3年目の挑戦に入った、京都の小劇場
[THEATRE E9 KYOTO]2022年度のプロ
グラムを発表

クラウドファンディングなどを利用して、民間の力で立ち上げた京都の小劇場[THEATRE E9 KYOTO(以下E9)]。2019年夏のオープンからわずか半年後に、新型コロナウイルスの苦境に直面したものの、緊急事態宣言やまん防中以外は、ほぼ毎週公演が行われるなど、今や京都の演劇シーンに欠かせない劇場となっている。そのE9の2022年度の公演プログラムが、3月8日に発表。劇場では、主催・共催公演の関係者を集めた会見が行われた。

はじめに、劇場設立に大きく携わり、現在は館長を務めている、「茂山千五郎家」の狂言師・茂山あきらより挨拶があった。
狂言師らしく「名ばかりの館長で、こんな時だけ出てくるんですけど……」と、ユーモアを交えて挨拶した茂山は、まず「2019年6月に(劇場が)スタートして、その年の年末にはコロナ騒動が始まりました。ということは、コロナとともに歩んできたE9ということになります。お芝居を人に見せるということが難しい時期で、本当にどうしようかと思いましたが、皆様方の協力と、病気のことが少しずつわかってきたこともあり、何とか今も息をしていられています。誠にありがとうございます」と、これまでの苦労を振り返った。
[THEATRE E9 KYOTO]館長・茂山あきら。
そして、これからE9で作品を発表する若き表現者たちに向けて「このコロナでとっても大変な中、それでも『何かをやりたい』という若い力が、毎年繰り返しやってくるのが、本当に嬉しいです。私も若い頃は[渋谷ジァン・ジァン](注:かつて東京にあった伝説の小劇場)で(現代演劇の企画を)スタートしたので、彼らを見ていると『懐かしいなあ』と。どうか息長く続けて、また次の世代を見てあげてほしいと思います」というエールを。
さらにE9の未来に向けて「演劇というか、芸術自体が実は金食い虫でして。だから誰かのサポートがないと、なかなか(活動は)難しい。そういう点で、ぜひ若い人たちをサポートして、世の中に紹介していただくよう、ご協力をお願いします」と、劇場をサポートする企業やメディアに呼びかけた。
2021年度の活動報告をする[THEATRE E9 KYOTO]支配人・蔭山陽太。
続いては劇場支配人の蔭山陽太より、2021年度の活動報告があった。コロナの影響で8作品が中止・延期となったが、それでも総計43本の公演を開催。観客総動員数は、2022年2月末時点で6,739人。これは昨年から1,500人以上を上回っている。動員数はなかなかコロナ以前には戻らないものの、劇場を利用する団体数は減少していないとのことで、こんな時期でも(こんな時期だからこそ、かもしれないが)アーティストたちの創作意欲が止まることがないことを、証明してみせる形となった。
加えて、劇場が休止状態となった時期には、地元の韓国料理店の店主がバザーを開いて、売上金を全額劇場に寄付したというエピソードも。「地域に愛される劇場」を大きな目標に掲げるE9の、活動が報われる出来事だと言っていいだろう。さらに芸術監督・あごうさとし演出、太田真紀&山田岳出演で、E9で製作・上演されたオペラ『ロミオがジュリエット Romeo will juliet』が「令和3年度 文化庁芸術祭」の音楽部門大賞(関西参加公演の部)を受賞するという快挙も報告された。
2022年度のプログラムを紹介する[THEATRE E9 KYOTO]芸術監督・あごうさとし。
続いてあごうから、2022年度のプログラムの紹介があった。「E9は『作品を作る劇場』として、舞台芸術を中心に、地域性・現代性・他分野共同などの特性を大事にしてきました。今年度は、その特性をいっそう強く表現したプログラムになったと思います」と自信を見せる。
4/22~24『Continue2022』参加の「遊劇舞台二月病」中川真一(左)と「THE GO AND MO'S」黒川猛(右)。もう1つの参加団体「居留守」と日替わりで上演するショーケース企画。
劇場が主宰する9つの公演は、舞台芸術・音楽・美術などのジャンルを越境するような試みだけでなく、芸術以外の業種とのコラボレーションもあるなど、実にバラエティに富んだ布陣。特に今回は劇場が3年目に突入する中で、これまで培ってきたことを活かすような企画が目立っている。
6/2~5に『何かの事後の勉強会の上映と、』を上演する、アーティストの田中功起。記録映像上映やレクチャーなどを通して、アートシーンのハラスメントや共生について共に考える企画だ。

1日限定の実験的な展覧会『Sensory Media Laboratory』を発表してきた八木良太(中)+山城大督(右)。3年目の今年は、henachoco(左)を交えて、11/2~4の3日間開催。

中でもあごうは、E9上階にあるコワーキングスペースのビジネスパーソンたちと演劇を作る「E9アートカレッジ」や、1年目から折に触れてあごう作品に参加していた、声楽家の太田真紀らと結成した新ユニット「OOAK」の旗揚げ公演など、E9だからこそ可能な企画の連続。特に、京都在住の建築家・中西義照と組んだ『建築/家(仮)』は、アナウンサー・能政夕介と共同創作した『フリー/アナウンサー』(2021年)に続く異業種コラボ演劇となる。あごういわく「働くすべての方に、芸術家になっていただきたい」というのが狙いらしいので、シリーズ化が期待できそうだ。

