8月6日に捧げるミュージカルソングに
込められた世界平和への祈り『Livin
g Room MUSICAL』レポート

日曜日の昼下がりのクラシックコンサートとして定着している「サンデー・ブランチ・クラシック」をはじめ、ライブを堪能しながら食事やお酒を楽しめる様々な企画を発信している、eplus Living Room CAFE&DINING。渋谷道玄坂にある渋谷プライム5階のエレベータを降りると、突如オシャレな邸宅のリビングのような空間が出現するこのカフェに、劇場を飛び出したミュージカルスターたちが集い、歌い踊る好評企画『Living Room MUSICAL』。第三弾として公演された2018年6月25日の「エンタ“店員”メントの多い料理店」が喝采を集め、特別追加公演として8月6日月曜日の昼夜に「もっとエンタ“店員”メントの多い料理店」が開催された。
【動画】『Living Room MUSICAL~もっとエンタ“店員”メントの多い料理店~

■『RENT』を軸に新たに展開されるミュージカルナンバーの数々
なにしろ急遽企画されたアンコール公演だっただけに、告知から開催までのインターバルがとても短かったにも関わらず、会場のeplus Living Room CAFE&DININGは完売の大盛況。このシリーズの定番である出演者たちが、店のクルーとして、開幕を前に客席のテーブルを周りフード&ドリンクを楽しんでいるお客様と歓談する姿も堂に入ったものになっているなぁ…と感心しているところに、本日も「店長」を務めるエリアンナが登場。
声楽レッスンの為イタリアに留学中につき今回は参加できなかった星乃あんりから、店長宛ての「参加できなくて残念ですが、もっと歌を頑張って次の機会には必ず!」という内容の手紙が本人の声で朗読されるという凝ったスタート。同じく不参加となった吉武大地、荒田至法の手紙も朗読され、「わかった! わかった! 皆元気なのはわかってる! また集まるんだから!」とエリアンナが笑いながら返すと、突然BGMで『ジーザス・クライスト・スーパースター』の演奏が始まり、この「もっとエンタ“店員”メントの多い料理店」に初参加する男性陣、光永泰一朗、田川景一、木暮真一郎が登場。田川はなんと「神様」の扮装で、「あなたが落としたのは金のイケメンですか? 銀のイケメンですか?」と、両手に花ならぬ、両手にハンサム状態のエリアンナに迫る一幕も。そこからのオープニングは前回同様、往年の名作ミュージカル『アニーよ銃を取れ』から「ショーほど素敵な商売はない」。お客様からも早速手拍子が湧き起り、本日のクルー、青野紗穂、彩花まり、光永、田川、木暮、エリアンナ、そしてスペシャルタップダンサーのRON✕II(ロンロン)が紹介される。
続いてエリアンナが「次は『アニー』の「Tomorrow」」よ!と指示しているにも関わらず、神様から「エンジェル」に引き抜きの早替わりをした田川がミュージカル『RENT』のドラァグクイーン・エンジェルのナンバー「Today 4 U」を。伸びのある高音を武器にミュージカルの世界で大活躍している田川をはじめ、そういえば今日の出演者には、『RENT』経験者がとても多いな……という、構成へのヒントも与えられてから、今度こそ全員によるミュージカル『アニー』の主題歌「Tomorrow」が。アニーのトレードマークである、赤いくるくる巻き毛のショートカットのカツラをかぶって全員が歌う楽しさが弾ける。

そして、ブロードウェイでの舞台ミュージカル版がトニー賞でも注目された『アナと雪の女王』メドレーへ。アナに扮した彩花まりが「雪だるま作ろう」を歌う。前回はエルサ役を務めた彩花は、宝塚宙組で歌える娘役として活躍した人だが、在団時から大人っぽい個性の娘役とのイメージが強かっただけに、溌剌としたアナ役を愛らしさ全開で演じ歌うのか新鮮だ。続いてエリアンナのエルサが「待ってました!」の「レット・イット・ゴー」を。やはり『アナ雪』と言えばのこの曲が加わるのは、構成の座りを格段に良くしてくれる。振りとライトで世界観もダイナミックに表現され、エリアンナの芝居心にあふれたパワフルな歌唱が、ラストまで歌いあげられて終わるのが新鮮だった。

