城田優&クリスタル・ケイ「『ピピン
』日本版が一番良かったねって言わせ
たい」

ブロードウェイ・ミュージカル『ピピン』リバイバル版が、ついに日本人キャストで上演される。
『ピピン』はスティーヴン・シュワルツが作詞作曲を手掛け、鬼才ボブ・フォッシーによる演出と振付で、1972年にブロードウェイで初演。トニー賞5冠に輝いた名作として知られている。2013年にはダイアン・パウラス演出でリバイバル版が上演、サーカスをモチーフにした大胆かつカラフル、ド派手な演出で世間をあっと驚かせた。2015年の来日公演も大人気。きっと日本人キャストによる公演を心待ちにしていた人も多いだろう。
今回、この『ピピン』リバイバル版でピピンを演じるのは城田優。狂言回しを担うリーディングプレイヤーは、ミュージカル初出演となるクリスタル・ケイ。もともと友達同士でダンスレッスンに入った2人に、今の心境を聞いた。
ーー振付のチェット・ウォーカーさんは、城田さんについて「彼は(自分は)ダンサーじゃないと僕に言っていますが、彼はダンサーです。彼はダンスの才能があり、とても素敵なパフォーマーです。彼の仕事ぶりをテレビ等でも拝見しましたが、彼はピピンの役にぴったりだと思います。とても頑張り屋で、クリスタルとの空気感は見ていて、とても気持ちがいいです」とコメントしています。『ピピン』のダンスはフォッシースタイルが特徴ですが、ダンス稽古はいかがですか。
城田:めちゃくちゃ難しいです。僕よりクリスタル・ケイのほうが踊るシーンがたくさんあって、100倍大変だと思いますが。だから、無理なんて言っていられないと思いながら、でも無理! 稽古では、何このテンポ? って、二人で顔を見合わせています(笑)。
ーーこのダイアン・パウルス演出版『ピピン』は、サーカスをモチーフにしていますが、城田さんもアクロバット的な動きはありますか。
城田:登場シーンなどに少しありますね。もう、恐怖の連続です(笑)。やはりサーカスの要素がばっちり決まった上で、歌やダンスに入らないと。この半年で、できる限りのところまでたどり着きたいです。
去年、『4 Stars 2017』が終わった次の日から、『ブロードウェイと銃弾』のために、タップダンスの稽古をしまして。あなたは稽古1時間前に来なさい、稽古終わったら1時間これやりなさい! みたいなスパルタ教育で、約1カ月レッスンし、舞台上で遜色ないレベルにはタップを踏めるようになりました。観に来られた方たちに「タップ何年やってたの?」と聞かれて「1カ月です」みたいな(笑)。そんな経験があるので、シビアになりすぎず、でもしっかり取り組みたいです。
城田優
ーー最初に『ピピン』をご覧になった時は、どんな印象でしたか。
城田:まだ自分が演じると決まっていない時にブロードウェイで観ました。パティーナ・ミラーがリーディングプレイヤーを演じていて、エネルギッシュですごいなぁ! と。アクロバットがバンバン出てきて、まるでシルク・ド・ソレイユのショーを観ているようでした。普通のミュージカルとは違う感覚で、エンターテインメント要素が非常に多く、わーっ! おーっ! すごーい! と感嘆するばかり。同時に主人公ピピンの葛藤や、様々な人々との出会いで成長する様が描かれているので、ミュージカルファンだけではなく、アクロバットやサーカス、お祭りみたいなものが好きな方にもぴったりです。
ーークリスタル・ケイさんはフォッシースタイルで、実際に身体を動かしてみてどんな感想を持たれましたか。
クリスタル:実際に、初演版のフォッシースタイルがそのまま生かされているのは、「マンソン・トリオ」だけ。でも所々に、フォッシーっぽい動きがありますね。難しいけど面白いです。一つひとつの動きに意味があって。チェットが意味を説明しながら、振りを教えてくれるから納得できる。最初はこういった踊りは未知の世界でしたが、理解しながら取り組むうちに、どんどん身体に入ってきます。
ーーチェットさんはケイさんのことを「彼女は頭が良く、才能もあり、スポンジのように吸収し、完璧にこなします。ディレクターのように毎日メモを取ったり、この大役に懸命に取り組んでいる姿を見るととても嬉しくなります」とコメントしています。高評価ですね。
クリスタル:わぁ、嬉しい! 半年ほど前、ワークショップに参加した初日、すごく緊張したんですよ。私てっきり、優もいると思っていたら、私ひとり。演出補の方とチェット、アクロバットの先生などがいて、いきなりオーディションみたいに並んで、ゲームみたいなことをしました。「ステージ1、ステージ2、クリア!」みたいな。そして、フラフープ! 小学生以来やっていないのに、「ちょっと回しながら歩いてみて!」「ステップ踏みながら」「腕でやってみよう!」とか。「OK! You can do it! 次は空中ブランコ」って進んでいく(笑)。
ーーまるでサーカスですね。
クリスタル:空中ブランコをして、「では踊りに行きましょう!」と違う部屋に行ったらチェットがいて、いきなり「マンソン・トリオ」を踊ったんです。
ーーおお!「マンソン・トリオ」は、このダイアン・パウルス演出のリバイバル版の中で、最も初演版のボブ・フォッシーの振付が残っているナンバーです。いかにもフォッシー!
