“4度目の正直”となったtricot『暴
露』 待ち望まれていたライブで「露
わ」になった光景とは

tricot『暴露』 2021.6.5 神奈川・川崎CLUB CITTA’ (第二部公演)
6月5日に、川崎CLUB CITTA’ にて、tricotのワンマンライブ『暴露』(二部制)が開催された。メジャー1stアルバム『真っ黒』のツアー公演として、2020年3月14日にZepp DiverCityで迎えるはずだった公演から、3度の延期が決定。その間にtricotは活動10周年を迎え、アルバム『10』、シングル『暴露』、『いない』のリリースをするなど、スピードダウンを一切することなく(むしろ加速?)精力的に活動を続けてきた。そんな彼女たちのライブに対する歓びや、留まることのないバンドの進化が全身で堪能できたライブの模様をレポートする。
開演時間を迎え、着席する観客の前に現れたのは、吉田雄介(Dr)、キダ モティフォ(Gt/Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(Ba/Cho)。静かに登場した3人につられて、盛大に鳴っていた拍手がピタリと止む。訪れる静寂。静止した空気をドンっと震わせるヒロミのベースから始まった、「混ぜるな危険」の強烈なアンサンブル。その衝撃で、一斉に席を立つ観客。フロアの興奮が上昇していく中、マイクを持ち、満を持して登場した中嶋イッキュウ(Vo/G)が優美に歌い始める――静があるからこそ、動が映える。メンバー登場と共にもたらしたその美しさと爆発力に、冒頭からテンションが上がる。そして、その勢いを緩めることなく「右脳左脳」、キダとヒロミがボーカルに加わる「よそいき」へと進んでいき、メロウな「サマーナイトタウン」、エモーショナルな「WARP」を続々とプレイ。
ヒロミ・ヒロヒロ
吉田雄介
要所要所でトリッキーに変化するテンポに翻弄されるが、それが逆に気持ち良い。それは、tricotが用いる変拍子が、聴者の意表を突く為の武器ではなく、自由で豊かなバンドが生み出す「遊び心」そのものだからだろう。よって、こちらも良い状態のまま、彼女たちが繰り出す抑揚に身を任せられるのだ。変質的なリズムパターンもタイトに叩きこなす吉田のドラムと、躍動しつつもどっしりとサウンドの芯を支えるヒロミのベース。そして、エネルギッシュでありながらも変幻自在にメロディの肝を担うキダのギターが、絶妙なバランスで組み合っており、一貫して安定していることに凄みを感じる。個人のスキルの高さと共に、リズムやサウンドの複雑さを丸ごと抱擁するメロディと歌のポップさがあるからこそ成せる、極上のトータルバランスだ。
キダ モティフォ
また、この日のセットリストは、主に2020年にリリースされたアルバム『真っ黒』と『10』の楽曲群で構成されていたのだが、最新のtricotのモードを堪能できた上で確信したのは、中嶋のボーカルとしての成熟ぶりだ。MCでは、「よそいき」の中でキダとヒロミがボーカルを担うシーンで観客がワッと沸くことを気にしていたという話から、「私も皆に認めてもらえるように、頑張って声出していきます」と控えめに語っていた。だが、シンプルなセッションの上で歌い上げる「なか」や「Potage」、音程の上がり下がりを優しく繰り返す「炒飯」などでは、彼女の声の力を十二分に感じたし、とくに最新曲「いない」のハイトーンは凄まじいものだった。
中嶋イッキュウ
ギリギリまで上がっているにも関わらず、豊かに響くボーカリゼーションと、重低音強めなパンチのあるメロディラインが重なり合うことで生まれる神秘性と独特な不穏さにゾクっとさえした。そして、この「いない」をきっかけに、キダのギターリフが牽引する「悪戯」と、爆発的なドラミングと捻り狂うベースが全身を突き動かす「おまえ」を続けてプレイ。フロアのテンションを一気に押し上げつつ、熱気が最高潮に達したところで「庭」を投下!本来であれば観客/メンバー全員で踊り騒ぐ楽曲だが、この日は中嶋とキダによるブレイクダンスバトルのようなものを披露 (途中、ヒロミのパラパラダンスも披露された)。
曲間にダンス対決(?)
楽器を演奏している時は、“孤高”と言い表せられるような堂々たる雰囲気を醸し出している3人だが、真剣かつ全力でオリジナルダンスをした結果、「内ももが痛い……」や「めっちゃ疲れた……ちょっと、皆でお茶しよ」と声を漏らしていて、本当にチャーミングな人たちだなと思った。そうした彼女たちの着飾らない人間性は、tricotが導いてくれる音楽世界の自由さやポップネスに通じているようにも思う。最後に、「会えて嬉しかったです。こういう形かもしれないし、前みたいな形かもしれんし、未知数ですけど、またみんなで楽しいことができたらいいなと思っています。今日は、本当に、来てくれてありがとうございました!tricotでした!」と中嶋が挨拶した後、「あふれる」と「真っ黒」の2曲をプレイし、本編を締め括った。
中嶋イッキュウ
熱望されたアンコールに呼ばれて再度ステージに登場したメンバーは、今年の9月26日に自主イベント『爆祭2021(-Vol.14-)』を開催することを発表。「今日来てくださった皆さんに、一番に伝えたかった」という愛のある報告に、観客は盛大な拍手で応えた。さらに「たくさん曲を作ったので、今日は沢山やらせてもらったんですけど、今も曲を作っています。なので、良いお知らせがまだまだ続くんじゃないかと思いますので、期待して待っていて下さい。これからもtricotをよろしくお願いします!」と、希望ある言葉を残し、最後に「暴露」をプレイして、“4度目の正直”となった念願の公演を終えた。

tricotのライブを観ていると、4人の音と声が織りなす設計図を探りたくなると同時に、その独創的な世界観に、何も考えずに身を委ねたくもなる。それはつまり、右脳左脳の両方が音楽にのめり込めている証拠なのだと思う。楽しいことをするのに躊躇したり、罪悪感が生まれたりしても仕方のない現代、こうして頭の先からつま先まで、全身で音楽に没頭できる時間の有難さや大切さをより強く感じるし、今ここにtricotが居てくれて良かったと、心から思えた一夜だった。
文=峯岸利恵

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