メロディーが好きな部分でもあるし、
こだわりが強い部分でもあると思う
一方で、CVの方が歌っている場合はそのキャラに合った抑揚が必要になってくるわけですよね。近藤真彦さんの「ハイティーン・ブギ」を作る時、作曲者である山下達郎さんはマッチさんの歌唱のレンジを把握した上で、メロディーを練ったという話を聞いたことがありますが、ヒゲさんがキャラソンを作る時も似たような作業なんですね。
そうですね。その人の美味しいところを引き出したいし、そもそも出ない音域もあったりするし、その範囲で作る作業はなかなか難しいものですけどね。
今、お話いただいたことと関係しているのかもしれませんけど、個人的にはメロディー展開が面白く感じたナンバーがいくつかありまして。特に「夢見サンライズ」。AからB、Bからサビはまだ分かるんですが、Aメロからサビメロが想像できないと言いますか、メロディー展開の予想がつかなかったんです。その辺はご自身ではどう感じられていますか?
確かに。今になってみると“あぁ、そうだな”と思いますね(笑)。自分としては特に違和感なく作ってるつもりなんですけど…何だろうな? 不思議ですね(笑)。
作家さんの中にはストックしているメロディーがあって、時にそれを組み合わせることもあるなんて話を聞いたことがありますが、そういう感じではないですか?
組み合わせてはいないですけど、この曲を作った時はA→B→サビという考え方が変わっていってたと思いますね。まったりと入りつつ、最後はワチャワチャ盛り上がるみたいな感じでつなげていったんだと思います。
でも、ちゃんと流れはあるんですよね。ただ、Aとサビを聴き比べると“こう展開するのか!?”という面白さがある。つまり、それだけ自然体で作曲されているということで。やはりヒゲさんはメロディーの人なんですね。
そうですね。メロディーが自分でも音楽をやっていて一番好きな部分でもあるし、こだわりが強い部分でもあると思います。
8bit音を使った楽曲を制作しているクリエイターと紹介されることもあるようですし、それはそれで間違いではないんでしょうけど、『ヒゲドライバー 10th Anniversary Best』(2016年1月発表のベストアルバム)を拝聴しても、どちらかと言えばメロディーメイクに比重が置かれている印象がありました。8bit音を使ったインストも収録されていますが、あれもメロディーがしっかり立ってます。
そうだと思います。インストを作っても歌モノっぽいと言われるし、“これは歌詞が付いてないんですか?”みたいなこともよく言われたりもするし(笑)。もともとメロディーがあるものが好きですね。昔のゲーム音楽が好きなところもあるんですけど、そこもメロディーを聴いていたと思うんですよ。
8bit音は好きだけれども、それがピコピコと鳴っているだけでは面白く感じないということですよね?
昔のゲーム音楽って3和音しか出せなかったところもあって、メロディーでちゃんと聴かせられないとBGMとして印象に残らないし、ゲームが楽しくないんですよね。そういう意味でも昔のゲーム音楽のメロディーってすごくいいものが多いんで、そういうところからも影響を受けてるんだと思います。
そうですか。ヒゲさんのルーツはゲームミュージックですか?
ゲーム音楽も好きなんですけど、本当に影響を受けたのは実はJ-POPで、スピッツ、Mr.Childrenとかなんですよ。
90年代のJ-POPですね。
90年代後半のJ-POPですね。初めて買ったCDがSpitzの「ロビンソン」だし。そういう世代です(笑)。それが小学校6年だったかな? そこから中2で自分も音楽をやってみたいということで、ギターを始めて…というところから入ってますね。
J-POPが一番華やかだった…というと語弊があるかもしれませんが、バンドブームでもありましたし、今挙げてもらった2バンド以外にもビッグセールスを記録するバンドが出ていた時期ですよね。
そうですね。完全にそこに自分のメロディーの原点はあると今でも思いますね。
今、思い出したんですけど、当時、Mr.Childrenの桜井和寿さんは15秒の中でどれだけ聴き手にインパクトを与えることができるかを考えて曲作りしていたという有名な話がありますよね。さっきのゲーム音楽の3和音もそうですし、アニソンの89秒もそうで、制約があったほうがいい曲が生まれるのかもしれませんね。
うんうん。だからこそ人に届く、人に響く曲ができていると感じますね。
で、ヒゲさんは中2でバンドを始めたということですけど…
あっ、バンドでないですよ。バンドではなく、フォークデュオを組みました(笑)。
ゆずが流行っていた頃ですか?