クリスタル:難しかったです。私、バレエやジャズのトレーニングをしたことがなかったので、申し訳ないなぁと。その上、まだ、チェットがどんな人かわからなかったから、すごく緊張して、「I don’ t have training」と言って。チェットはすごく愛があって、熱い人。そのチェットが、「君らしいリーディングプレイヤーにするから心配しないで」と言ってくれて、不安が一気に溶けました。
チェットの話では、パティーナもまったく踊れなかったとか。ミュージカル、特にブロードウェイの人たちは、生まれた頃から踊っていて、バレエも全部基礎が入っているイメージだったから、自分の経験のなさ、基礎のなさが不安だったんですけど。多分、リーディングプレイヤーとしては、技術よりキャラクターのほうが大事みたいで、ちょっと安心しました。
ビジュアル撮影より (左から)城田優、クリスタル・ケイ 撮影:GEKKO
ーー『ピピン』をご覧になった時はどう思われました?
クリスタル:4年前、ブロードウェイで観ましたが、こういうストーリーもあるんだって驚きました。ダークユーモアやセックスなど、エンターテインメントに様々な要素が幅広く入っている。またパティーナがすごく印象的でした。とにかくリーディングプレイヤーの存在感が強烈だった。その時、私は真っ黒な洋服を着て帽子をかぶっていて、劇場の外に出たら、「Can I get a picture?」って、出待ちの人たちに囲まれて。私、パティーナと間違えられたんですよ(笑)。まさか、4年後にその役が来るとは!
ーーすごいご縁ですね。 
クリスタル:優から、「ブロードウェイミュージカル、一緒にやらない?」と連絡がきて、はあ? 私全く経験ないですけど……って。
城田:最初はあまり、乗り気じゃなかったもんね。だから、大丈夫だよ! って。
ーー何が出演の決め手でしたか。城田さんのオススメだったから?
クリスタル:作品自体は『ピピン』だと後から聞いて、あれ? ブロードウェイで観た! と。
ーーしかも、同役のパティーナに間違えられたという。
クリスタル:そう、だからこれも縁だなって思いました。
城田:ケイの名前が挙がったので、「やろうぜ!」って誘ったら、「私、来年20周年だから、いろいろあるの。でも新しいことに挑戦するというのもありなんだよね」って。僕、ケイと同い年で13歳の時に芸能界に入り、実は来年がちょうど20周年。だから、なおさらいいじゃん! って口説いた。二人合わせて40周年、大御所感あるでしょ?(笑)
クリスタル:びっくりしました。優が20周年なんて、知らなかった。
城田:リーディングプレイヤーはピピンを引っ張る、大事な役どころ。ピピンは逆に彼女に染まり、導かれていく存在なんです。その意味で、リーディングプレイヤーはすごくエネルギーに溢れ、圧倒的に歌が上手い人でなければいけない。そんな人、滅多にいない中で、クリスタル・ケイ! オーマイガーッ! いたじゃん! って。
僕、あえて言いますけど、人のセンスを見るセンサーはあると思っているんです。いい人か悪い人かはよく騙されますけど(笑)、エンターテイナーとしてセンスがあるかないかは、割とわかる。ケイに関しては現時点で約束できるくらい、素晴らしいリーディングプレイヤーになると思います。
ビジュアル撮影より (左から)城田優、クリスタル・ケイ 撮影:GEKKO
クリスタル:うわぁ、頑張らなきゃ!
城田:僕も! 今まで僕が出演したミュージカルは、割ときれいなものばかり。『ピピン』はアクロバットやセットを含め、すごく豪華ながら、不気味さも漂う。きれいな赤だなと思っていたら、いきなり黒が混ざって濁った色になるように、あれ? って引っかかる要素が色々あって。観終わった後に、うわぁ、すごいもの見た! ってなると思う。クリスタル・ケイすごい! 城田優すごい! と思ってもらいたいし。「城田さんのトート(『エリザベート』の役)、本当にすごいです」って皆さん言ってくださるんですけど、いつまでもそれが最高になっているのが、自分では癪なんですよ。それ以降の役がそこを越えられていないというか。トート、トートと言われ続けてきたから、来年はピピン、ピピンって言われるようになりたいと思います。
僕にとって、こういう物語は新鮮なので、今まで観たことのない城田優のミュージカルを見せられたらとも思います。そこに、友達でもあり、初めてミュージカルに挑戦するクリスタル・ケイが、どんな色のエネルギーをぶち込んでくれるか。リーディングプレイヤーが出すエネルギーの色によって、共演の我々と客席が染まっていく。それが楽しみです。
ーーケイさんは『ピピン』の魅力はどんなところだと思いますか。
クリスタル:人間の素や本性がリアルに、描かれているところです。裏事情があらわになり、セクシーなところもいい感じに刺激的。そんな世界をリーディングプレイヤーは全てをコントロールしている。人間じゃないかもしれないけど、そんな彼女にも、あれ?! という瞬間が垣間見れたり。主軸は王子と王様の話ですが、一般の人にとっては、息子と父に置き換えられるかもしれない。みんな自分の人生を歩みたいけど、なかなかうまく行かずに悩んだりするでしょう? 人生にはチャンスやタイミングがあり、すごく怖いけど、最終的に自分が選ばなければいけないのは誰でも同じ。そんな話をサーカスと踊り、歌を交えて楽しめる。ザ・エンターテインメントですね。
ーーケイさんはそもそも、ミュージカルはお好きでしたか。
クリスタル:好きです。NYにいる時に観劇していました。知り合いが出演していることも多いので。
ーー城田優さんはどんな俳優さんだと思われますか。
クリスタル:『ブロードウェイと銃弾』を観たら、やるねえ~と思った(笑)。普段、優のふざけているところしか見ていないから。仕事をちゃんとしてるところを観たのは初めてでした。私、優がミュージカルにたくさん出ていることすら知らなかったので。
城田:意外とやるな、と(笑)。うん、頑張ってるから!
