フェスティバルホールで聴く、海外メ
ジャーオーケストラによるピアノ協奏
曲の競演

命の危険を感じる酷暑の夏が通り過ぎ、芸術の秋がやって来た!
日本を代表する芸術・エンタテインメントの殿堂フェスティバルホールには、例年にも増してクラシックファン垂涎ものの、とびっきりゴージャスなラインナップが並ぶ。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、フランツ・ウェルザー=メストの指揮で2年振りに登場。
フランツ・ウェルザー=メストはフェスティバルホール初登場 (c)Michael Pohn
大阪国際フェスティバルの一環として行われるロンドン交響楽団とミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団は、前者が今一番聴きたい組み合わせではないだろうか、サー・サイモン・ラトルの指揮で、
ベルリン・フィルからLSOへ。更なる活躍が楽しみなサー・サイモン・ラトル (c)Johann Sebastian Hanel
そして後者はワレリー・ゲルギエフの指揮で登場する。
3年振りの来日となるゲルギエフとミュンヘン・フィル (c)Marco Borggreve
外国の人気オーケストラが待望の来日を果たすと、プログラムには「新世界より」や「運命」といった人気の曲が並ぶパターンがまだまだ多い大阪だが、大阪国際フェスティバルはチャレンジングな曲を取り上げてくれるのが嬉しい。

事実、ロンドン交響楽団はバーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」とマーラー交響曲第9番という超ド級のプログラムだし(関西限定プログラム!)、
英国最高にして世界屈指のオーケストラ、ロンドン交響楽団 (c)Ranald Mackechnie

ミュンヘン・フィルはブラームスのピアノ協奏曲第2番とブルックナーの交響曲第9番と、こちらもスケールの大きなプログラムが並ぶ。
欧州屈指の名門オーケストラ、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 (c)Wildundleise.de
一方ウィーン・フィルは、モーツァルトとブラームスという彼らが得意とする直球勝負のプログラム!

日本でも絶大な人気を誇るウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (c)Loisl Lammerhuber
今年のプログラムの特徴として挙げられるのが、3つの公演すべてにピアノ協奏曲が並んだこと。もちろんピアニストはこの豪華なオーケストラの日本公演に相応しい新旧スターが勢揃いする。
言うまでもなくピアノは、オーケストラのすべての楽器の音をカバーする音域があり、重厚な響きもロマンチックなメロディーも自在に演奏出来る一人オーケストラなのだ。そんなピアノとオーケストラとの協奏曲は、まるで二つのオーケストラが対峙し、時には協調し、時には反駁し合うようなスリルに満ちた演奏を体験する事が出来る。そう、ロマンチックなメロディーなど、ピアノで旋律を奏でた後、オーケストラでもう一度そのメロディーを繰り返すと効果は覿面。ピアノとオーケストラが丁々発止遣り合った後、一転してカデンツァではピアニストがテクニックを思う存分駆使し、自分の音楽を主張する。30分から40分の曲の中で、両者の見せ場、聴かせどころが満載。ハラハラドキドキ、思いっきりハートを揺すぶられて…。ピアノ協奏曲が女性に人気の理由がわかるような気がする。今回のようにメインの曲がマーラーやブルックナーなら、ピアノ協奏曲をプログラムに組み込む理由は頷ける。
ロンドン交響楽団に帯同し、バーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」というピアノ協奏曲的な作品で独奏を行うのはクリスチャン・ツィメルマン。
バーンスタインと強い絆で結ばれたクリスチャン・ツィメルマン (C)Kasskara and DGG
彼はバーンスタインが晩年、共演・録音をする唯一のピアニストとして知られ、もちろん「不安の時代」もバーンスタインと共演している。そしてバーンスタインは「自分が100歳の時にもう一度一緒にこの曲を演奏しよう!」とツィメルマンと話していたそうで、彼の生誕100周年のアニバーサリーイヤーの今年、形を変えて約束が果たされる事となった。ツィメルマンとラトルは昨年から世界15都市で「不安の時代」を演奏し続け、CD録音も行っている。いよいよ大阪で待望の「不安の時代」が聴ける日は近い。
一方、ミュンヘン・フィルに帯同するピアニスト、ユジャ・ワンは、クラシックファンが現在いちばん聴きたいピアニストの一人では無いか?
若手ナンバーワンピアニストとして人気、実力を兼ね備えたユジャ・ワン (c)Kirk Edwards
彼女の演奏は、強靭なテクニックと若さ溢れる新鮮な想像力に支配され、そのスケールの大きな音楽は聴く者を夢中にする。そしてあの大胆で華やかなステージ衣装と、ステージ上でのカリスマ的な存在感は観る者を魅了する。今回演奏するのはブラームスの大曲ピアノ協奏曲第2番。カリスマ指揮者ゲルギエフと向き合うことで、彼女のピアニストとしての可能性は最大限に引き出され、前代未聞のブラームスが聴けるものと確信している。
ウィーン・フィルはこれまでに何度も共演を重ね、信頼関係にあるラン・ランを日本公演のソリストに迎えた。
今年の夏、腱鞘炎からの完全復活を遂げたラン・ラン (c)Yann Orhan
昨年の春から1年以上に渡り、腱鞘炎で演奏活動を中止していたラン・ランは、今年のタングルウッドやルツェルンの音楽祭に出演し、モーツァルトのピアノ協奏曲第24番を演奏して復活を遂げた。昨年の日本公演をキャンセルしていただけに、待っていたファンも多かったのではないか。完全復活したラン・ランをライブで、しかも今年になって弾き込んでいるモーツァルトのピアノ協奏曲第24番で聴けるのは、ファンならずとも嬉しい事。最高のオーケストラと最高のピアニストによる極上のアンサンブルを聴き逃す手は無い。
ピアノやヴァイオリン、オーボエ、トランペットなどが楽器ならば、ホールもまた楽器。オーケストラの様々な楽器と同様に、ホールもその日の天候や客の入り具合などで響きも違えばバランスも違う。フェスティバルホールが大阪の街に戻って来てから5年以上が経過し、ホールの音もエイジングなどによりまとまって来た。
‘天井から音が降る’と称されるフェスティバルホール。ステージ上から見た客席
旧ホールから定評のある“天井から降り注ぐ音”に加え、音響反射板と壁面の拡散体から生まれる側面からの音が強化されたことで、どの席で聴いても本当に素晴らしい。残響が何秒だから凄い!という事ではなく、鳴った音が大空間で溶け合って確実に客席に届くと云う意味において、フェスティバルホールは理想的な音響を有している。おまけに客席数2700席というのは海外から著名なオーケストラを呼ぶ側からすると興行的にもありがたいという事になるのだろう。結果、人気のオーケストラの演奏会がフェスティバルホールに集中し、今宵もフェスティバルホールに通ってしまう。
フェスティバルホール3階席からみたステージ。
最高の指揮者が率いる最高のオーケストラ。そこに最高のピアニストが帯同し、最高の演奏を聴かせてくれる。当然会場となるのは、最高のホールでなければならない。
これこそがクラシックなのではないだろうか。
古典という意味でのクラシックではなく、最高クラスの、一流のという意味の、そう、競馬などでいうクラシックレースのクラシック。
文=磯島浩彰
CDやDVD、テレビ、YouTubeで聴いていた最高のオーケストラに触れるチャンス!
コチラから高い旅費を注ぎ込んで出掛けて行くのではなく、向こうから勝負曲を引っ提げ、一軍メンバーが大挙して私の街にやって来てくれる幸せと言ったら…。
この機会を逃すのは本当にもったいないと思うのだが。

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