そこへ、前回は青野紗穂が歌った雪だるまのオラフのナンバー「あこがれの夏」を、なんと長身の光永泰一朗が果敢にオラフの着ぐるみを着て、本日の限定ドリンク「あこがれの夏」を手に歌う。歌手としてのアーティスト活動を展開していて、ミュージカル作品には『RENT』のコリンズでの出演がある光永が、そこに行くことは難しいからこそのオラフの夏への憧れを歌う姿に、飄々としつつの哀愁があり、これは豊かな聴きものになった。
そこからステージは一気に『RENT』の世界へ。やはり同作品でヒロイン・ミミ役を演じている青野紗穂がミミのナンバー「Out Tonight」を歌い上げる。舞台作品としての『RENT』を、実際にミミ役で経験している青野の迫力と、役柄になりきってのパフォーマンスは圧巻。客席から手拍子と大歓声が巻き起こった。
続いて、こちらも舞台オリジナル光永のコリンズと、田川のエンジェルで、二人の愛のデュエット「I'll Cover You」。決して奇をてらわず、シンプルに役柄と楽曲を届けてくれるのが滋味深さを生む。
すると「電気が消えた」という台詞から、全員での「RENT」へ。エリアンナと青野がマークとロジャーのパートを歌うなど、男女の壁を越え、全員が役になりきって場面が再現される。ステージと客席が至近距離にある『Living Room MUSICAL』にしかない、臨場感に満ちた圧巻のパフォーマンスが素晴らしかった。
その熱気を一瞬にして変えたのが、『マイ・フェア・レディ』の名曲中の名曲「君住む街で」による、タップダンサーのRON✕IIの小粋なタップダンスステージ。今回はステージもタップダンス用に高く設置されたエリアがあり、客席からも格段に華麗な足元が見えやすくなっている。ピアノとのセッションのような掛け合いも大人の雰囲気たっぷりで、後半の盛り上がりに大きな拍手が贈られた。
続いて、エリアンナ、青野、彩花がピーナッツの仲間たちになって登場。スヌーピーに扮した木暮真一郎による、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』の中でも、特に知られたスヌーピーのビッグナンバー「サパ―タイム」が歌われる。自由奔放で空想癖のあるスヌーピーならではの、食事の時間をエンターテインメントに昇華したナンバーが、この食べながら、飲みながらミュージカルナンバーを鑑賞する『Living Room MUSICAL』にピッタリ。女性陣の振付もとてもオシャレで、互いのアイコンタクトで盛り上がる楽しいナンバーになった。
そこから早替わりの木暮と彩花が残り、フレンチ・ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』から、主人公二人が永遠の愛を誓うナンバー「エメ」。新進二枚目ミュージカル俳優として注目されている木暮に、このロミオのナンバーがピッタリ。彩花のソプラノもリリカルに響き、聴くだけで涙が出るほど美しい珠玉のミュージカルナンバーを、美しいまま届けてくれる、妙なる時間だった。
そして第1部の最後はエリアンナのリードボーカルにRON✕IIも含めた全員が加わって、『メリー・ポピンズ』より「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」。今回から加入した新メンバーも練習を重ねたというパフォーマンスも見事に揃い、曲の持つ楽しさいっぱいの盛り上がりの中休憩となった。
■混沌とした世の中に光を差し込む信じる力の強さ
15分休憩のあとの第2部の開始は名曲の宝庫である『RENT』の中でも最も有名な曲だろう「Seasons of Love」の全員の歌唱からスタート。「52万5600分の1年をどう数えるのか?」この作品を書き上げ、ブロードウェイでのプレビュー公演初日に亡くなった作者のジョナサン・ラーソンが、人生において当たり前に過ぎてしまう1年がどれほど大切なものか?を訴えたこの曲は『RENT』のテーマそのものでもあり、実際にミュージカル『RENT』の2幕冒頭で歌われるナンバーだけに、2幕開幕にベストマッチ。力のこもった場面になった。
そのまま光永が残り「I'll Cover You (Reprise)」。コリンズが愛するエンジェルの葬儀の場で歌うナンバーで、光永はほとんど微動だにせず、コリンズの想いを熱唱。渾身の歌声に熱い拍手が贈られた。
その空気を瞬時に変えたのは、前回は2幕冒頭に位置していた『CHICAGO』の「All That Jazz」。ヴェルマ・ケリーのパートの青野と、彩花に田川が加わってのパフォーマンス。黒のタイトな衣装でそれぞれが客席にも濃厚に絡み、セクシー度もぐっと進化。2コーラス目では彩花もソロを取り、更に自由度の高いスタイリッシュな名場面だった。
そこにエリアンナが登場して『TOP HAT』から「Cheek To Cheek」。光永も加わり、英語歌唱の掛け合いもオシャレでかつパッショネイト。躍動感あふれるナンバーが繰り広げられた。二人が腕を組んで退場すると、同作品の「Puttin' on the RITZ」に引き継がれ、RON✕IIの鮮やかなタップダンスに。バンドメンバーである、ピアノの伊藤辰哉、サックスの山下綾香、ベースの内田大輔、ドラムの坂入康仁それぞれとのセッションが繰り広げられ、各パートが終わるごとに、大歓声と拍手がリビングルームカフェ&ダイニングを包んだ。