音楽家の葛西友子(左)とあごうさとし(右)は、studio kNot『雑る』(8/5~8)と、OOAK『アカルナイの人々とかあるかないの人々とか』(10/15・16)の2作品でコラボレーションを行う。
7/29~31の『建築/家(仮)』は、建築家の中村義照(右)があごうさとしと一緒に、「窓」を通して今の世界を覗いていく舞台作品に挑む。
参加したビジネスパーソンたちにも「ビジネスとアートの共通点を感じるし、すごく発見がある」と好評の「E9アートカレッジ」第2期公演は7/8・9に開催。
また、ドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』で、改めて注目されているダンサー・田中泯は、E9の設立理念に共感し、1年目から継続して公演を行っているアーティストの一人。恒例となっている冬のソロ公演に加えて、7月にはスガダイロー大友良英という、2人のトップミュージシャンと組んだ日替わり公演を開催する。踊る上で「場」の特徴を重視する田中が、E9という「場」に慣れ親しんだからこそ実現する、注目の企画だ。
孤高のダンサー・田中泯が、スガダイロー(左上:7/14・15)、大友良英(右上:7/16・17)と即興セッションを行う公演は完売必至。

共催公演では、劇場が創作を支援する「アソシエイトアーティスト」第3期に、福井裕孝(京都)と穴迫信一(ブルーエゴナク主宰/福岡)を新たに選出。通常は毎年1名だが、今年は特別に2名が選ばれることになった。出演者の私物や劇場の備品など、物と人との関係を考察する実験的な舞台を作る福井に、戯曲・演出とも様々な手法に挑戦した作品を、京都でも積極的に上演している穴迫。拠点は違えども、スピリットにどこか共通点を感じるこの2人が、E9でどんな作品を生み出すかが楽しみだ。

第2期アソシエイトアーティストの振付家・ダンサーの捩子ぴじん。自身のカンパニー「neji&co.」で昨年発表した『Sign』『Cue』の2作品を再演(4/8~10)。
新しいアソシエイトアーティストに選ばれた福井裕孝。「“上演”という形態に縛られないものができたら」という公演は9/9~11に開催。
北九州市を拠点とする劇団「ブルーエゴナク」を率いる穴迫信一も、新たなアソシエイトアーティストに。「ブルーエゴナク」は1/20~22に公演を実施。

その他には、30団体近い提携・貸館公演が待機。地元京都の若手だけでなく、他地域の劇団のツアー公演も行われる。5月には早速、監督作品『ちょっと思い出しただけ』が好評な松居大悟が率いる「ゴジゲン」の関西公演があるのに注目だ。この先、参加団体がさらに増えることが予想されるので、公式サイトで折を見てチェックを入れておきたい。
提携公演を行う劇団を代表して、京都の劇団「劇団三毛猫座」のnecoが登壇。8/19~21に、21年初演の朗読劇『くじらの昇る海底』の演劇版を上演する。
そしてE9では、もう一つ大きな試みとして、京都の学生劇団を支援する活動を開始。というのもこのコロナ禍で、学内公演や稽古などの活動が大幅に制限されており、学生が十分な舞台経験を詰むことができないのが、現在大きな問題になっているため。そこで4月末から、各種スタッフワークの講習を行い、8月にはその成果を発表する公演を実施する予定だ。受講料は未定だが、できるだけ低く抑えるということを、会見中に約束していた。
この支援プロジェクトについて、あごうは「私たちは『100年続く小劇場』という触れ込みで開館をご支援いただきましたが、その未来の舞台芸術を作っていただける若い方々に、何かできることはないかと。それを私たち自身の課題として取り組んでいきたい」と、京都演劇界の未来につなげる活動になることを強調した。
5/27~30には、岸本康監督作品『OUR ART MUSEUM』上映会も。日本現代美術を語る上で欠かせない[原美術館]の、2001~2021年閉館までの活動を追うドキュメンタリーだ。
以上が2022年のプログラムとなるが、すでにほぼ毎週末は埋まっているほど、充実したラインアップとなっている。もし月イチペースで通う心づもりであれば、「E9サポーターズクラブ」の入会がオススメだ。一般30,000円、26歳以下20,000円で、E9で行われるすべての公演に加えて、[こまばアゴラ劇場]を始めとする全国8ヶ所の連携劇場の公演+その他会場での「青年団」公演まで、すべて無料で観劇できる(1公演につき1回のみ)。観客は10回以上通えばほぼ元が取れ、劇場にとっては安定した収入源になるというWin-Winなシステムなので、ぜひ加入を検討してほしい。E9近辺に居住または勤務していれば、さらにお得なエリア限定会員(12,000円/観劇特典はE9のみ)になれる。
松本奈々子(写真)と西本健吾のユニット「チーム・チープロ」は、昨年に続いて「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭」公式プログラムとして、京都で滞在制作した作品を発表(10/7~10)。 [撮影]岡はるか
E9オープン前のインタビューで、あごうは「舞台芸術って幅広いでしょ? ということを、市民の皆様に紹介していきたい」と語っていたが、まさにその理想が具現化したラインアップと言えるだろう。高尚なアートパフォーマンスもあれば、バカバカしさの塊のようなコントもあり。世界的に活躍する大ベテランもいれば、将来の関西を担う学生たちまで、キャリアも立ち位置も様々だ。「100年続く劇場」を目指すE9、その100分の3年目の年はどうなるのか、しかと注目していきたい。
取材・文=吉永美和子

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