クリスタル:タップ、できるじゃん! って。すごくカッコよかったです。同じ業界の仲間が活躍しているところを見るのは、嬉しいし楽しい。リスペクトもできる。だから今回、いっぱい優先輩に教えてもらいたいです。
城田:もちろん、支えますよ。リーディングプレイヤーという役は一番大変だし、一番大事。初めてのミュージカルでわからないことは、全部サポートしたいと思っています。同時に僕も課題がたくさんあるので、サポートしてもらいつつ。このふたりが相乗効果で成長して、周りのキャストも巻き込めたらいいかな。
ビジュアル撮影より (左上から)クリスタル・ケイ、チェット・ウォーカー、城田優 撮影:GEKKO
ーー今回ピピンをやるにあたって、ケイさんから見た城田さんの魅力はどこだと思いますか。
クリスタル:優以外にピピン役をできる人はいないんじゃないかと思いました。見た目もキャラもぴったり。ピュアで常に好奇心旺盛な性格。優しくて、力強さもちょっと見えるところ。こんなに背が高くて顔がイケメンで、踊れて歌える人はあまりいないと思うから。
城田:僕、世界一背の高いピピンだと言われたよ(笑)。
クリスタル:アメリカのカルチャー的な部分にもいい気がしますね。多分、ジャパニーズ2人だったら、感じ方、役や振りの入り方も違うと思う。
ーーケイさんは初ミュージカルで、まだ公演もこれからなのに野暮な質問ですが。将来的にミュージカルをやっていきたいですか。
城田:公演途中くらいから、間違いなくクリスタル・ケイに何かしらのオファーが行くと思いますよ。確実に。だから僕は、自分の周りのセンスのある人や才能のある人たちに、ミュージカルにおいでおいで! って誘っているんですよ。
クリスタル:あなたがリーディングプレイヤーみたい(笑)。
城田:そうそう。僕が影のリーディングプレイヤー。将来的には、そういう人たちに僕が芝居をつけて、ミュージカルができたらと思うので。特に、今回ミュージカル初出演の人が隣にいてくれるのは、楽しみ。
『ファントム』では、山下リオちゃんが初ミュージカルでしたし、『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット役の人たちも全くの新人が多かった。そんな経験も踏まえて。
ケイの場合はちょっと違って、歌の世界で20年の経験値があるから、もう少しレベルの高いところで、向き合える楽しみもある。同い年で同じくらいの経験値を違うフィールドで積んできているからこそ、僕も信頼できる。きっと、いい感じに稽古が進んでいくんじゃないかな。
クリスタル:あぁ、なんか緊張してきた! 最初にオファーいただいたのが1年くらい前で、それから、今みたいにインタビューしたり、レッスンに入っている現状が信じられない。でも本当に感謝しています。なかなかこういうチャンスって来ないと思う。私が今までやってきたパフォーマンスとは全く違うから。届け方、歌い方、動きも全然違って、本当に勉強になります。私の20年間のキャリアで、一番のチャレンジでもあるので、優にも恥をかかさないように頑張ります。
クリスタル・ケイ
城田:僕はただケイが千秋楽に、本当にやってよかった! と思ってもらえるような作品にしなきゃいけないなぁと。
クリスタル:ブロードウェイのクリエイティブの人たちに、日本版が一番良かったね! って言って欲しい。
城田:そう思わせたいね。ミュージカルはどうしても過去の出演者と比べられてしまう。その点、今回はブロードウェイのクリエイティブチームが来るわけでしょ。僕たちが、ピピンやリーディングプレイヤーとしてどこまで魅力的になれるかが見せ場。東急シアターオーブは客席数が約2000人という大きな箱。その劇場の空間を僕たちが支配できるかどうかだと思います。
クリスタル:支配するでしょ! 大丈夫(笑)。
城田:おお! 女性は強い(笑)。
取材・文=三浦真紀

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