そんな熱い喝采の中に彩花と田川が登場。ミュージカル『ルドルフ』より「Something More」をデュエット。田川の雰囲気が前半とは打って変わった涼やかなものになったのが嬉しい発見で、前回に引き続いてこの曲に取り組んだ彩花も華やかさを増し、ヒロインの風格が生まれていて美しいデュエットを聴かせてくれた。
続いて如何にもアメリカのティーンエイジゃーの服装で現れた青野と木暮が『glee/グリー』より「Don't Stop Believin 」。信じることをやめないで! 自分を裏切らないで! と歌われる二人のデュエットが瑞々しく、青野のパワフルな歌唱から可愛らしさが立ち上ったのも新鮮。全体からも非常に良い配置になった。
そしてエリアンナが「まだ日本では上演されていないのですが、素晴らしい作品です」と紹介して、『The Color Purple』から「I'm Here」を。1900年初頭、奴隷制度解放から50年余りを経たのアメリカ南部ジョージア州の黒人社会を舞台にしたブロードウェイミュージカルで、「すべての困難は自分にとって必要なことだった、私は人を愛せる、私はここにいる!」とヒロインが宣言するビッグナンバー。前回の『Living Room MUSICAL』でも大評判になったエリアンナの歌唱は圧巻の一言。会場からスタンディングオベーションが贈られる白熱のパフォーマンスだった。
しかもその熱唱で終わらないのが、今回のアンコールバージョンで、更に全員で『RENT』の「Finale B」。女性陣、男性陣、入れ替わり立ち代わりながらの6人とはとても思えない大迫力の熱唱に、リビングルームカフェ&ダイニングは興奮の坩堝。喝采に次ぐ喝采の中、ラストはシリーズ大定番となった『ラ・ラ・ランド』の「Another Day of Sun」。「ここは渋谷!」のポーズで決まって、このシーンがすでに『Living Room MUSICAL』の看板として深化しているのを感じた。
鳴りやまぬアンコールに応えてエリアンナ、青野を中心に全員のコーラスで『The Greatest Showman』から「This Is Me」。自己を肯定する、どこかに疎外感を抱いている人を勇気づけるビッグナンバーを、出演者が会場全体を巻き込んで歌い、手拍子と喝采でこの空間にいる全員がひとつになっていく、特別な時間が過ぎていった。
この1日限りのステージに対して木暮が「スペシャルな方達と、温かいお客様と、オシャレな場所で歌えて本当に幸せでした」と語ると、田川が「8月6日というこの日に、こういうステージができる、今の時代に生きていることに感謝します」と、今日この日のステージの意味を噛みしめる。光永も「『RENT』が描いた世界の平和をこの日に届けられて嬉しいです。1日限りでなく1週間でもやっていたいステージ」と述べ、彩花が「再びできるとは思っていなかったので嬉しかったです。前回とは違う曲を歌ったり、新たな皆さんと新たなものになりました。『Living Room MUSICAL』がずっと続きますように」と願いを込める。
その『Living Room MUSICAL』にこの日まで皆勤賞の青野は「劇場で上演するミュージカルと客席の間にあるものを取り払って、皆さんの中に入れたことが嬉しいです。皆さんがいてくれてこそのステージ、ありがとうございました!」と客席への謝辞を伝え、RON✕IIも「今回は足元が見えるステージにしてもらえて、良いスパイスになるように夢中で頑張りました。言霊を信じて言葉にします、またやりたいです!」と意欲的。2回に渡って「店長」を務めたエリアンナが、「『Living Room MUSICAL』はeplus Living Room CAFE&DININGの皆さん、演出の岡本寛子さんはじめスタッフの方々、そして皆さんあってのステージです。感謝しています!」と感慨いっぱいの挨拶を締めくくった。
最後に、エリアンナの芸能生活初となるワンマンライブもこのeplus Living Room CAFE&DININGのクリスマスシーズンに開催されることが決まった!というサプライズな朗報も伝えられ、「世界の平和と『Living Room MUSICAL』が続くように、そして皆さんにご多幸を」の音頭で全員でグラスを挙げて乾杯!1日限りの特別なステージが終わりを告げた。
全体に、前回よりも格段に練り上げられ、グレードアップしたステージで、「アンコール公演」と銘打ったことで、同じ内容なら今回はいいかな?と思ってしまった方がいたとしたら、本当にもったいなかった!と思えたほどの内容で、『Living Room MUSICAL』の進化が感じられた素晴らしい1日となった。何よりも「世界に平和を」という、とても大切なメッセージを、エンターテインメントとして届けられるミュージカルナンバーの力を、改めて示したのが嬉しく、<8月6日・月曜日>という日に開催された意義に深く想いを致すステージになっていた。ますます進化する『Living Room MUSICAL』から目が離せない! 次回公演(下記「公演情報」参照)も楽しみである。
取材・文=橘涼香  写真撮影=上溝恭香

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