そうです。スピッツやミスチルだけを聴いていた時は、オリジナル曲をやりたい、自分で曲を作りたいとは思わなかったんですよね。やっぱり自分の生活とかけ離れているというか。そんな時、ゆずが出てきたんです。で、“これなら自分でもできるかも!?”と。あとになって“ゆずってすごい!”ってことを知ることになるんですけど、見た目がその辺のお兄さんたちがギター2本だけでやっているので、“これならできるかも!”と思ったという(笑)。
彼らは路上ライヴ出身ですしね。
ゆずにもいろんなタイプの楽曲がありますが、彼らもやはりメロディーの人と言えるでしょうから、ヒゲさんの指向は一貫していたと言えそうですね。
うん。そう思いますね。で、そこからパンクブームが起きるんですよ。メロコア、青春パンクですね。GOING STEADY、ガガガSP、銀杏BOYZとか、あの辺を聴いて、“パンクバンドをやりたい!”という方向へ移っていって…
えっ!? パンクバンドやったんですか?
いや、やらなかった…いや、やれなかったんです。当時、自分は大学生だったんですけど、サークルに入ってメンバーを集めようとしたんですけど、なかなか集まらず。何しろ僕は“音楽で食っていくんだ!”みたいなことを当時から計画していたので、それに乗っかってやれるくらいアツい人ってなかなかいなくて。大学のサークルは“楽しんでやれればいい”という感じなんで、そういう温度差もありつつ、なかなかメンバーが揃わず。で、“ひとりでできる音楽は何かな?”となった時にパソコンでピコピコ音楽を作り始めたのが、ヒゲドライバーの始まりという。
なるほど。とはいえ、その頃に“音楽で食っていくんだ!”というのは、かなり気合い入ってましたね。
やっぱり音楽が好きなので、一回チャレンジしてみたい気持ちがあったんだと思います。他の仕事をやりたい気持ちも特にないし、“本当にやりたいことは音楽かな?”ということから、そういう考えになったと思うんですね。
それまでライヴハウスで活動したり、コンテストに出たりすることはあったですか?
ないです。デモテープを送ったことはあったんですけど。
そのデモテープの反応はどうだったんですか?
ちょっとあったりしたんですけど、何もかたちにはなってなく、“どうするかな?”みたいな日々でしたね。
活動15周年を迎えた方にこう申し上げるのも恐縮ですが、根拠のない自信だけがあったということでしょうか?
あははは。まさに! 根拠のない謎の自信はずっとありましたね。なぜかよく分からないですけど、“こんなにいい曲を書いているんだから、もっと聴いてくれよ!”みたいな。今思えばヤバイ奴なんですけど(苦笑)。
でも、『ヒゲドライバー 10th Anniversary Best』に収録されている「チェリー」や「マイティボンジャック」、インストの「498Tokio」や「PULSE LASER」など、どれもとてもメロディアスですから、その根拠のない自信も分からなくもないです。
ありがとうございます。「マイティボンジャック」は初めて作った歌モノなんですよ。そういう意味では“何で誰もこの曲を聴かねぇんだ!?”って気持ちはありましたし、今聴いてもいい曲だと思うので、何かその自信にはそれなりに何かがあったのかな?
スピッツ、ミスチル、ゆず、メロコアと熱心に聴いてきて、自身のメロディーがそれらと同じとは思わないまでも、その地続きにあるものだという自信はあったんでしょうね。
いいものを聴いて生きてきた自分がいいと思ったものなんだからっていうのは、自信があったのかもしれないですね。
今回の『ひげこれ!』に限らず、ヒゲドライバーとしての作品が何作も世に出ているわけですから、その自信は間違ってなかったわけで。
いやぁ〜、ここにくるまでの道程は長かったですけどね(苦笑)。