くじら

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    くじらクジラ

    "独創"という言葉がある。あまりに安売りされて手垢にまみれてしまったが、一般的には"独創=オリジナリティ"という公式が成り立つ。また一方で、"独創=コマーシャルな成功から程遠い"というイメージも拭えない。
    くじらは82年に結成され、85年にメジャー・デビューを果たした、現在ではベテランの域に達しているバンドだ。が、ヒット・チャートに顔を出すことは決してない。なぜか……? それは、ヴォーカル/ソングライターの杉林恭雄の特異な個性にある。曲はポップ。別に難解な事など何もしていない。むしろサウンドはシンプルなくらいだ。しかし、杉林のもつ捻くれたセンスがポップのフォーマットを超えて灰汁のごとく滲み出てしまう。そして、それはこんな一節に顕著に表れている——「ふたりの朝、ポリバケツで眠る」「赤いアジアの花に抱かれて」。こうした独特の語法をもった歌詞は、確かに大衆受けするとは思えない。けれど、単純な言葉使いながら、目を閉じるとそこに情景が浮かんでくるような示唆的かつ映像的表現なのだ。
    93年の『COBALT BOY』以降、実質上は杉林のソロ・ユニットとなったくじら。彼らの最高傑作は何といっても、98年にリリースされた『木星クラブ』だろう。リズム隊が描き出す緩やかなグルーヴにのせて、杉林の豊潤な歌声を披露。歌詞もより深化をみせ、セクシャルなイメージあるいは死や災厄といったダーク・サイドを微妙にちらつかせて、聴き手の深読みを誘う。
    現在も活動を続けるくじらだが、完璧主義ゆえに作品数は極端に少ない。次なるリリースはいつであろうか……。

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