A-GIRL↑↑2 mixed by DJ和』が北関東で特に好まれる理由を調べるため、都道府県別の売上枚数と自動車保有率の関係を統計学的に分析したところ、そこには十分に考察に値する相関関係が見られました。

 特に群馬、栃木、茨城などでよく売れていましたが、その辺りは地形的に起伏が多く、かつ所得も他の地方に比べて高いため、自動車保有率が高いんです。一方で交通網が発達しているために自動車保有率が低い東京や大都市圏では、それほど売れていません。車の中で聴くのに非常に好まれるCDなのでしょう。

 実際にCDを聴いてみると、1曲1曲が短くテンポよくつながって、USENの番組をずっと付けている感覚に近いものがあります。R&BやHIP HOPから、アイドルソングまで、女性アーティストを中心とした流行のJ-POPが詰め込まれていて、ライトな音楽リスナーが気軽に、そして飽きずに聴けるのでしょう。それは非常にカジュアルかつ合理的な消費スタイルで、マーケッターの三浦展氏が言うところの「ファスト風土」的なCDともいえるかもしれません。かつて郊外の若い女性向けのミックスCDといえば、いわゆるギャルミックスーー『ブチアゲ♂トランス』のようなCDがありましたが、そういった作品はもっとターゲットが絞られたものでした。それに対し『A-GIRL↑↑2 mixed by DJ和』は、カルチャー性を希釈していて、より気軽に手に取れるものになっているかと思います。

■若者文化と地方文化の移り変わり

 最近、ギャルカルチャーが衰退している、と指摘する声も少なくありませんが、かといってきゃりーぱみゅぱみゅに象徴されるような原宿系の文化が興隆しているかというと、そういうわけでもありません。今、若者に広まっているのはユニクロやGU、H&Mといったファストファッションです。大学生の服装を見ると、普段着の延長線上にあるようなファッションで、全般的に平準化しているように感じます。

 そういった状況の中では、音楽の消費の仕方もよりカジュアルになっているのかと思います。そう考えると、『A-GIRL↑↑2 mixed by DJ和』のように明確にターゲットを絞り込みすぎずに、大きなくくりで人気のJ-POPを詰め込んだ作品が受け入れられるのも自然なのかもしれません。

 熱心な音楽ファンには、こういったミックスを好まない人もいるのかもしれませんが、このように手に取りやすく、ライトな層に向けたコンテンツは、娯楽として必要なものですし、業界的にはビジネス面においても大切です。このCDをきっかけに、収録されたアーティストの作品を改めて購入するリスナーもいるでしょうし、DJカルチャーに興味を持つきっかけにもなるかもしれません。映画でも、少女マンガ原作などの恋愛映画が上映され、ライトな層に消費され大ヒットしたりしますが、そうしたアプローチはコアなファンを育てるためにはとても大切なことです。

 最後に改めて北関東という地域の特殊性について延べたいと思います。日本の社会空間は、大きく4つに分けられます。ひとつは東京、もうひとつは東京周縁の関東圏、もうひとつは地方大都市、そしてそれ以外の小都市に分けられます。北関東を含む東京周縁では、地方大都市や小都市で暮らす人々とは異なった「東京感」を抱いています。たとえば広島の人は気軽に東京に行こうとは思いませんし、もし行くとなるとちょっとした旅行になります。一方で北関東の方は、東京まで自動車で遊びに来ることができるんですね。いわば東京にアクセスはできるけれど、留まることはできないという状況です。だからこそ東京に対して独特の憧れを抱いているケースがあります。

 茨城県下妻市を舞台にした映画『下妻物語』は、そういった北関東特有のメンタリティを非常によく描いていました。ポップカルチャーには、数字にはなかなか現れ出ない徴候を提示する側面がありますが、その意味で『下妻物語』は優れた映画です。そして、そのような視点で『A-GIRL↑↑2 mixed by DJ和』の収録曲を読み解いてみると、そこから新たな発見があるのかもしれませんね。(編集部)

リアルサウンド

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